第5話



 杉村先輩はようやく自分が笑われていることに気付いたのか、眉を顰めた。そして低い声で「何がおかしい?」と尋ねてくる。

 私は笑い過ぎて出てきた涙を拭きながら、その疑問に答えた。


「誰も、これが鍵の在処を示したヒントだなんて言っていないじゃないですか」


 杉村先輩は、眉を顰めたまま首を傾げる。


「でも、君が言ったんじゃないか。これは神矢家の前で拾ったと。それが本当ならば、鍵の在処を示したヒントに違いないだろう」


 私はチッチッチッと舌を鳴らしながら、人差し指を横に振った。


「確かに、私は神矢家の前で拾いました。でも、それは自分で落としたポストカードを自分で拾っただけです」


 杉村先輩の目が大きく見開かれた。私は思わず口角を上げてしまう。


「え……それじゃあ……」


「お察しの通り、このポストカードは神矢家の宝探しとは全く関係がありません。ただの、クイズです」


 私の言葉に、杉村先輩の顔が強張るのが分かる。そして彼は私から視線をそらすと、深く息を吐いた。その肩は落ちていて、そこから普段の尊大な態度は全く想像できない。


「……君が考えた、クイズ?」


 小さな声で尋ねる杉村先輩に、私は頷いて答えた。


「その通りです。タイムリーに宝探しの話があったから、それを利用させてもらいました。……ここまでうまく引っかかってくれるとは思いませんでしたけど」


 杉村先輩は唇を噛みしめると、悔しそうに私を睨んだ。普段、彼との頭脳勝負に負けた時、私もこのような表情をしているのだろうな――など思いながら、私は得意げな顔を彼に向ける。


「これで証明されましたね。私の方が賢いって」


 杉村先輩は額に手を当て、再び深く息を吐いた。


「……完敗だ。まさか、君の手で踊らされていたなんてね」


 私は彼の敗北宣言に、「ふふん」と上機嫌に鼻を鳴らした。そしてコーヒーを一口飲むと、ポストカードの切手を指さす。


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