8の0・6 神様と神様(説明前編)



「ナナセもハルコもぐっすりと眠ってしまっているわ」


「アルテミスよ、しゃべっておると姫が起きちゃうのじゃ」


「ナナセは眼鏡を外して眠ってしまうと絶対に朝まで起きないのよ」


「確かに、東の国への旅の途中も、わらわが空腹に耐えかねて大騒ぎしなければ起きなかったのじゃ」


「なんだかとても微笑ましい光景が目に浮かんだわ」


 ナナセが眠ったことを確認すると、わたくしとイナリ様はハルコのすべすべとした心地よい羽根の中から抜け出しました。


「ナゼルの町は過ごしやすいことろなのじゃ。町の民も皆いいやつなのじゃ」


「わたくしたちが初めてゼル村にやってきたときはね、チェルバリオ様という素敵な方が村長さんだったのよ。ナナセが仲間をどんどん増やしてしまうたびに、住居やお仕事を手配して下さったの」


「あの町で『七人衆』と呼ばれておる若者たちなどよく教育されておるのじゃ。とくに荷運びの・・・なんという名じゃったか・・・」


「カルスさんね」


「そうじゃ。他にも孤児院におる・・・なんという名じゃったか・・・」


「ベルモさんね」


「そうじゃ。みんな名が似ておって覚えられないのじゃ。わらわは姫にイナリと名付けられるまで名など無かったから、民の名など意識して覚える習慣がないのじゃ」


「うふふ、ではわたくしがナナセの仲間を説明して差し上げます。少し長くなってしまいそうだわ」


「それは助かるのじゃ。朝までゆっくり聞かせてくれなのじゃ」


・エマさん ………ナナセファームの責任者

「牧場で牛や鶏のお世話をしながら、色々な乳製品まで自分で作って売ってしまっている子供ね。最近では羊皮紙のために山羊を育てたり、王都から蜂蜜職人を雇ったりと、かなり手広くやっているわ。わたくしは魔法を使って元気な牧草を育てるお手伝いをしているの」


・アンジェさん ………ナナセガーデンの責任者

「最初はナナセと一緒にアンドレッティ様の畑のお手伝いをしていたのだけれど、ナナセがトマトを作り出した頃から近所の子供たちやお年寄りと一緒に色々な農作物を作り始めたの。こちらでもわたくしの魔法で土を元気にするお手伝いをしているのよ。びっくりするくらい収穫量が増えて、野菜や果実がとっても甘くて美味しくなるの」


「おいアルテミス、土に魔法とは何なのじゃ。光魔法だけでなく固体魔法も使えるのじゃ?」


「いいえ、これはナナセが始めたことなのですけれど、土の中に微生物がたくさんいるそうなのね、その生命体を治癒魔法で元気にすると、植物を育てるのにとても良質な土になってくれるそうよ」


「なんなのじゃそれは、相変わらず非常識な魔法の使い方なのじゃ・・・まあ姫らしいといえば姫らしいのじゃ。続きを頼むのじゃ」


・ヴァイオさん ………ナナセファクトリーの工場長

「最初は二人でよく狩りに行っていたのだけれど、村長さんが村の開発を進めるようになった頃から、ナナセは色々なものを作ってもらっていたようだわ。鶏ケージや卵ラックがそうね。あと、ヴァイオさんのお父様は乗り心地の良い馬車の改造をして下さっているし、お母様は移民が増えたことで猟の収穫の革がたくさん手に入るようになってからは、素敵な革の製品をたくさん作って下さっているのよ」


・リュウ・ケン ………細工職人見習い

「この二人はね、小さな頃にご両親を亡くしてしまった孤児だったの。わたくしが孤児院で細工道具を買ってあげたのですけれど、とても才能があったようで、今ではヴァイオさんの工場で大人の職人顔負けの腕になっているそうよ。ナナセのこと、お姉ちゃんお姉ちゃんって呼んで、とても懐いているの」


「姫は小さな子供を相手にお姉ちゃんぶるのが好きなのじゃ」


・シンくん ………シンジ、創造神様の使い

「シンくんは狼なのに神族なの。わたくしが転移の神技を失敗してしまって、目的地にたどり着けなかったのを創造神様が察したようで、あまりにもわたくしが頼りないから送り込んで下さったんだわ・・・」


・ピステロ様 ………ピストゥレッロ、重力魔法の紡ぎ手

「ピステロ様にはお会いしたことあるわよね、人族との交流を盛んになさっていたようで、貴族として領地を与えられていたようだわ」


「わらわとは実に相性の悪い紡ぎ手なのじゃ」


・ルナさん ………ルナロッサ、吸血鬼の子

「ルナさんはとっても可愛らしい吸血鬼の子供なの。創造神様とピステロ様が協力して創造したとおっしゃっていたわ。最初の頃は立派な紳士になって、ピステロ様のあとを継ぎたいと言っていたけれど、ナナセと一緒に過ごすようになってからは、ナナセの力になりたいといつも言っていたのよ。でもね、ナナセが先にどんどん成長してしまうのが辛かったようで、ナナセに置いて行かれないようにって、シンくんと一緒にピステロ様のお屋敷の地下で一年間の眠りについてしまったの。今はあれから八か月くらい経ったかしら?」


「わらわは成長したいなどと思ったことなどないのじゃ。今の容姿は気に入っておるから、当分寝る気はないのじゃ」


・ペリコ ………ルナロッサのお友達、ナナセの翼

「ペリコはね、ピステロ様のお屋敷のすぐ裏にある海岸にいてね、ルナさんとお友達になったの。シンくんと一緒でわたくしが頼りないせいで創造神様が送り込んできたようね……その時に七色に輝く不思議な貝を食べてしまったの。ナナセとベールチアさんの戦闘のときにはね、七色に輝きながら悪魔化していたベールチアさんに体当たりをしてね、やられそうになっていたナナセのことを助けてくれたのよ」


・ミケロさん ………王都直属建築隊長→ナゼル総務

「ミケロさんはとても多才な方だわ、王都の学園で領主教育も修了されているそうですし、本職の建築隊以外に彫刻や絵画にも精通しているの。ナナセが信用して町長業務に関わる色々なことをおまかせしているし、住人からの信頼も厚いのよ」


「万能人なのじゃな。姫の代行にふさわしいのじゃ」


・サッシカイオ ………第二王子・ナプレの港町の町長→罪人

「あまり人族のことは知らないわたくしから見ても、サッシカイオ町長の責任で港町の民は皆さん元気がなさそうだったわ。ナナセとルナさんがこらしめてしまったのですけれど、その後はオルネライオ様から王都での無償奉仕を言い渡されたの。でもね、アイシャさんとコアンさんとグランさんとベルモさんを連れて王都から逃亡して、わたくしたちを襲撃してきたのよ」


「そのあたりの話はアイシャールから少し聞いたのじゃ」


・オルネライオ様 ………第一王子・皇太子・王国裁判官

「マセッタ様の旦那様ね、とても素敵な王子様なのよ。ナナセのすることのすべてが気になるようで、いつも気にかけて下さっていたわ。ナナセが学園に通っている間、ナゼルの町の町長代理をやって下さっていたの。今はイグラシアン皇国と小競り合いが起こっているベルサイアの町というところへ様子を見に行くとおっしゃっていたわ」


「マセッタは常に冷静でなんだか少し怖いのじゃ・・・」


「うふふ、それは見た目だけで、内心は全然違うのよ」


・七人衆

「ナナセのことを姐さん姐さんと慕っている方々ね、その中の六人が元罪人なのよ。皆さま、なんだか美味しそうなお名前なの」


「わらわの名の方が美味しそうなのじゃ!」


「うふふ。では一気に説明するわね、イナリ様もほとんどお会いしたことある方々だから簡単にするわ。地球の言葉を使わないと説明できないので、わからない言葉があっても聞き流して欲しいのよ」


「わかったのじゃ」


・バドワイゼル ………漁師→ナプレ強盗→ゼル村食堂の見習い→七瀬寿司大将

「言わずと知れた世界的に有名なビールのバドワイザーね。あのロゴマークは実にアメリカらしくてかっこいいわ」


・ハイネッキン ………狩人→ナプレ強盗→ゼル村牧場手伝い→ナゼル北側の護衛兼お堀作りの土方

「バドワイザーと双璧をなすビールのハイネケンね。緑色の瓶が冷えた飲み物を連想させて、とても美味しそうだわ」


・カルスバルグ ………荷運び→ナプレ強盗→村長さんのお手伝い→ナゼルの若頭

「こちらも緑色の有名なビール、カールスバーグね。なぜかわからないのだけれど、カールスバーグはネオン管が印象的なの」


・モレッティオ ………狩人→ナゼル南側の護衛兼お堀作りの土方

「イタリアビールのモレッティだわ。前出三種より知名度は劣るけれど、まるでジュースのようにゴクゴク飲めちゃう危険なビールよね。モレさんは元罪人ではないので、ナナセはずっと「さん」付けでお名前を呼んでいるわ」


・コアントル ………畜産→王都の罪人→脱獄逃亡→ナゼルの牧場手伝い

「フランスのリキュール、コアントローね。そのまま飲むことはあまりないようですけれど、スッキリとした甘みが有名なカクテルに多く利用されているのよ」


・グランマン ………畜産→王都の罪人→脱獄逃亡→ナゼルの牧場手伝い

「コアントローとよく似たリキュール、グランマニエね。使い方も似ていうるそうですけれど、こちらの方がお菓子作りによく使われている印象ね。なぜお菓子なのかはわからないわ」


・ベルモッティ ………孤児→畜産→王都の罪人→脱獄逃亡→孤児院のお兄さん

「ワインに香草で香り付けしたお酒の総称は、ベルモットというらしいわ。食前や食後にロックで飲んだり、カクテルに使ったりとけっこう万能なの。イタリアのチンザノが有名よね」


・ティオペコ ………行商隊見習い→カルスバルグの部下

「スペインの有名な酒精強化ワイン、ティオペペね。よく冷やしたものを食前にクイッ!とストレートで飲むと食欲増進すると言われているのよ。なんとも可愛らしいお名前でお気に入りなのに、なかなか活躍の場面を作れていないと真紀さんが嘆いていたわ……」


「おい!七人じゃなく八人いたのじゃ!それと真紀とは誰なのじゃ!」


「バドワさんが王都へ移住したから七人衆のままでいいとナナセが言っていたわ。ナナセが『七』という数字を好きなのも理由の一つじゃないかしら。あとイナリ様は真紀さんのことは気にしなくていいのよ」


「どうせ聞いてもわからんのじゃ。それよりも七人衆の名前を聞いておったら不思議とのどが乾いてきたのじゃ」


「わかったわ」


 わたくしもなんだかのどが乾いてしまったので葡萄酒を持ってきました。毎晩毎晩、マセッタ様とこうやってお酒を飲みながらお話をしていた時のことを思い出してしまいます。


「わらわもアルテミスが飲んでおるそれがいいのじゃ」


「イナリ様にお酒を飲ませるのは、とてもいけないことをしているような気がするから駄目よ。イナリ様には甘いコーヒー牛乳ね」


「ずるいのじゃー!」


 お話が長くなってしまったので、葡萄酒を飲みながら少し休憩しようと思います。

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