エルフのお姫様になりたいって言ったのに話が違う
黒幸
第1話 話が違う転生詐欺だ
私はどうやら、死んでしまったらしい。
血塗れの自分の身体を見下ろしているってことはそうなんだろう。
どうしたものやらと悩んでいると私の前に真っ白な古代ローマの貴族が着てそうな服の人が急に現れた。
テル〇エ・ロ〇エの人が現れたのかと思って、びっくりしたのではない。
本当に急に現れたから、びっくりしたのだ。
「やあ、おめでとう。君は選ばれたよ。さあ、少しくらいの希望は聞いてあげるから、言ってごらん」
「はい?」
おっと、急に現れた変な人が訳の分からないこと言うもんだから、どこかの切れ者警部さんみたいな返事しちゃったじゃない。
「何か、希望あるだろう? ないのなら、このまま送ってしまうけどいいのかな」
あれ? この人、もしかしたら、神様とか?
それはまずいよね。
転生とか信じていなかったけど今、こういう状況に陥っていることを考えると信じざるを得ない。
というより、どうせ転生するんだったら、自分が望んだ人生を送ってみたいと思うものだろう。
そうじゃないって、言いきれる人はきっと悟りを得た人なんだろう。
そうに違いない。
私は迷わず、答えた。
「希望ありますっ! エルフのお姫様になりたいです。儚くてきれいでもう風の妖精みたいなお姫様に」
見たことがあるファンタジーなアニメに出てきたエルフの女の子がかわいくて、自分もあんな顔で生まれたかった、絶対楽勝人生だもんとか、思ったのだ。
そう、私はいわゆる地味顔なのだ。
目立つほど美人でもないし、ブスでもない。
どこにでもいそうな特に特徴のない顔なのだ。身長も平均的だし、体重までそんな感じ。
「そんなのでいいのかい? お安い御用だよ」
その願いを聞き届けた神様の顔が醜く歪んだように見えたのは気のせいだったのだろうか?
私は神様の言葉を聞いた瞬間、意識が遥か闇の底に沈んでいくかのような錯覚とともにプツンと途切れた。
🌳 🌳 🌳
「あっ、痛っ」
私が日本人だったという前世の記憶を思い出したのは十歳の時だった。
剣術の稽古をさせられて、剣の重さにつんのめって、思い切り大地とキスしてしまったのだ。
あまりの痛さに思い出してしまった。
「私はメルツェーデスよね」
鏡には金色のちょっとウェーブがかかったロングヘアにエメラルドグリーンの美しい瞳をしたまるでフランス人形そのものの美少女が映っている。
そう、私はメルツェーデスという名前で確かにエルフの国のプリンセスだ。
だけど、話が違うんだって!
蝶よ花よと大切に育てられたお姫様じゃなかった。
女の子扱いされなかったのだ。
男の子として育てられた。
この時点で話が違うってもんだ!
三歳になったら、もう剣術の稽古をさせられていた。
さすがに三歳の幼児に実剣は無理だったから、練習用の木剣だったけど。
朝から晩まで習い事のフルコース。
本気で殺しにかかってきていると思えるレベルのスパルタ教育だった。
そのお陰か、十歳の頃になると剣術の基本は身についていた。
基礎体力もばっちりだ。
その過信のせいで盛大にすっころんでしまい、前世を思い出したのだけど。
「エルフの姫なのは間違っていない。見た目だって、どう見ても美少女だもん。違うのよ、こんなのじゃない。誰がオス〇ル様みたいな男装の麗人の姫になりたいって言ったんじゃ、ボケ!」
「姫様、変な声が聞こえましたがどうされました?」
「あっ……あははは、何でもない。気にしないで」
私がなりたかったのは可憐で儚げな風の妖精であって、華麗に戦う勇ましい女騎士を目指したいのではない。
どうしてこうなった?
どう考えてもあの神様のせいだよね?
まず、私はエルフの王国の王と王妃の間に生まれたお姫様であるのは間違いないようだ。
ただし、次女。
私の上にツェツィーリア姉さまがいるのだが生れてから、一度も間近で見たことすらない。
姉なんて、幻なんじゃないかと疑ってしまうくらいだ。
ツェツィ姉さまは光の巫女なので新年の祝賀でちらっと顔を見せるだけ、それもバルコニーからね。
実の妹なんだけど見たことあるのちらっ、だけって、どうなんだろう?
それで五歳下の妹がエレオノーラ。
今、五歳なんだけど本当にお人形さんみたいにかわいくて、こっちのがエルフのプリンセスのイメージ通りじゃないかって思う。
いや、今の私、メルがお姫様らしくないって訳じゃないんだけど。
まともにお姫様らしい恰好をさせてもらえないのが問題なんだよね。
なんで男の子扱いされないといけないのか、不思議。
髪を切れと言われてないのだけがせめてもの救いかな。
そんな私も気付けば、二十歳を超えている。
よく耐えた私。
そんな頑張った私を褒めてあげたい。
それだけ、苦行の日々だったのだ。
剣術の修行だけじゃなく、エルフだけに魔法も学ばなくてはいけない。
おまけに近衛騎士団である神聖騎士団の副団長までやらされている訳ですよ、私は!
強いられすぎじゃない?
それ以上にきつかったのは礼法やダンスの授業だった。
好き好んで男装しているんじゃないのに男と女の両方の作法を叩き込まれるんだから、その苦行たるや如何ともしがたいのですとも、ええ。
「閣下、どうされましたか?」
心が荒れていく一方の私を癒してくれる存在が副官のアンドレアスだ。
彼は二歳年下の十八歳でこの国では珍しい人間族の少年。
いや、青年なのだがその見た目が私のストライクゾーン真ん中なのである。
やや線が細くて、華奢なのに引き締まった身体にまだ、大人になり切れてない少年ぽい幼さの残った顔。
「いや、なんでもないさ。うん、なんでもない」
嘘だっ! 実のところ、なんでもあることがあったのだ。
昨晩、父上……いや国王陛下に珍しく、自室に呼ばれたので何事かと思ったら、『明日よりお前が女性として生きることを許そう』って、『はぁぁぁ!? 何、言っとんじゃ、ワレ』と思わず、胸ぐら掴んでぐらぐら揺らしかけそうになったわ。
今更でしょう?
男の子として、より男らしくなるようにってスパルタ教育しておいて、何で今更。
「なあ、アンドレアス。もしもの話だ」
「もしも、でございますか?」
「もし……私が今日から、騎士服を脱いでドレス姿で生きる様になったら、お前はどうする?」
「私は閣下の部下です。閣下の姿がどうであろうと最後の最後まで忠を尽くすまで」
真面目すぎて、もう抱き締めてあげたい。
そんなことしたら、私が今まで、築き上げてきた凛々しく、格好がいい女騎士のイメージがガラガラと音を立てて、崩れてしまうからね。
抑えろ、自分。
「ありがとう、アンドレアス。私はお前のような部下を持てて、幸せだった」
「私こそ、閣下のお側に仕えることが出来たことを誇りに思います」
なんか、最後の戦いに赴く時のような台詞吐いているけどそんなことはない。日常の一コマに過ぎない。
そう、いつもならね。
私はもうこの時、決めていた。
妹いるんだし、私この国出て行って自由に生きてもいいよねって。
さようなら、お父さま、お母さま。
さようなら、会ったことがない姉さま。
さようなら、かわいいかわいい妹。
そして、さようなら。
私の愛しいアンドレアス。
もう会うこともあるまい。
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