第208話 水も滴る
集落に戻った俺たちは、まずは下水道でついた汚れと臭いを落とすため、奥様方が洗濯をしていた水路へと赴いた。
「ああ、もう我慢できない」
綺麗な水が流れる水路が見えた途端、シドは大声を上げながら麻袋を放り、着ている服を乱暴に脱ぐと、
「いやっほおおおおおおおおおおおおおおおいっ!!」
奇声を上げながらそのまま水路の中へと飛び込む。
「お、おい、シド……」
シドが放り投げた遺品が入った麻袋と、彼女が着ていたジャケットとチュニック、そしてホットパンツを拾いながら俺はどうしたものかと顔を伏せる。
正直なところ、俺も服がベトベトで肌に張り付いて気持ちが悪く、鼻が麻痺してよくわからないが、おそらくかなり臭うと思うので一刻も早く体の汚れを落としたいのだが……、
流石にシドに倣って服を全て脱ぎ、一緒に水路に入って体を洗うのは気が引ける。
だってそうだろう。俺たちは家族として付き合っていく約束はしたが、まだ男女の関係になったわけではない。
一緒のお風呂に入るのは、もっと親密な関係になってからだろう。
そう思っていたのだが、
「お~い、コーイチ。お前も早く来いよ!」
水路に入ったシドからまさかの声がかかる。
「何をしているんだ。早くしないと、服に匂いが染みついちゃうぞ」
「あ、ああ……わかってる」
そうは言われても、俺はシドの方を見ることができない。
何故なら、シドが着ていた衣服は俺の手の中にあるわけで、ということは今の彼女の格好は……、
俺は思わず顔を赤面させながらどうしたものかと考えていると、
「おい、早く来いって」
シドが水路から上がって来て、背後から俺の首根っこを掴む。
そして、
「ほらよ!」
シドは俺を腕の力だけで軽々と持ち上げて水路へと放る。
「わ、わあああああぁぁっ!?」
相変わらずシドの人並外れた怪力に驚きながらも、俺はザブン、と水の中に落ちる。
「――っ、ぶはぁ!? ゲホゲホ……」
ヤバイ、思いっきり鼻に水が入った。
俺は飛び上がるように水の中から顔を出しながら、鼻の痛みに顔をしかめながら思いっきり咳き込む。
「ハハハッ、どうしたコーイチ。面白い顔になっているぞ」
「…………むっ」
人を川へ投げ込んでおいて、盛大に笑うシドに俺は少しカチンと来る。
せっかくシドのためを思って見ないでおいてやろうと思ったのだが……
こうなったらもう知ったことか。
俺は意を決すると、未だに高笑いを続けているシドへと顔を向けることにする。
「ハハハッ、どうだ。気持ちいいだろう?」
顔を上げると、仁王立ちでこちらを見下ろしているシドと目が合う。
「…………あれ?」
「フフン、どうした?」
俺の視線に、仁王立ちのシドは唇の端を吊り上げてニヤリと笑う。
てっきり裸になったと思ったシドは、黒色のスポーツブラとショーツのような薄手の下着を身に付けていた。
「コーイチ、顔が赤いぞ? まさかあたしが裸になったと思って、わざわざ見ないようにしていたのか?」
「い、いや、その……はい」
まるで俺の心を見透かしたかのようなシドからの言葉に、俺はぐうの音も出なかった。
いや、実際シドは裸ではなく下着を身に付けていたのだが、それでもかなり目のやり場には困る。
いつもの俺ならシドのことを遠慮なく見ていただろうが、彼女は家族として一緒に過ごすと決めた間柄だ。今後のことを考えると、果たしてあられもない格好の彼女を直視していいのかわからなかった。
どうしていいかわからず、水路から這い上がったところで赤い顔をして俯いていると、
「……フッ、やっぱコーイチっていい奴だよな」
シドの方から俺の方へとやって来ると、肩に手を回して俺を抱き寄せながら笑う。
「まあ、なんだ……これぐらいの格好はあたしにとっては日常茶飯事だからさ……」
「……慣れろって?」
「そういうこと」
そう言ってシドは可愛らしくウインクする。
「だからさ、あたしはこの格好をいくら見られても恥ずかしくないから、コーイチも気にするな。いいな?」
「わかった……」
そういうことなら仕方ないな。
「なら、遠慮なく……」
そう言った俺は、大きく頷きながらシドの体をまじまじと見ることにする。
裸ではないと言っても、シドの肢体を包むのは薄手の布だけで、彼女の豊かな胸やくびれたウエスト、安産型の丸みを帯びたお尻といった女性らしい凹凸のあるラインに、ゆらゆらと揺れる尻尾は素晴らしいの一言に尽きる。
「お、おい……」
さらには引き締まった腹筋から見える控えめなへそ、そしてなにより鼠径部といった普段は隠れている部分が見えているだけで何だか興奮してくる。
「おいって、コーイチ。聞いているのか?」
濡れた髪が額に張り付き、赤い顔で少し困ったようにこちらを睨んでくるのも、普段の強気な態度とはまた違った魅力に溢れている。
……うん、相対的に言うと、実に健康的で美しい。
俺は何度も頷きながら、シドの肢体を上から下までマジマジと舐めまわすように見ていると、
「…………お前、やっぱり少しは遠慮しろ」
顔を赤くさせたシドが、恥ずかしそうに自分の体を隠しながら俺の胸をもう片方の手で押す。
「わ、わわっ!?」
その力は思ったより強く、俺は再びひっくり返って盛大に水を飲んでしまうのであった。
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