第25話 北へ



 グレンデルを撃破することに成功した。だが、代償は大きい。


 まずムシコロンである。もう酷い。最初に会った時より壊れてるってどういうこと?それだけ重力発頸は驚異的な威力だということだが、自分が壊れてどうすんだ。それでうんうんうなってやがる。機械がうなるのってどういうことだ?


『全身が!全身がバラバラになったように痛い!』

「だからいったの!まともに復元されるのに、三週間はかかるわ!そこで苦しんでなさい!」

『でも、我があれでも使わないと勝てなかったぞあいつには』


 そこである。この先、あのクラスの特級蟲機が来るたびにムシコロンがこうなっていたらきりがない。最悪ムシコロンが動けないときに襲撃があるかもしれない。


 哪吒の方は被害はほぼなかったが、藩陽の地下研究所はもう使い物にならなそうである。哪吒親子もアメノトリフネに身を寄せることになった。幸い、研究のデータは無事だったらしく、場合によっては蟲の最後は存外近いかもしれない。そのかわり蟲によって滅ぶのではなく菌によって滅ぶのかもしれないが、地球。


 アメノトリフネにもほとんど被害はなく、すぐにでも次の目的地を目指すことはできそうである。次の目的地は、ロシアだという。随分とあちこちに行くものだ。露西亜ってのがどこなのかよくはわかっていないが、とにかく北らしい。そんなわけでアメノトリフネははるか北を目指す。前回の反省を踏まえ、高度を高くとることにした。地上近くはどこもかしこも蟲だらけだろうから、高空を征けば奴らに会う可能性は減るだろうと考えたからだ。


 音もなくアメノトリフネが浮上する。もうここには何もない。


 ……いや、植物だけはしっかりと生えている。茸のようなものやそれを食べる動物もいる。蟲……ではなく虫もいる。人間がいなくなったことで地上に生命が戻ってきた。そういう意味では人間は自然にとって害悪なのかもしれない。だが、蟲機だって自然にとっては害悪だろうし、あのようなものが存在する限り地球に未来はないのではないか。そういう意味では蟲をすべて滅ぼすのは必須だろう。そんなことを考えていると。


「タケル?」

「ミナか。どうしたんだこんなところに来て」

「ムシコロンどう?」

「どうもこうもねぇよ。縮退炉動かしてまた全身破損、でミコトに切れられてる」

「それしかないんですかねぇ……」


 ユウナがいつの間にかいた。ミナも心配そうな表情をしてい?。


「ユウナさんがね、気になることを言うの」

「えっとぉ……ムシコロンって……私のお父さんなんじゃないかなぁ……って」

「そんな馬鹿n……いや待ってくれ。そう言われれば確かにな。ムシコロンが人間だったのも知ってる。ムシコロンの対応が他のメンバーと明らかに違うよな」

「でしょ?」

「声が……似てるんですぅ……お父さん、死んだと言われてたんですぅ……でも……」

「タケル、聞くだけ聞いてみない?」


 ミナはそう言ってくるし、そうした方がスッキリするとは思う。だが今はある問題がある。


「それはもっともだし、聞く必要もありそうだな。でも今ムシコロン、全身激痛でうめいてる」

「聞ける状態じゃなさそう」

「そうですぅ……」


 まぁそれでも聞きに行くか、船の中でぼおっと考えていてもろくなもんじゃない。そう思ってムシコロンのところにきてみたら。


『うぅ……回路を……チェック回路を切るのだ……』

「それやってたからあちこちの不調が検出できないの!ムラサメくん!」

「不養生してるからこうなる」

『機械なのに不養生とか言われるの違和感しか無いぞ』

「ならメンテ不足でいい?」


 ミコトとムラサメに絞められていた。ちょっとは反省してるんだろうか?


「ミコトさん、ムシコロンに聞きたいことがあるんだが大丈夫か?」

「大丈夫よ。中枢系とジェネレータには損傷およんで無いから。兵装と骨格全壊だけど」


 っておい!俺が作ったムシコロンシューターとか全滅なのか!?ふざけんなよグレンデル。……破壊したのムシコロンのせいだけどな。ユウナが不安げに聞く。


「あのぉ……ムシコロンさんはぁ……わたしのこと、知ってるんですよね?」

『いつつ……お、おう。ユウナか。知ってるも何も』

「お父さん!?お父さんなんでしょ!?」

『えっ……いやその我はユウナの……』

「どうしてぇ!?どうして連絡くれなかったんですかぁ!?」

「ほんとだぞお前。なんでだよ」

『落ち着いてくれユウナ。確かに我は……いや私はユウナを知っている。だけど私はユウナの父じゃないんだ。……死ぬ前に兄さんに助けてもらったんだ』


 兄さん?ということは?


「おじさん?ススムおじさんだったの!?」

『ユウナ、大きくなったな』

「で、でもぉ……おじさんなんでロボットになったのぉ!?」

『話すと長くなるが、ざっくりいうと私も蟲化病で蟲機になる前に、兄さんに助けてもらったんだ。そして、この機体に電脳を移した』


 そういうこと、だったのか。


「父さんは、どうなったんですか?」

『すまない……ベルリンで特級蟲機との戦闘に巻き込まれてから、行方不明になった』

「そんな……」

『キョウヘイ兄さんは死んでいない、そう思う』

「は、はい……」

「積もる話もあるんじゃないか?ムシコロン、いやススムさんでいいのか?」

『ススムは我の一人格だからな。それよりムシコロンはいい加減にやめてバァ……』

「それじゃ、そういうことで」

「あとでね、ムシコロン」

『いやそのあのだな』


 俺とミナはその場を後にした。ユウナとムシコロン(ススム)が何を話したかは分からない。とはいえ、昔話ができる相手がいるのは幸せなんじゃないだろうか。


 艦橋に戻っていると、レーダーの前でキンジョウが唸っている。光の点が無数にあるが、まさか。


「どうしたんだ?」

「タケルか?見てみろ。レーダーにはこれだけ写ってるんだ。蟲機が」


 これは酷い。このまま飛び続けてもロシアでもこんな感じだと大変なんじゃないか?次の目標、魔女との遭遇はうまく行くのだろうか?

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