322 大丈夫、ふたりなら①

「困る! せっかくヨワがドレス着てんのに見れないじゃん」

「だからリンなら見ていいって言ってるのに」

「意味わかってないくせにそういうこと言うなバカヨワ!」


 ドレスを波音のように奏でてヨワの気配が遠ざかる。離れていれば、と浅慮が浮かんで瞳に彼女を映した。それはただの言い訳だった。


「心をもらえなくても、せめて体だけはって思ったことあるよ。ねえリン。私、そこまで子どもじゃない」


 気づけばソファーを乗り越えていた体を、リンは意思で床に縫いつけた。


「わかってて言ってるの」

「……ごめん」

「なんで謝る?」


 ヨワが窓に目を向ける。リンの足がその仕草に反応した。床板がギシリと抗議する。


「諦めてたの。その時も、今も」

「今も? なにを諦めた」


 心を隠すようにヨワが背を向けた。また一歩、意思が崩れる。匂い放つような魅力を漂わせてリンの鼓動を早めておきながら、ヨワは沈黙する。


「言って」


 声が上ずった。


「リンが、キラボシさんと浮気しても仕方ないって思ったの。ごめんね。ごめん……」


 うつむいた拍子に流れ星がきらめいて薄闇に吸い込まれた。ヨワが流した重力の渦に引きずられて抗えない。意思と欲望の衝突に震えながらリンは最後の一線で踏み留まった。


「諦めたから謝るの」


 ヨワは首を横に振った。銀の髪飾りよりも美しく、涙を湛えた瞳がきらきら揺れた。


「だって私、もう、リンを諦めることができない」


 抱き締めたい。嘘のように意思と欲望が重なり合った。繋ぎ止めるものが消えてリンはやわらかにヨワを包み込んだ。


「大した進歩じゃん。謝ることなんかないよ」

「許してくれるの?」

「むしろ俺はうれしい」

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