18 決意①
年老いた執事は少し間をあけてからこう言い直した。
「旦那様と奥様はだたいま、誰ともお会いになりません」
それは子を失った親の悲しみの深さを物語っていた。あの人たちには悲しんだり思いやったりする心がないのかと思っていたヨワは、少なからず衝撃を受けた。おそらく会わないのではなく会える状態ではないのだろう。門の向こうに佇む屋敷の中で涙を流すシトネやミギリの姿を思うと、今ようやくルルが死んでしまった実感が湧いてきた。
ひと目顔を見てせめて別れのあいさつができたらと思っていたが、ヨワは急にルルと顔を合わせる自信がなくなってしまった。
「帰ろう」
結局、ヨワとユカシイはホワイトピジョン家の敷地に一歩も入ることなく帰った。
今日は日曜日で大学は休みだ。そうでなくてもロハ先生は城でなにやら忙しそうだったので、鉱物学研究室は休講になっていただろう。
大学と住宅地を分かつ路地まで来た時、ユカシイから朝食に誘われたがヨワはそれをやんわりと断った。気落ちしている自分を元気づけようとしてくれている後輩の気遣いはうれしかったが、少しひとりになって頭を整理したかった。
スオウ王のとんでもない命令のこともじっくり考えたかった。ホワイトピジョンの務めとはどうやら国の安全と機密に関わる重大なことらしい。あれだけで引き下がるとは思えない。かと言ってヨワに国のため、人々のため、王が選んだリンを受け入れようという立派な精神も勇気もない。
この国で生まれ二十三年間生きてきたが、悪い思い出よりいい思い出のほうが圧倒して少なかった。
「バカみたい。どうして私ばっかり我慢しなきゃならないの」
ヨワは絶対に首を縦に振るもんかと息巻いた。ヨワが頑なな態度を取りつづければスオウ王もススドイ大臣も諦めて他国から浮遊の魔法使いを連れてくるだろう。
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