102 僕はユンデ!⑤

 なにかの罰ゲームかな。ヨワの頭に真っ先に浮かんだことがそれだった。大学に所属する学生が一風変わった格好のヨワに目をつけて、暇潰しのゲームを思いついた。大学は自分で目標や計画を立てられない者にとってはのんきな時間が流れる場所だ。あり得ない話ではない。

 ヨワはユンデをにらみつけようとしてやめた。怒りや傷ついた感情を表に出すのは相手の思うつぼだ。なんともない風に軽くあしらってやらなければ。


「本当に私とつき合う覚悟があるの?」


 いっそ傲慢にヨワは笑ってみせた。


「もちろんだよ!」


 ユンデはうれしそうに破顔した。ヨワの気転を利かせた返しに怯まないとはなかなか面の皮が厚いしかけ人だ。それともただの鈍感か。ヨワはちらりとリンを見た。顔が引きつっている。絶対零度の風は彼には届いているようだ。

 ふと、どんな言葉でユンデを振ってやろうかとばかり企んでいたヨワの思考に、新たな考えが浮かんだ。唐突な思いつき。それを口走った先にどうなるか想像もする前から脳裏をきらめかせた。ユンデとの出会いは運命だったのかもしれないと思うほどの名案だった。


「そう。わかった」


 にわかにユンデは歓声を上げた。リンの戸惑う声が聞こえた。たとえ遊びでもいい。ユンデがまだその気だというのなら乗ってみよう。それがヨワの出した答えだった。


「じゃあ当日十時に大学の門まで迎えにいくから、待っててねヨワ」


 別れ際にもう一度ヨワを抱き締めて、ユンデは足取り軽やかに鉱物学研究室から去っていった。その靴音が消えると休日の大学は本来の静寂を取り戻す。扉を閉めたヨワは痛いほど視線を向けてくるリンを振り返った。


「というわけで、恋人ができそうです」

「どういうつもりだ。断る気満々だったろ」


 にらみつけていた目を逸らしてリンは首裏を掻いた。

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