VRPG Ver.1.0 <夢遊>

宇宙儀 色鷹

Prologue~【after school】~

1


『グオオォォオォォォオォォオオォオ!!!』



激しい咆哮ほうこうの後、眼前の黒龍が飛び上がる。広げた両翼は空を覆い隠し、強者であることを誇示するかのような爪と牙を剥き出し、赤く光る眼光で六人を見下ろす。


「マイル、大ブレス来るよ」


「あいあい、シールド準備おっけーよ!ノノ!バフよろしくぅ!」


「炎熱耐性、風圧耐性、防御強化、移動速度強化…付与、既に完了」


「こっちも配置についた、いつでもいけるよ」


「ほんっとしぶといなー、さっさとトドメいっちゃおーう!!」


「九ノ原先輩、いけますか?」


「あぁ、後12秒でチャージ…来るよ」



黒龍が上空から地面に赤黒い炎を吐く。それは炎の波となって襲ってきた。



「シールド展開!」



大きな盾を持ち、鎧に身を包んだ男が炎の波に向かって盾を構える。盾が光を放ち、光の壁を形成する。その鎧の男の影に三人が素早く移動。六人いたはずの残り二人はいつの間にか姿を消し、こちらの”画面”からは確認できない。直後、炎の波と光の壁が衝突。光の壁の後ろにいる四人は炎の猛威から逃れる。が、しかし…



「うおおおおっ!さすがにスゲー威力!もう持たないぞ!」



フィールドの半分近くを埋め尽くし、押し寄せ続ける炎の波に耐え切れず、光の壁の至る所にヒビが入りだす。



「ブレス終了まで7秒、シールド崩壊まで…3,2,1!」


「ヒール!」



光の壁が砕け、四人が炎に包まれると同時に、その中の一人が杖を掲げる。白いローブを羽織り、身の丈程の杖を持つ女性。その杖から柔らかい光が溢れるように放たれ、四人に降り注ぐ。


「おおおおおお!耐えてる!でもHPどんどん減ってるぞ!」


「大丈夫!ギリギリ耐える!」



吐き出され続けていた炎が止まり、消えゆく火の中から四人の姿が現れる。最大まであった四人の”HPゲージ”は極端に短くなり、色も緑色から赤色へ変わっている。



「おぉー…生きてた。ナギの計算、正しかったな…」


「まだ気を抜くなよ、行くぞ」



四人は黒い龍に向かって走り出す。龍は疲弊した様子で地上へと降りてくる。そこへ四人が各々殴る、斬る、穿つ、撃つの連撃。龍は呻くように声を上げ後ずさる。



「よおーっし!!このままぶっとばーす!!!」


「ちょっミレ姉、深追いダメだってば!」



四人の内一人が真っ赤な長髪を振り乱しながら龍へと殴り掛かる。しかし、龍はその巨躯からは想像出来ない素早さで攻撃を回避すると、殴り掛かった女性に向けて長い尾を薙ぎ払う。



「うげっ!ヤバ…」


尾での攻撃が直撃するかに思われた次の瞬間、立て続けに2発の爆発音。突如飛来した2発の光弾が龍の頭を直撃したのだ。龍は首を大きく振り上げ怯む。その隙に赤髪の女性は龍から距離を取る。



「いっちーありがとおおぉぉぉぉ!!死んだと思ったああぁぁぁぁぁぁ!!!」


「…ミレ姉、暴走、やめて……面倒」


「うぇ!?なんかゴメン」



龍の遥か右後方、崖の上で地に伏せ、銃身の長いスコープ付きの銃を構える男。その銃口からは硝煙が立ち上っている。龍の頭を捉えた2発の光弾は、この男が放ったものだ。



「ミレ姉、落ち着きました?じゃあそろそろ…締めにいきますよ!」


「おうっ!」



四人は一斉に走り出す。龍は鋭い爪で引き裂こうと突進してきた。が、絶え間なく複数発の光弾が放たれ、龍の行く手を阻んだ。その間に四人は龍を取り囲むように位置取った。



「今だ!!」



四人はそれぞれ短剣のようなものを地に突き立てた。四本の短剣を繋ぐように赤い光の線が走り、巨大な四角形を形作る。その光が上空へと延び、光の壁を造り上げた。四角形の壁の中には龍が閉じ込められる形に…


「よっし!捕まえた!」


「先輩!罠にかかりました!でも、もって数秒ですよ」



気が付くと黒龍の頭上に現れた、幾何学模様が描かれた青い光の魔法陣。その傍らに浮かぶ、黒いローブを羽織った男。



「上出来だね」



龍が怒りの咆哮を上げ、龍を封じ込めている光の壁にヒビが入りだす。



「逃がさないよ」



魔法陣から出現したのは、ちょっとした山程の大きさの氷塊。巨大な黒龍の更に何倍もの大きさの氷の塊が、龍めがけて落下する。


「MP丸ごと全部はたいたんだ、いい加減沈んでくれよ」




ドゴオオオオオオオオオオン!――



凄まじい音と共に、氷塊が龍に直撃。辺り一帯が土煙に包まれる。



「「「よっしゃああああぁぁぁぁぁ!!!」」」



同時に複数人の歓声が上がる。流石にこれはあの黒龍といえど、耐えられない。




と、思った矢先…



「おいおい、嘘だろ!!」




土煙の中に巨大な光源が発生。黒龍が大きく口を開き、その先に赤い光球が膨れ上がるように形成されていく。



「なになにあのモーション!あんなの知らないよっ!!」


「やべえ!!もうMPもアイテムもないぞ!!」


「回避っ!…間に合わな…」



強大な光弾が放たれるかに思われたその直前。



「間に…合え」



スパン―—



一閃。


一人駆け出していた剣を携えた男が、龍の首を斬りつけた。





『Congratulation!!!』



盛大な音楽と共に電子音声が流れ、画面に表示された文字は…



「クエスト…クリア……」


「や…」


「やったあぁぁぁぁ!!」

「よっしゃあぁぁぁぁ!!!」

「うおぉぉぉぉおおおお!!!」



それぞれが歓喜の声を上げる。ゲーム機の画面の中では黒龍がゆっくりと倒れていく。



「超高難度クエスト、≪黒竜王の討伐≫…」


「一番乗り…」


「「「達成!!!」」」




画面には



≪WINNER   【after school】≫



の文字が表示されていた。



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