120 人さらい③
「どうしてルルを殺したの。私の義妹がどうしてあんたなんかに!」
「ええっ? 待て待て待て待て! 違うって。俺をよく見ろ」
大男の顔が近づけられてヨワはとっさに魔法で突き飛ばした。
「あんたの顔なんか見たくない!」
「わかったわかった。ごめんて。じゃあ見なくていいから、頭に思い浮かべて。王族の身体的特徴は?」
ヨワは大男の足元をにらみつけながら渋々スオウ王の容姿を思い描いた。ゆるいウェーブのかかった密色の髪、緑色の目。これは実弟のススドイ大臣も息子のソヒ王子も同じだ。そしてふたりはすらりと背が高い。スオウ王は少々肉づきのいい体格が邪魔をしてそうとは映らないしふたりと比べてしまうと小さいが、標準よりは長身のほうだ。
そういえば、あまりのぼさぼさ具合に目を取られてしまったが、日の下で見た大男の髪もうっすら金色がかった密色ではなかったか。ヨワはようやく顔を上げた。大男はまっすぐヨワを見てにっかりと笑った。
「俺の名前はススタケ・マロンヘッジホッグ。スオウ兄貴とススドイ兄貴の弟だ」
ススタケはヨワを通り越してなにもない壁に手をついた。
「それだけじゃ信じられないって? だったら俺たち三兄弟と一部の民しか知らない秘密の庭を見せてやろう」
ススタケがそっと押すと壁が動いて薄暗い部屋に緑の光が差し込んだ。ヨワはその暖かな光に引き寄せられ、薄闇にぽっかりと開いた入り口から中を覗き込んでみた。
最初に感じたのは木の香り。切り出したばかりのどこか安心する木のにおいがヨワを包んだ。それもそうだ。その部屋は床も壁も天井も木でできていた。緑の光の正体は点々と壁にかけられたランタンだった。けれど火ではない。よく見るとガラスの中はからっぽでまるい光の玉がゆらりゆらりと揺れて、時折ぽあんと輝きを放っていた。
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