「あのコンビニって」

出席番号3番「引きずる音」

俺の元後輩がコンビニのオーナーになったんだ。

…いや、そのコンビニはもうないんだけどな。


やたら出入りが激しかったあの角のコンビニだよ。

噂だと、オーナーが失踪したから閉店したって話だろ?

ちょっと違うんだよ。


これはそのオーナーの婚約者から聞いた話だ。


そいつのコンビニが入る前は1ヶ月、早くて1週間くらいで店が代わってた。

色々噂はあったけど、これといった理由は誰も知らなかった。


何ヵ月か前に、会社を辞めてコンビニのオーナーになるっていう連絡が俺のところにきた。

俺の地元だったから何回か利用して、そいつとも会ってたよ。

「安く借りられた」ってそいつは言ってた。

出入りが激しい場所だってことは知ってたんで、少しだけ心配だった。

だけど結局1週間経っても何もなくて、経営も案外順調だったんで、ああ、ただの噂だったんだなって思ってたんだ。


その矢先に、突然そいつはいなくなった。


警察にも届け出を出して、俺も手伝って捜したんだ。でも見つからない。

結局行方不明の失踪扱いになった。


失踪なんてする理由がないんだよ。

そいつ。

コンビニの経営も軌道に乗り始めて、シフトも余裕ありすぎるくらいゆったりと組んであったらしい。

人が足りない時間は自分が率先して入る。

アルバイトに負担をかけたら、オーナーとしての価値が下がる。

それでも無理はしないで、きついと思ったら誰かに相談する。

いいやつだろ?


しかも、この話をしてくれたのはそいつの婚約者。

いなくなる二日前に入籍してるんだよ。

二日前。

式の予約も来月しに行く予定だったらしい。

そんな幸せの絶頂にあるやつが失踪なんてするか?

するわけないだろ。


だから、その婚約者はそいつと親しかった俺のところに相談を持ち掛けてきたってわけだ。

彼女自身、俺の彼女…先日入籍したから嫁さんか。俺の嫁さんと親しいからってこともあるけど。


おい、そこ。

ニヤニヤすんな。

そうだよ。偶然にも小学生のときに出席番号が後ろになったあいつだよ。

今も昔も可愛いだろ?俺の嫁さんは。

のろけはいい?誰のせいだ。


ごほん。

話を戻すぞ?


理由も分かんないまま、そいつがいなくなって二週間が経った頃。

コンビニのシフトは一ヶ月まとめて組んであるんで、そいつの分は一緒に働いてた彼女と有志で埋めてたらしい。


丁度その日、彼女は深夜の夜勤に入ってたんだって。もちろん安全面のためにもう一人一緒のやつがいたらしい。

この「深夜」っていうのはガチの深夜な。

日付が変わった朝(未明?)1時から朝5時までが深夜タイム。


この時間は客が極めて少ないんで、菓子とか雑貨の商品陳列・看板とかの外掃除がメインの仕事なんだって。

で、もう一人が外の掃除してる間に彼女は商品陳列を店内でしてたんだって。


その時間にさ。

店内放送が、変な時があったらしいんだよね。


別に店員がアナウンスを入れるとかっていう放送システムじゃなくて、多分パソコンとかに本部から送られてくる音楽とセールのアピールとかをただひたすら繰り返して流すタイプの放送。

繰り返しだから、時間によって違うってことはない。


突然流れていた音楽が止まって、うんともすんともいわない。

雑音すら入らない妙な時間。


流石に彼女も不審に思って、事務所のパソコンを見に行こうとしたらまた音楽が鳴り始めたらしい。

接触不良とかって原因も考えられるんだけど、彼女はどうも気にかかったらしい。

彼女は他の深夜組の人にもそういうことはあったかって聞いたんだって。

でも、そんなの1度もないってみんな言う。


たまたまだったんだろ?

そうだよ。たまたまだったんだよ。

たまたま彼女が深夜に入った日に、しかも彼女が一人になったときにそういうことが起こったんだよ。


たまたま

それが

30回以上

続いていてもな


たまたまなわけないじゃん。

彼女が深夜出勤する度に起こるそうだぜ?


でさ。

その放送について詳しいことを聞いたら、彼女、震えながら話してくれるんだ。


初めは無音だった。


回数が増えてくると、ざっ…ざっ…って足を引きずるような音が混じってきた。


嫌な予感がして、彼女にもういいって言おうとしたとき、彼女叫んだんだよ。


あの人の声が混じってる。


って。


えって思って、続きを聞いた。


足を引きずるような音に混じって「ごめん」「いやだ」「やめて」って声が聞こえ始めた。

昨日も深夜入った。

そしたら




「タスケテ、××」





そいつの声で、はっきりと自分の名前を呼ばれたんだってさ。


ここまでが俺の聞いた話。

もちろん俺の嫁さんも聞いてる話だ。


ここからは俺に起こった話だ。


その日も彼女、そいつの声を聞きたくて深夜出勤交代してもらったんだってさ。

彼女はまたその放送を聞くんだろうと思ってた。


俺も、俺の嫁さんも二人のことが心配なんだよ。

嫌な予感はずっと続いていた。

その日は二人で彼女の話を聞きに行くつもりだった。


そのときは、どうかその「なにかを」引きずる音が、「そいつを」引きずる音ではないように願うばかりだったんだ。


彼女と待ち合わせをしていた時間まで暇していたら、

♪~

一通のLINEが入ったんだ。だれからだと思って見てみたら、なんといなくなったはずのそいつからだった。


その内容を見てさ、俺思ったんだ。助けてやるって。

だってさ。

そいつが俺のこと指定してきたんだ。

応えてやらなきゃ先輩じゃねぇよ。


○○からのLINEメール

「センパイ マッテマス タスケテ」


そのLINEにいくら返信を送っても、結局返信は返ってこなかったし、既読すら付くこともなかった。

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