176 シオサイの悩み②
「それで、シオサイさんの悩みってなんですか?」
シオサイは瞬きもせずテーブルを見つめたまま口を開いた。
「あなたと出会った日から僕は、様々なことを考えました。今も、今も考えてる。でも答えは出ない。僕にはどうするべきなのかわかりません。だけど」
そこでシオサイは少し語気を強めた。
「ヨワさんに起きた事件のことを知ってから抑えがきかなくなりました……! 僕はもう居ても立ってもいられない! それでも本当にこんなことを言ってしまっていいのか悩みつづけて、夜も寝られず、今日まで過ごしました」
ヨワは手先から急速に体温が下がっていった。話を遮り席を立って逃げ出したいと衝動が駆け巡った。だがそれと同時に知りたいという欲求がヨワの体をイスに縛りつけていた。
「ヨワさん。あなたの父親は、僕かもしれないんです。いや、きっと僕なんだ」
ユカシイの息を呑む音が聞こえた。
ヨワはシオサイの告白を聞いて、幼い頃ミギリとシトネが激しく言い争っていたことを思い出した。ミギリは静養のため港町の別荘にいる間に不倫をしたのだろうとシトネを責めていた。シトネは否定していたが、その動揺ぶりは痛々しいほどであった。
「ちょっと待ってくれ。根拠があって言ってるんですよね?」
席を立ったリンがシオサイに詰め寄った。
「二十四年前だ。港町の別荘に滞在していたシトネさんと出会いました」
リンはヨワを見た。その目はシオサイの言う事実はあったのかと問いかけていた。ヨワはおそるおそるうなずく。シトネは精神不安があり、養生のため度々別荘を訪れていた。
今すぐシトネをここに連れてきてすべてを白状させたい気分だった。しかし彼女がヨワの求めに応じるはずがない。本当の父親が誰かなんて、ヨワを切り捨てた時点で彼らにとっては終わった話だ。
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