第6話

この人は何を言っているんだ。

僕はこんな事を聞くために真剣に話を聞いていたのか?


「それより、何でそんな事で僕が有栖川さんと付き合わないといけないんですか?」


「あなたも友達が少ないのは知っているのよ。それに、あなたが彼女と付き合う事で、彼女がさらに他の人と関わることを促すことを期待しているの。」


「そんな事言ったって、有栖川さんが僕に心を開くとは限らないじゃないですか。」


「あなた、私の話を聞いてたの?

私は彼女の従兄弟なのよ?彼女の事なら何でも知っているのよ。」


「じゃあ有栖川さんが僕に心を開くと言うんですか?」


「そうよ。必ずね。」

かなり自信があるようだ。


「そして彼女のタイプは…」

またその事を話そうとするので途中で会話を止めた。


「分かりました。

分かりましたよ、努力はします。」

泣く泣く承諾はしたは良いものの、どうしたものか。


「ありがとう。

あなたのこれからのラブコメ生活のサポート一生懸命させていただくわ。

だから定期的にあなたを呼び出して情報を聞くからね。」

笑顔で嬉しそうに佐伯先生は笑う。

やはりその笑顔は天使のようだ。美しい。

付き合うならこんな綺麗な人と付き合いたかったな。

しかもこんな無茶苦茶なラブコメがあってたまるか。


「あ、あとこの話は誰にもしちゃ駄目よ。 まあ話すような人って二人ぐらいしかいないよね。」

この人ほんとに僕のどこからどこまで知っているんだ?

少し怖くなってきた。


「分かりました。」

溜息をつきながら答えた。


「さあ始業式ももうすぐ始まるよ。

早く教室に戻って待機しておきなさい。」

また笑顔で話す。

その笑顔も、いやもうこの話は良いか。


「失礼しました。」

俺は扉を開け教室へと戻った。


教室に戻る廊下の間、僕は有栖川さんと付き合うところを想像してみた。

言っても彼女はとても美人だ。胸もそれなりにあるしな。

あんな人の横を歩く自分が想像できない。

でも有栖川さんは僕のこと好きなんだよな、

って僕は何を考えているんだ。

人というものは簡単に現実を受け止めてしまう。もう有栖川さんと付き合う事を想像している自分に殴ってやりたい。


そうこう考えている間に教室の扉の目の前まで来ていた。


教室のドアを開けるや否や、蒼が僕のところへ来た。


「先生と何の話をしてたの?」

蒼は俺の目を見て聞いてくる。


「家の事で話をしてたんだよ。

うちには親がいないの知ってるだろ。それで先生が心配して定期的にあーやって呼び出すんだってさ。」

あの事を言うわけにはいかないからな。

あと定期的に呼び出されるのは嘘ではない。

ちゃんとサボってないか確認されるためだがな。


「そっか、わざわざそんな事まで気にしてくれるなんていい先生だね。」


「言ってる事と顔が全然真逆だぞ。」


「だってなんでわざわざそんな事までするの?定期的に呼び出さなくても、しっかりした祐くんの妹もいるし、私もいるから大丈夫だもん!」


「簡単にはいそうですか。とはならないんだよ。」

頭をかきながら言い返す。


「おいお前ら、新学期そうそう、教室で何騒いでんのさ。」

歩いてきた拓斗が耳打ちするように話しかけてきた。

ふと周りを見ると皆が僕たちの方を見ている。


コソコソと話している奴らもいる。


「新学期早々変な噂を立てられるのは嫌だぜ、はやく席につこう。」

拓斗に言われた通り、この場から逃げるように自分の席に戻っていった。


この時有栖川さんはと言うと…

めっちゃ僕の事見てるんですけどぉぉぉ!!

しかもちょっと睨んでない?

何なに?この青春ラブコメ、いきなり雲行きが怪しいんですけどぉ?

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