47 自給自足⑥
「私まだ水汲みの途中だから」
そう言ってヨワは斜面をざくざくと登った。振り返った時、ロハ先生とバナードが目に入って、心の端にちょこっとあった罪悪感を散らす。
ここには男が三人も四人もいるのだ。女の自分ばかりが重い荷物を担当することはない。たとえ残された男性陣の内ふたりが、六十五歳の高齢者と、万年運動不足のひ弱な学者でも構わない。
どんなに軽い荷物だってすぐに気づいて持ってくれる。そんな異性を夢見る浮遊の魔法使いがいたっていいでしょ。
「水瓶のほうが絶対重いのに」
ヨワの背中に恨めしい視線を送るリンを置いて、ユカシイとロハ先生とバナードはそそくさと山を登り出した。
「そこ待てよこら!」
結局、山賊ひとりを運んだところで、リンは音を上げた。泣きついてきた彼を吹き飛ばし、ヨワはもうひとりの山賊を運ぶはめになった。
ささやかな夢がとても遠い。
西の山端に日が沈む頃、ダゲンの山小屋はチーズの香りがもわもわと充満していた。
たまねぎとコーンのピザに、トマトソースとバジルのピザ。窯で焼き上げられたばかりのそれが、冷めない内に早く食べてと湯気をくゆらせている。
ヨワとユカシイは待ちきれず顔を突き出して、目一杯空気を吸い込んだ。
「今が食べ頃」
「間違いない」
「冷めたらおいしくないわ」
「まったく。食べるしかない」
ぽとり。ピザの船から落ちたコーン船員をヨワの指が救おうとしたその時、さらに焼き上がった二枚のピザを手にしたダゲンが現れた。
「ヨワ」
「なにもしてません!」
「なに言ってるんだ? そろそろみんなを呼んできてくれ」
テーブルにピザを並べてダゲンはまた窯の元に戻った。つまみ食いをしようとした瞬間は、見られていなかったようだ。
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