1の28 吸血鬼との対峙(後編)

※ 1の1 吸血鬼との対峙(前編)の続きです



 ピステロ様とアンドレおじさんの二人が部屋に戻ってくると、一緒に吸血鬼の子供っぽいやたらと可愛いちびっ子がついてきた。ピステロ様からは高圧的な態度はすっかり消え、何やらアンドレおじさんと昔から仲良しのお友達とか兄弟みたいに笑談している。もしかして生き別れの兄弟とかだったのかな?いやいや少なくとも年齢が百年単位で離れてるだろうし、それはないだろう。


 私はピステロ様にアルテ様とシンくんを呼んでくるよう言いつけられたので、慌ててお屋敷の入り口まで向かう。結界に抵抗している顔色の悪いアルテ様が少し心配だけど、ピステロ様の言いつけを守らないとまずいので、アルテ様と手を繋いですぐに部屋まで戻ってきた。


 ピステロ様は戻った私たちを冷ややかな目でしばらく見まわし、何かを探り終えたような顔をした。アルテ様が女神様だっていうことがわかるようで、こちらからあらためて自己紹介するようなことはなかった。


「では小娘ナナセ、まずは其方がそこにおる神族の女と出会ったいきさつから話してもらおうかの。」


「はい、わかりました。あれは今から半年くらい前のことです ・・・‥…────」





「 ────…‥・・・ というわけですっ!」


 私は人差し指を立て、時間の流れ無視の謎空間からピステロ様に会うまでの話をできるだけ細かく話し終えた。アルテ様は途中で何度もうんうんとうなずき、ちびっ子吸血鬼は顔の前で手を組んで目をキラキラとさせながら聞いていた。アンドレおじさんには私が異世界からやってきたことやアルテ様が女神様だってことを知られちゃったけど、特に驚くこともなく聞いていたし、なんとなくわかっていたのかな?ひとまずピステロ様には上手く説明できたはずだ。


「長い!長すぎる!」


「ええっ!?でもでも抜けがないように、できるだけ細かく思い出してお話したんですけど・・・」


「なぜ半年も前の夕食の内容まで覚えておるのだ。その異様なまでの記憶力はなんなのだ?我は昨日の夕食も思い出せぬときがあるぞ。」


「ピステロ様、それは私も一緒です・・・」


 その後いくつか質問され、特に隠すこともなく答える。アルテ様は終始笑顔で、私とピステロ様のやり取りを見守ってくれていた。


「そのニッポンという国のことは全く知らぬが、魔法の存在せぬ国であったのだな?戦争が起きたら剣のみで戦っておるのか?」


「いいえ、仮に戦争が起こったとしても強力な科学兵器で攻撃します。爆撃機によって空からの攻撃や、そうならぬよう事前に激しい情報戦が繰り広げられたりします。私の国では生まれてから戦争は一度もなかったので詳しくはわかりませんけど」


「空からの攻撃とな、飛竜が火の球を巻き散らすようなものかの。」


「イメージはそれに近いと思いますけど、強力な爆撃はこの屋敷から私たちの住んでいるゼル村くらいまで簡単に吹き飛ばします。人道的ではないということで、ある程度の取り決めはされているようですけど、それでも爆弾の実験を繰り返す国がいくつかあります」


「ふむ、すごい威力であるの。そのような危険な国におったのであれば、民は皆、身を守る術くらい持っておろう?」


「持ってないです、国営で護衛の軍隊のようなものはありましたけど、私が住んでいたのは戦争を放棄した平和な国なので一般の住人は地下とかに逃げるしか選択肢はないと思います」


 ピステロ様は特に兵器に強く興味を持ったようだけど、私は爆弾など作れないので話をごまかし、逆にピステロ様が戦争を見たり参加したりしたことがないか質問してみた。


「何百年も前になるが我も王国の防衛に参加したことがある。当時は乱れた国内情勢での、爵位廃止を求め平民が集結して王国を攻めてきよった。我を含む魔導士や兵士が総出で城の守りを固めたが、こちらからは手を出すことは無かったの。それでも命も惜しまず攻め入る数千数万の平民に当時の王が根負けしての、貴族全員を集めた上で王自身も自らの地位を降り、贅を尽くし恨まれておった貴族はことごとく投獄され、残った良識ある王族と貴族によって王都に最低限の国営機能を残し、平民の平民による平民のための国が生まれたのだ。」


「わかります!民主主義の誕生ですねっ!」


「いや、結局平民が秩序を作ることなどできずにすぐに崩壊したのである。そこで再び王族が返り咲いての、今後は王族の血を引き、領主教育をしっかり受けたものだけが各地をおさめることになったのだな。我はもともと政治になど興味がなかったからの、元貴族として平民にとやかく言われるのも面倒だったので、この屋敷を木々や岩で囲んでから結界を張り、表舞台から姿を消したのである。」


 ピステロ様はこちらから手を出すようなことは無かったけど、城の防衛では多くの平民に犠牲が出てしまったようで、その話をしているときの顔は悲しそうに見えた。見た目は怖いけど優しい人なのかな。


「ピステロ様、これからもこの王国は戦争が起こるのでしょうか?私は剣の修行をしたいと思ってはいますが、それは人の命を奪うためのものにはしたくないのです」


「殊勝な心掛けではないか、今は隣国との小競り合い程度しか起こっておらぬようだが、この世界には狂暴な魔獣や知能の低い竜族などもおる、剣で身を守るのも大切なことであるぞ。だがな・・・」


 ピステロ様がアンドレおじさんの方をチラチラ見ながら話す。


「小娘ナナセよ、剣も良いが、先に魔法をある程度習得してからでも良いのではないか?魔法で身を守れるようになれば、剣の幅も広がるであろう?」


「そうだぞナナセ!俺は国王の護衛騎士をつとめてきたが、魔法を使える者が集まると剣士はどうしても出遅れちまうんだ。ナナセが魔法で身を守れるようになったと判断したら、あらためて剣の修行してやることを約束するぜ」


 なんか大人が揃って口裏を合わせて勉強しろしろ言ってるような感じでずるい。私は自分がしたいと思った勉強を、したいと思ったときに自由にやってきたから、押し付けられるのは好きじゃない。


「なに、魔法の修行は我が行うのではなく、このルナロッサに行わせるのだ、見た目の年齢も近いし、どうだ、ルナロッサが外界に慣れる修行も兼ねて、ゼル村とやらに連れて行ってみてはどうかの?」


 ルナロッサというちびっ子吸血鬼は、私の長い話を身を乗り出すように聞いていたけど、今はピステロ様のちょっと後ろに隠れるようにしてオドオドこちらを見ている。髪の色はピステロ様と同じ銀髪で、その前髪で片方の目が隠れている。前髪キャラなのだろうか?魔法使いって感じはしない。なんか背も低いし透き通るような白い肌だし、男の子か女の子かもわからない。名前の響き的に女の子でいいかな?


「ローサちゃんは外の世界をあまり知らないの?」


「ぼっ、ぼくおとこのこですっ!」


 ルナロッサ君に白い顔を赤くして言い返されてしまった。ごめん。


「わっはっは!ルナロッサは我と神族のハーフのようなものでの、魔力も生命力も性別も半分づつなのである。我の後継者として立派な紳士になりたいと常々言っておるがの、我から見たら、そうであるの・・・其方の弟みたいなものであるな。どうだ小娘ナナセ、このルナロッサを立派な紳士にしてやってくれぬか?そしてルナロッサはナナセを立派な魔導士にしてやりなさい。」


 性別が半分ってのはどのような状態なんだろう?この先育つとどちらかに決まるのかな?吸血鬼の生態なんて全くわからないからね、あとでゆっくり脱が・・・いやいや、聞いてみよう。


「る、ルナロッサ君はこのお屋敷を離れるのは寂しくないの?」


「ぼ、ぼくはずっとこの屋敷で過ごしてきたから、外界の色々なものを見てみたいですっ!そして立派になって戻ってきたいですっ!」


 大人二人に強制されるのは嫌だけど、なんかルナロッサ君のお願いなら聞いてあげたくなっちゃう。口裏に乗ってあげてもいいかな。


「じゃあさ、私まだまだ未熟だからさ、魔法を教えてくれる?」


 ルナロッサ君の顔がパッと明るくなった。


「はいっ!な、ナナセおねえた、まっ、よろしくお願いしますゅつっ!」


 やばい、すごい可愛い・・・どうしよう、おねえたまですって!前世の私は、お兄ちゃんはいたけど弟や妹はいなかったから、なんだかムズムズしちゃう。お姉ちゃん、ちょっと頑張っちゃうよ?


「こちらこそよろしくね!ルナ君っ!」


 なんだか必死になって私に握手を求め手を出してきたでの、私もその手をギュッと握り返す。私、この子となら魔法の修行も頑張って行けそうな気がするよ。


 ピステロ様とアルテ様とアンドレおじさんが暖かい目でこちらを見ている。私は理想のお姉ちゃんであるアルテ様の笑顔を真似して優しそうに微笑む。ルナ君が顔を赤らめながら笑顔を返してくる。


「がうがうがうっ!ぅぅーー」


 あれ?なんかシンくん怒ってるっぽいんですけど?

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