第6話 世界最大のチェーン店

 お腹を抑えながら空腹を訴えるリムの言葉で、良太はスマホを覗き込む。


 11時30分、昼飯には少し早いが我慢させても騒がしくなるだけだろう。


「わかったよっ。じゃあマッフでいいよな。確かすぐそこにあったはずだから……」


「マッフ? どんな食べ物?」


「マフトランプ。知らないのかっ?!」


 全国チェーンのマフトランプ。ハンバーガーで世界を席巻しているといっても過言ではない店をまさか知らないとは、本当に知らない様子のリムの反応を見て、良太は驚きを隠せない。


「知らない……美味いのか?」


「ってかマッフ知らない奴も初めて見た。……美味いぞ。安くて早くて美味い、三拍子そろったのがマッフだ」


「うん。ならマッフでいい」


 この街を知らないどころか、テレビでも見ていれば誰でも知っている事までわからないのだ。さすがに箱入り娘にもほどがあると、良太はリムの顔をじっと見つめる。


 白く透き通りそうな肌は日焼けとは無縁の証拠。世間知らずで辛い実家。


「良太……良太っ!」


 目の前の少女は今まで監禁でもされて育ったのだろうか。


 そんなことを考えていると、良太と比べて頭一つ分身長の低いリムが、下から覗き込むように顔を近づけてきた。


「うをわぁっ!」


「何を呆けている。早くマッフに行こうっ!」


 リムは美少女なのだ。


 日本人離れしたその整った顔を急に近づけられ、良太は飛び上がるように驚く。バクバクと脈打つ胸に手を当てていると、余程腹を空かせているのか彼女はその手を掴み歩き出す。


「マッフ、マッフ、マッフ」


「おいっ、待てってっ! どこに店があるのかわかるのか?」


「……知らない……」


 よほど語呂が気に入ったのか、よくわからない歌を口ずさみながら腕を引っ張り先を進むリムだったが、良太の一言で振り返り、わかりずらいが少し悲しそうな顔で呟く。


「わかったから、ちゃんと連れてくから、しっかりついてきてくれよ」


「マッフ」


「わかったって……」


 マッフ以外の言葉を忘れてしまったかのように繰り返すリムの前を歩き、少しすると目的のマフトランプが見えてきた。


「おお~」


 ファーストフードなのに外装にこれでもかと力を入れた不思議な建物。トレードマークのМの文字は良太十人分くらいの大きさ、周囲を電飾で飾り付けたそれはクリスマスでもないのに光り輝いていた。


「相変わらず派手な店だ……」


「早く行こうっ」


 目的地が見つかり先ほどと同じように良太の腕を引っ張るリムに、今度は逆らわずに足を動かし、これまた派手な入口をくぐって、カウンターへと向かう。


「いらっしゃいませ~。ご注文はお決まりですか?」


「……どれがいい? 全部いいの?」


「まてって、どさくさにまぎれて全部とか言ってんじゃねえよ。え~っと、マッフバーガーセット二つで……」


 笑顔を浮かべる店員さんの台詞にリムは興奮して良太に詰め寄る。レギュラーメニューを頼むと、会計を終わらす頃には商品が出てきた。


 さすがに速い。


 店内で食べる為、席に着いたリムは待ちきれないのか、そわそわと目の前のハンバーガーの包みを見つめている。


「これはこの包みをとって、こうやって食べる物……」


「手が汚れないようにしているのだな」


「……はは、ほら食べろよ」


 置いたトレーの上を手も付けずに睨みつけるリムに、良太はハンバーガーを手に取ると包みをとって食べて見せると、すぐに彼女も同じように包みを解き。


 ハムッ!


 待ちきれないと言わんばかりに齧りつく。


 可愛らしい小さな口にパンを頬張る姿を見ていると、良太は妹でも出来たかのように錯覚してしまう。


「……もぐもぐ、ごく。……………美味しいっ!」


「そうだろう。伊達に世界規模じゃないって事だよ」


「でもリム的には昨日の方が好き」


「ああ~。あのプリンパンか? リムは甘党なんだな……」


「ん、これも好き。……おかわりっ」


「速すぎるだろっ!」


 あっという間に完食してしまったリムに、追加で別の種類をいくつか買ってくると、どこに入るのかという量をペロリと平らげてしまった。


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