美少女が家出して来てうちに居候する事になったのですが、実は魔王の娘でなぜか俺に懐きました。~平穏無事な学園生活を送っていた俺の恋路を全力で邪魔してくる~

常畑 優次郎

第1話 不思議な少女との出会い

 父が残した一軒家。


 それと大人になるまでの生活費。そのおかげで母と二人で慎ましいながらも、不自由なく生活することが出来た。


 それでも二人きりで住むには大きすぎる家で、若干の寂しさを感じながら毎日学校へと通う。


 浅野良太は高校二年生、自宅から一番近い公立の学校に通い。今日も遅刻しない程度の時間に家を出て、問題なく登校する……はずだった。


「ふわぁ~」


 朝は弱い為、徒歩二十分で着く学校へHRが始まる五分前に着く時間に家を出ている。良太は欠伸を噛みしめ、バッグを肩にかけて通学路を進む。


 ふと、普段だったら気にしない路地に目が止まった。


 古びた家々の間、人が一人ようやく歩ける程度の道。誰も住んでいないだろう両側の家からは、伸び放題の木の枝がアーチのように道を覆い、朝日も昇り切った時間だというのに、そこを薄暗くしていた。


 昔からこの街に住んでいる良太でさえ、あまり通った事の無い道。


 子供のころ一度だけ通った事のあるその道は、記憶が確かであれば小さな神社があったはずだ。


「にやぁぁぁん」


「おわっ!」


 鳴き声と共に良太の視界の外から一匹の猫が、良太の肩にかけていたバッグに体当たりをしてきた。 


「いっつつつ」


 驚いてその場で尻餅をつき、尻から上ってくる痛みを堪えて顔を上げると、路地の方に走って行った猫が良太を見据えている。よく見るとその口にはキーホルダーを加えているようだった。


「なっ!! お前っ、それはダメだって」


 それは良太がいつもバッグにつけているたこ焼きのキーホルダー。亡くなった父に買ってもらった物で、今では形見になってしまった物だ。


「……返せっ!」


 即座に立ち上がると猫を追って路地へと入って行く。このままでは遅刻だが、それよりも目の前の泥棒猫を捕まえなければならない。


 勢いよく走る良太に驚いたのか、猫は路地をさらに奥へと進んで行く。


 一直線に走る猫を追って、路地を抜けるとそこは記憶にある神社と変わらぬ景色。周囲を木々に囲われていて、小さな社と二体の犬か狐かわからないような像があるだけの神社。


 先を行く猫はその社へと向かう。


「待ってくれって、それは大事な物なんだっ!」


「にゃあっ」


 言葉がわかったわけでは無いのだろう。だが、猫は賽銭箱の上で止まると振り返り一声鳴く。


「……あっ!?」


 獲物を口に咥えていたのだ。鳴けば口が開き、キーホルダーは賽銭箱の中へと吸い込まれてしまう。 


「あーーーっ!!」


 中に落ちてしまったキーホルダーを取ろうと、良太は数段しかない階段を飛び越え賽銭箱へと駆け寄る。驚いた猫は当然のように逃げてしまったが、盗られた物は箱の中。


 なんとか救出出来ないものかと中を覗き込むと、たこ焼きが引っかかって下にまでは落ちておらず、なんとか届く場所にあった。


 それを右手で握った瞬間、爆発のような音が背後から聞こえ、咄嗟に振り返る。


「……やった。成功っ! 大成功っ!」


「……!?」


 先ほどまでは誰もいなかったはずだったのだが、二体の石像の丁度真ん中辺りに、一人の女の子が両手を胸の前で握り締めながら立っていたのだ。


 彼女は幻想的なまでに美しく良太の眼をくぎ付けにする。


 小柄で良太よりも頭一つ分小さな身長。


 日本人離れした顔立ちにアメジストのような紫色をした風になびく長い髪、そして燃えるように鮮やかな赤い瞳、一番目を引くのは頭の両側から生えている……。


「角ぉぉぉぉっ!!?」


「うるさい」


 見入ってしまった良太を引き戻したのは、彼女の美しさではなく、頭部から生える二対の異物。それは、闘牛に生えているような角。驚きに声を上げる良太に映画の中から出てきたような美少女は、眉を寄せて口を開いた。


 現実に引き戻された良太は、改めて突如現れた少女を見る。年齢は高校生くらいに見えるが、黒いマントを羽織り、雑誌でしか見たことのないような、大きな胸の谷間を強調した目のやり場に困る衣服、そして角。なにかのコスプレか何かだろうか。


 よくみれば耳も少し尖っているように見え、クオリティが高い。


「人間……おい、人間っ!」


「……はっ、ひゃいっ!」


 惚けている良太に声がかけられ、透き通るように響く彼女の声に驚いて妙な声で返事をしてしまう。彼女はゆったりとした足取りで良太の元まで歩いてくると、その顔を覗き見てきた。


 近くで見る少女の肌は美しく、服の露出の多さも相まって、良太は思わず眼を逸らす。


「人間……なのだよな? ここは、人間界、なのだろう?」


「……ごめんっ。君が何を言ってるのかわからない」


「違うのか?! うぅっ……」


「危ないっ!!」


 問い詰めるように近づいてくるが、彼女の言っている事がどういう意味なのか理解が追い付いて行かない。少女は良太の返答を聞くと、苦悶の表情を浮かべ身体をふらつかせる。


 咄嗟に手を伸ばし彼女の身体を支えるが、勢いに負けた良太は座り込んでしまう。


「大丈夫!?」


「……う」


「救急車をっ!」


「……お前は、人間なのだろう?」


 腕の中で縋るように良太の服を掴む少女を見て、急いでスマホを取り出し、電話をかけようとするが、その腕をとった彼女は弱々しい声でもう一度問いかけてくる。


「そうだよっ! そんなことより病院へっ……」


 ぐぅ~~っ!


 焦る良太が返答すると、彼女のお腹から可愛らしい音が鳴る。


「……へ?」


「お腹減った」


 良太の心配を余所に、苦しそうにしている少女は空腹を訴えたのだった。

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