第8話

校長先生の長い長いありがたいお言葉を頂き、その後生徒指導部の先生、進路指導部の先生の話が終わり、やっと教室へと戻れる。


「はぁ〜。疲れたぁ…早く部活行きてぇ〜。」

大きな伸びをしながら拓斗が言ってくる。


「拓斗はほんとにサッカーが好きだもんな。今年こそはインターハイ行ってくれよ。」


「あぁ。わかってる!今年こそはもうあんなミスはしねぇ。」


去年、拓斗が1年生の時。もちろん拓斗はその時から才能があり、レギュラーに入っていた。

地方大会決勝戦。この試合に勝てばとうとうこの学校初のインターハイ出場。しかし、試合はどちらも得点を取ることができないまま試合の90分が過ぎていった。そして後半アディショナルタイム最後のワンプレーかという時、ハーフラインを超えた辺りにいた拓斗にボールが渡った。その時サイドにいた3年の先輩が裏に駆け出していた。あの時スルーパスを出していれば結果は変わっていたかもしれない。だが拓斗はあえて自分のドリブルでゴールまでボールを運ぼうとした。1人、2人とかわした後、ボールが相手に取られてしまい、ラストチャンスにかけていたチームはディフェンス対応に遅れ、ゴールを奪われてしまった。そして残酷にもここで終わりを告げる笛がフィールドに鳴り響いた。


この時、拓斗は完全に落ち込んでしまった。

しかし引退していく先輩達は拓斗に夢を託した。拓斗はその夢を叶えるために今、サッカーに人生をかけている。


「拓斗ってかっこいいな。」

僕がそう言うと、

「な、なんだよいきなり。褒めても何も出ないぞ。」

拓斗は少し顔を赤くして照れていた。


「ちょっとそこでイチャつかないでよ〜。」

蒼が割って入ってきた。

「私も祐くんに可愛いって言ってほしい〜」

蒼がねだって来る。

「はいはい、かわいいかわいい。」

僕は簡単に流していた。


そして教室に戻った。


今日は始業式だけで授業は終わりだ。

帰宅部の俺は、もうこのまま帰る事になる。

もちろん蒼も勉強していないとこの学校の授業についていけないので部活などには入っていない。

だからこうやって早く帰れる日は…。


「ねぇ、今日帰りに隣町のショッピングモール行こ!」

やっぱり蒼からお誘いが来る。

断るのも可哀そうだし、勉強も頑張っているから毎回誘いは断らず付き合っている。

勿論、今回もだ。


「相変わらずお前らはイチャイチャだな!

お幸せにな〜」

拓斗が笑いながらからかう。


「そんなんじゃねぇっての」

言い返すだけ無駄か、


しかしそろそろ有栖川さんの方も何か考えないといけないな。まずは、話しかけないと何も始まらないか。

でも、このたくさんの生徒がいる中で話しかけるには、少しまずい。

有栖川さんが一人になる時を見計らおう。

そう思っていた矢先に有栖川さんが席を立ち、教室を出ていった。トイレだろうか。

丁度いい、この際に話しかけよう。


「悪い、トイレ行くわ。」

僕はそう言って教室を出た。しかし有栖川さんが向かっているのはトイレでは無かった。

3階へと上がっていき、結局、屋上の階段の前まで来た。

屋上は生徒立ち入り禁止なんだが…。

そんな事を考えながら有栖川さんを付けていった。

そして有栖川さんが屋上の扉の前の最後の段を登るときに足を段に引っ掛けて盛大にコケてしまった。

俺は勿論その光景を見てしまった。

スカートの中のパンツも…。

あぁ…やっぱりこんなラブコメは大嫌いだ…。


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