232 閉ざされた扉を開く②

 ハッと息を呑んだ口元を手で覆ってシトネはひざから崩れ折れた。そこへ二階の書斎から下りてきた義父ミギリがリビングに現れて、厳しい目でヨワを見下した。


「なぜお前がここにいる。二度とホワイトピジョンの敷居をまたぐなと言ったはずだ」


 視界の端でスサビが理解できないというふうに首を横に振った。子どもたちを深い愛情で包み込むオシャマと、騎士として父としても息子たちを信頼しやさしく導くシジマが築いた温かな家庭で育ったスサビにとって、シトネとミギリの態度は信じがたいものだろう。それがヨワにもようやく飲み込めた。

 この家はもうずっと前から崩壊していた。母も父も、これまで一度たりとも家族と呼べる存在ではなかった。血の繋がりよりもずっと大切な絆が欠如していたのだ。このような居場所に追いすがる価値はなかった。

「出ていけ」ミギリはヨワの腕を掴んだ。

 ヨワはその手を魔法で振り払った。ミギリの目がいっそう冷々と光った。


「お前がその気なら力ずくで追い出すことになるぞ」


 ヨワたちの背後のソファーやローテーブルが次々と宙に浮かび上がり迫ってきた。リンとスサビは身構え、ユカシイはスサビに身を寄せた。


「できるものならどうぞ」ヨワは冷ややかに言い返した。

「なんだとっ、生意気な! ぐっ、なんだ、この力は……!」


 ミギリが魔法で操る家具をヨワはさらに強い魔力を注いで封じた。ミギリは対抗しようと力を上げていくがその倍以上の魔力を積み重ね主導権を奪う。しだいにミギリの額には玉のような汗が噴き出てきた。


「くそっ。お前に、お前に教育を受けさせてやったのは誰だ! 食事も服も、その気持ち悪い鱗の治療費も、全部俺が出してやったんだ。こんな醜い赤の他人の子どもなんかに!」

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