48 絆


「……良かった」

 ジョインが安心からか、涙を流しながら喜んでいる。エイトも抵抗は諦めたようだ。その隣でクロードが、崩れるようにその場に座り込んだ。

 ロックの笑顔に微笑み返すレイルとルーク。この空間独特の青い光に照らされた二人の表情は、明るい。二人は頷く。

「私にとって何よりも大切なのは、親友である二人だ。だから、ロックの為に手を汚すことに躊躇いもないし、後悔もない」

「俺達はいつも……これからも一緒だ。この絆は一生切れることはない……そうじゃなかったら、今までは、何の為の親友だったんだ?」

 二人の言葉にロックの頭が急激に冷える。二人の強い視線は――何かを覚悟している。ロックは唐突に気付いてしまった。

――僕はまた、二人を巻き込もうとしている。

「私達は、大丈夫」

 レイルがもう一度頷き、拳銃を持つ手に力を込める。ぎゅっと握り締められた拳銃が、小さく震えている。それを横目で確認し、ロックは改めて酷な運命に友を引き込んでしまった自分を責め、そして感謝した。

 コヅチを振り上げながら、その“重み”に耐えられずにロックは頭を垂れる。俯いたロックの顔から、数滴の雫が零れ落ちる。

「行こうか……」

 小さく呟かれたその言葉に、レイルとルークは頷き、ジョインは三人のやろうとしていることに気付き、目を見開く。

「誰にも邪魔されない、僕達の理想に……」

「やめて――っ!!!」

 ジョインが悲鳴を上げながらルークにしがみつこうとする。そんな彼女をルークは、優しい顔でやんわりと押し退ける。そのまま銃口をジョインに向け、ゆっくりと噛み締めるようにして言葉を紡ぐ。

「多分、本当に大好きだった……こんな出会い方じゃなくて、順番が違ったら……絶対に君が一番だった」

 そこまで言って、ルークは自分の感情に身を任せることにしたようだ。流れる涙はそのままに、ルークは続ける。

「俺には一番大切な人がいるから、君はここで、大人しくしててくれ」

 最後は頼み込むようにして、搾り出した言葉。泣きながら動けなくなった彼女を確認して、ルークはもう一度ロックに向かって頷いた。

 それを確認しロックは、笑顔でコヅチを振り下ろした。その瞬間、コヅチを中心に白く輝く光が放たれた。










 一瞬の間に、破壊的な量の光が空間を満たしていく。

 そんななか、クロードは自分を見詰める黒い三つの瞳を見ていた。無機質に近いその黒点は、自分をせせら笑っているように見えて不快だった。

――息子が死のうとしている。

 その事実は、クロードの薄い理性を剥ぎ取るには充分だった。自分の本性など、既にバレてしまっている。何も、隠すことはない。自分の息子には、他人を蹴落とす人間になって欲しいのだから。親として、伝えなければならない言葉がある。

「聞こえるかロック!!」

 強過ぎる光によって、姿を確認することは出来ないが、言葉なら伝わるはずだ。空間が歪むなど、そういうおかしなことがない限り、自分の目の前に息子はいる。親だからわかる。わかるのだ。

「お前は人の上に立つ人間だ!! お前は自分の為に他者を犠牲にすることはあっても、己を犠牲にしてはいけない!!」

 声の限りに叫ぶ。自分の声帯が張り裂けようが、息子の命の方を優先するに決まっている。

「邪魔をする者は全て排除しろ!! 自分が生きる道を力ずくで手に入れろ!! それがお前の――」

 そこまで言いかけてクロードは、目の前の瞳に変化が生じたのがわかった。煙のようなものを上げて、何かがクロードに向かって飛んで来た。

 それは大きな鉛の塊で、クロードをそのまま吹き飛ばした。倒れながらクロードは、今更ながらに気付いた。

 黒点は“三つ”だった。つまり、対の瞳と銃口だったのだ。

 光が赤く染まり、意識が急激に遠退いていく。命を奪う銃声は、やけに大きく響いた気がする。

 流れる血のリズムをレクイエムに感じながら、クロードは最期の問題に取り組むことにした。

――いったい誰が撃った?

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