第18話 初登校と裏口
柊が何を考えているのかわからずに、悶々としている良太だったが、なぜリムが制服を着てここに居るのか? というもう一つの疑問の方はすぐに解けることになった。
ホームルームが始まり担任が説明してくれたのだ。
「えっと、今日からこのクラスのお友達が増えます。彼女は浅野君の従妹にあたるそうです。最近まで海外に住んでいたので、わからない事も多いです。みんなで教えてあげてくださいね」
良太のクラスの担任小坂史恵(こさかふみえ)は身長が低く、見た目は子供頭脳は大人を字で行くような女性。
年齢はまだ20代と若く、生徒からは先生というよりも友達感覚で慕われている。言動からも高校教師というよりは小学生の先生の方が似合っていそうだ。
「リムさん自己紹介をお願い」
「ん。……リム」
小坂先生が促すとリムは片手を上げて、名前だけを呟く。彼女なりの挨拶なのだろう。
「も、もう少しなにかこう趣味とか……好きな食べ物だとか」
「……趣味? はよくわからない。好きな食べ物は良太の母が作るごはんとプリンパン」
「は、はい。ありがとう。じゃあ席は浅野君の隣ね。浅野君あとはよろしくね」
「……ん」
言葉の少ないリムに、小坂先生もどう接していいのか掴めていないようで、扱いのまだわからない転校生を良太に押し付けた形。
彼女はそのまま良太に手を振って教室を出て行ってしまった。
「ふみちゃん俺に丸投げしやがった……それどころじゃないのに……」
二年の良太は小坂先生とは入学から担任だったので、その性格もだいぶわかってきている。
去り行く担任の後ろ姿に悪態をつきながら隣の席に座るリムを見据え、席を立つ。
「リム。ちょっとこっち来い」
「ん? どうした良太」
「校舎案内するから」
柊の事も気にかかるが、わかりやすい方から解決するべきと良太は判断したのだ。
クラスの生徒がリムに群がる前に良太はリムを教室から連れ出す。まだ他のクラスはホームルームの最中、話を聞くにはちょうどいい。
教室を出たすぐに良太は屋上へと向かった。
「どうやった?」
「なにが?」
「何がじゃなくて。どうやって入学した?」
屋上に着くと、良太はすぐにリムへと詰問する。
彼女は別世界の魔王の娘。
当然戸籍等あるはずもなく、学校に通う事など出来るはずがないのだ。
「……八木が全部任せろって……」
「ひぃつぅじ~っ!」
少し考えこむように俯いたリムは、すぐに顔を上げる。その答えを聞き、良太は背後にいる八木へと視線を映した。
「なんですかな? それよりもこの下等な人間は私が八木だと何度言ったらわかるのですかね」
「お前いったい何したっ? 」
良太の言葉にしれっとした表情で文句をつける八木の言葉を無視し、声を荒げて問い詰める。
「何をしたもなにも今朝方、しっかりと書類を作って提出したのですよ。……聞き分けが悪かったので少々魔法も使いましたが」
「おまっ?! やっぱり人を操れるのかっ?!」
「いえいえ、精神に影響を及ぼすような魔法はございません。ただ魔法で理事長の欲しい物を聞き出して、それを差し上げただけですよ。あの方はなにやら古物の収集に大変な魅力を感じているようでして……千年前の陶器を見せたらすぐに許可を頂けましたよ」
魔法という超常の力で何でも出来、それこそ人も自由に操れるのでは? という良太の心配は杞憂だった。
だがそれはそれとしてその方法が、
わかりやすい賄賂だった。
理事長が試験も準備もすっとばして入学させるなど、よほどその陶器が欲しかったのだろう。
良太の脳裏に白髪のダンディな理事長の姿が映し出される。
「うちの理事長もそうとう適当なんだな……」
厳格そうな姿とは真逆の行為に良太の中で理事長の評価は右肩下がりだ。
「良太……学校楽しそうだったから……ダメだった?」
眉間に皺を寄せて落ち込む良太をリムが下から覗き込み、小さな声で問いかけてくる。
いくら表情の変化が乏しいとはいえ、潤んだ瞳で覗き込まれれば、思春期の良太の心に一撃を加えるのは容易い。
「い、いや……ダメ、じゃないけど……」
触れれば壊れてしまいそうな美少女のお願い。それに抗える男子が世の中にどれほどいるだろうか?
顔を赤くしたちょろい良太は、彼女の魅力に一瞬で屈したのだ。
「……わかったよ……その代わり学校で魔法を使うのは禁止な。変に目立つと俺が面倒くさいっ!」
「ん。わかった。ありがとう良太」
「あと羊。お前もだぞ」
我関せずと屋上を飛び回っていた八木にも釘を刺す。リムのお願いに羊が忖度して勝手に魔法を使われては、たまったものでは無い。
「なぜ私が人間の言う事をきか……」八木。良太の言う事を聞いて」
「かしこまりました姫様」
「ん……」
こうして魔界の姫が良太の高校へと通う事が決まったのだった。
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