第三章 『ホリスト聖堂』
第三章 1.懸念
分厚い暗い雲が上空を埋め尽くし、波は激しく岩盤へ打ち付けられていた。
そんな波打ち際近くには空と同じ色の石造りの建物が聳え立っている。
その高い位置にある窓からは怪しく光る灯火が漏れ出し、怒り狂った男の声が響き渡った。
「サガラがやられただと!? くそっ! あいつが弱い、弱いからだ! 弱いのが悪い!!」
ヒードだった。
青黒い長髪から覗く目の下には濃いクマを作り、
あの時、
ティスタが倒れた夜からこのゴル城の玉座に座り続けている。
そしてその姿は、あの頃と変わらぬ姿だった。
「ティスタの生まれ変わりなんぞよこしおって……懲りない奴め……。だが、これは時が到来したということだ……! 次こそは……行け!」
そう誰か伝えると、急に波音が静かになった。
ほら、またやってくる。
あの嵐が。
――
「おい、付き合えよ」
エダーから、今日も打ち込みのお誘いだ。
あれから若干ではあるが、彼からの対応が変わった気がする。
相変わらずお前だのコイツだのうるさいが、前よりはマシだ。
少なくとも以前のような恨みつらみでもある酷い攻撃は無くなった。
だが、相変わらずリラと仲良くされるのは気に入らないみたいだ。
ただ話してるだけなのに。
「なぁ、なんでそんなにリラと話したら怒るんだよっ!」
この木刀をエダーの体に何度も入れようとするが、やはり隙が見えない。
「はぁ!? なんでって嫌だからに決まってんだろ!」
エダーからの反逆が始まる。
「なんで嫌なんだよ! オレはただ話してるだ、け、だ! いでっ!」
エダーの木刀が強く右腕に入る。
折れてるんじゃないか、という程酷く痛い。
「それが嫌だって言ってんだろ!? 理解力ねぇな!」
言ってることがめちゃくちゃだ。
とにかく死ぬほど嫌だってことぐらいしか分からない。
自身はしつこいほうではないが、なぜか悔しさが溢れ、ここでは食い下がった。
「普通に話してるだけだろ!? いちいち突っかかってくるのは、やめろ!」
「嫌だな!」
まるで子供同士のケンカだ。
自分でもここまでムキになるとは可笑しくなる。
同時に木刀を握る手にも力が入る。
エダーも同じようだ。
どんどんと打ち込みのスピードが上がり、彼からの攻撃力も強くなっていく。
「何が嫌なの?」
突然現れた本人登場に、思わず二人ともだんまりと塞ぎ込み、激しく打ち合っていた木刀をピタリと止めた。
今日のリラはいつもの鎧を脱ぎ捨て、気品溢れるシャラリとしたラベンダー色のドレスを身にまとっていた。
いつも見えないせいか、その腕や首筋、胸元の白い素肌が余計に目を引く。
「急に黙り込んで何よ。何かまずい話でもしてたわけ~?」
「違う! コイツと話なんてしてねーからな。ちょっと休憩だ!」
(さっきまであんなにムキになって喋ってただろ!?)
突っ込みたい気持ちも大いにあったが、色々とアレだからここは黙っておこう。
あれから皆ホリスト城へ戻り、次の戦闘への準備に備えている。
前回の戦いから色々と分かったことがあった。
ホリスト鋼で作られたこのティスタの剣に秘められている力で魔物は切れば、チリとなり消えるということ。
そしてサガラのように、人間から魔物になった者がこの世にいるということ。
目印はあの黒い稲妻のような刻印だ。
それがバーツの胸にもあった。
ということはバーツも契約者であり魔物だと言う事だろう。
そしてそのバーツが火の精霊サラマンダーに助け出されたという事実に皆戸惑いを隠せないようだった。
なぜだ、一緒に戦ってくれた土の精霊ノームは明らかに味方だった。
そしてセーレを助けたという水の精霊セイレーンもそうだ。
だがあの火の精霊は、明らかにゴル軍のバーツを助けたのだ。
それに、サガラもバーツも自身がティスタの生まれ変わりだということも知っていた。
木陰で休みながら色々考えてはいたが、
「なぁ、あの時、サガラもバーツもオレの事知ってたよな……」
「えぇ、ケイスケがティスタの生まれ変わりだということが知られていたわ。ゴル帝国がかなりの情報を掴んでいることは間違いなさそうね」
自分がまるでここへ来る事が分かっていたかのように、次々に色んな事柄が起こった。
(……まさか、自分が皆を危険にさらしているのか……?)
「あのさ……オレのせいで……」
「ケイスケはここにいていいからね!」
まるで自分の発する言葉を全部聞いたかのようにリラが被せてくる。
白魔法にはまさか読心術でもあるのだろうか。
「……あぁ、ありがとな」
「ねぇ、今日私、
「おい、リラ! あそこは王族と認められた兵士しか入れないだろ」
リラの横へどっしりと座っていたエダーがいつものように会話を割いてくる。
「あら、ケイスケは特別でしょ。なんてったってティスタの生まれ変わりなんだから。今じゃホリスト王国中の噂だしね!」
リラはちょっと意地悪な笑みを浮かべ楽しそうにこちらを見てくる。
そう、あの前回の戦いで精霊の技を目の当たりにした兵士達によって、あっという間に国中でティスタがまた救いにやってきたと噂されているのだ。
自分にとっては、穴があったら入りたい程だ。
それに、ティスタはこの国を救ってはいない。
そう、救えずに倒れたのだ。
なのにここまでなぜ称えられているのか、不思議なくらいだ。
「リラ、オレも行かせてくれ。妹のことももしかしたら分かるかもしれない……」
いおりはあれから、どうしているのだろうか。
いおりにもし
「オレも行くからな」
こちらへ睨みを聞かせるエダーに、先程の打ち合いの続きが思い出されたのだった。
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