246 ヨワとユカシイ④

「学園祭といえば来週末くらいからはじまるわね。ちょうどこんな季節にふたりは出会ったのね。同級生じゃなくて先輩と後輩なのに、卒業後もこんなに仲よしだなんてよっぽど気が合うのね!」


 にこにこと笑ってティーカップに手を伸ばしたオシャマは「あっ」と声を上げて手を打った。「リンにもなにか飲み物を持っていかなくちゃ」と席を立って用意しはじめる。オシャマは本当に気が利いて素晴らしい母だが、こんなふうに少し忙しないところがあった。


「先輩。あたしにはじめてかけた言葉も覚えてますか」


 オシャマがレモネードを持ってダイニングから出ていくのを見計らいユカシイは口を開いた。


「覚えてるよ」


 ローテーブルに置いたティーカップを見つめたままヨワは答えた。


「『私がいっしょにいるよ』って言ったんだよね」


 秋晴れにさんさんと光り輝く窓、それに反して薄暗く冷たい廊下、楽しげな音楽、耳障りな高笑い、色とりどりの風船、飾りつけられた掲示板、突き飛ばされた胸の痛み、しゃがみ込んだ緑のさびしそうな眼差し。瞬く間にあの日の景色と思いがよみがえってユカシイは立ち上がった。


「ばい菌が移るからいっしょに回りたくないって言われたあたしに、先輩からそう言って手を差し伸べたんですよ! ずっと、ずっといっしょにいてくれるって約束したでしょ!」

「ずっといっしょにいるよ」

「うそつき! 本当は自分といてあたしの交友関係が狭くなるのを悪いことだと思ってるくせに! いつでもあたしが離れていってもいいように覚悟してるくせに!」


 振り返ったヨワの目はあの日と同じさびしそうな色をしていた。ユカシイを映していながら孤独の影に囚われた緑。

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