第188話 賞金首になりました
「……どうだ?」
「うん、大丈夫……だと思う」
ゆっくりと立ち上がった俺は、何度かその場で足踏みしながらシドに頷いてみせる。
流石にスープだけでは腹を満たすことはできなかったが、少しでも栄養を取り入れたことで、俺は自分で立ち上がれるくらいまでには回復した。
だが、自分の力で歩けるほど回復してはおらず、俺は壁に背を預けながら素直に現状を告白する。
「でも、正直に言うとまだ腹ペコだけどね」
「悪いな。実は今日の分の飯は既に食っちまった後だったから、残り物のスープしか用意できなかったんだ」
「いや、いいよ。こうして自分の足で立てただけでも感謝し切れないくらいだ」
俺は気にしていないと、ゆっくりとかぶりを振る。
空腹は相変わらずだが、おそらく下手にアラウンドサーチを乱発しなければ、動けなくなるようなことはあるまい。
どちらかというと、空腹より体に疲労がかなり溜まっているのがわかるので、今は食事よりも睡眠を取るべきだと思った。
一先ず自分の体の調子を確かめた俺は、シドに改めて礼を言う。
「シド、本当にありがとう。君がいなかったら俺は今頃死んでいたよ」
「気にするな。困っている者を助けるのは、あたしたちにとっては当然のことだ」
シドは唇の端を吊り上げてニヤリと笑うと、俺の胸に拳を当てて確認するように問いかけてくる。
「それで、コーイチはこれからどうするんだ?」
「どうするって?」
「決まってるだろう。これからの生活のことだよ」
首を傾げる俺に、シドは自分の豊かな胸を叩いて笑顔を見せる。
「もし、コーイチさえよければ、あたしたちと一緒に暮らさないか?」
「えっ……」
それは思わぬ提案だった。
「でも、それってシドたちに迷惑がかかるんじゃないのか?」
ミーファはともかく、シドとソラは年頃の娘だ。
そんな女所帯の家に、男であり、血の繋がりも何もない男の俺がいきなり入ってもいいものだろうか。
それに生活も決して豊かとはいえないだろうに、そこへ俺一人がそこに加わることで生活を圧迫する要因になってしまうのは、命を助けてもらった彼女たちに悪いと思った。
だが、そんな俺の不安に対し、
「迷惑も何もあたしたちは気にしないさ」
シドは笑顔で一蹴してみせる。
「それよりコーイチをこのまま何処かにやる方がよっぽど気がかりだよ」
そう言うと、シドは俺の胸に当てている拳を開いてみせる。
すると、中から四つに折りたたまれた紙片が出てくる。
「これは……」
「今さっき、外から戻って来た奴が持って来たものだ。街の至る所で配っていたらしい」
そう言って開かれた紙片には、何やら文字と何者かの人相が書かれていた。
人相は何処かで見たような気もするが、とりあえず書かれた文字を必死に読んでみる。
「えっと…………て…………は…………いしょ…………手配書?」
「そうだ。それはコーイチ、お前の手配書だ」
「ええっ!?」
そう言われて俺は、手配書を食い入るように見る。
シドによると、俺はネームタグを持たずに街に侵入した極悪人で、生死問わず捕まえることができたら、金貨百枚の報酬が得られるというものだった。
どうやら処刑場から逃げた先で見知らぬ男たちに襲われたのも、既に俺の手配書が出回っていたからのようだ。
「でも金貨百枚って……そんな大金、誰が払うんだ?」
「さあな? 書かれていないということは秘密なのか、はたまたそんな奴はいないのか……そもそもこれだけの大金だ。そう簡単に払える額じゃないし、本当に払われるかどうかも眉唾ものだな」
だから、この手配書を信じて行動に移す奴は少ない。シドはそう考えているようだった。
だが、実際のところ俺は既に一度、名前も知らない男たちに襲われているし、この手配書の真偽に関わらず、金に目がくらんだ者に命を狙われる危険は常に孕んでいると考えるべきだろう。
「だけど、この手配書が本当だったとしても、俺にそれほどの価値があるのか? そもそも、俺には戦う力なんてないのに……」
「それについてはなんとも言えんな……だが、この手配書を出した奴は、是が非でもコーイチに生きていてほしくないようだな」
「俺に……生きて…………」
いつの間にか、見知らぬ誰かからそんな恨みを買ったのかと思うと体が恐怖で震えそうになるが、俺は手配書に書かれた自分の顔を眺めながら、この手配書を誰が用意したのかを考えてみる。
おそらくだが、この手配書を用意したのはブレイブだと俺は思っている。
俺がクラベリナさんとただならぬ関係になっているんじゃないか。そう勝手に思い込んでいるブレイブは、事あるごとに俺のことを敵視していると泰三が言っていたから、その可能性はかなり高いと思った。
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