トラブル

 僕が少し裏で休んでいる時、張替が四人の女性と話しているのを見かけた。

 女性は四人ともマスクや眼鏡で顔を隠しているので、誰かは分からない。


 張替は四人の来訪に驚いているようだった。


「皆来ちゃったの!?」

「来たよー」


 四人の内の一人が笑って手を振る。


「まだ時間まで結構あるけど……」

「待ちきれなくなっちゃって」

「にしても、恋羽めっちゃ似合ってるじゃん」

「そうかな、えへへ……」


 髪の長い女性が張替に近づいてひそひそと話しかける。

「それで恋羽のこれはどこなの?」

「え、えっと……」

 張替が顔を赤くしながら、僕をちらりと見た。

 四人もその目線を追って僕の方を見る。


 そして、僕を見た瞬間、声を揃えて


「「「「え?」」」」


 と言った。


「えっ、いや女の子じゃん!」

「話しぶりから男の子だと思ってたのに!」

「そっちなら早く言ってよ!」

「私達はどんな形でも応援するからね!」


 どうやらこの格好のせいで僕の事を女の子だと誤解しているらしい。


「いやハルは男の子だから!」

「えぇ!?」

「嘘ぉ!?」

「あの可愛さで!?」


 こういう時、僕はどんな顔をすればいいのだろうか。


「せんぱーい、遊びに来ましたよー!」

 反応に困っていた時、魚形が僕のクラスに遊びに来た。魚形は僕を見つけるとぶんぶんと大きく手を振った。

 ちょうど良かった、僕もちょっと気まずかったし。


「今日も来たのかよ」

「はい! 先輩のオムライスは毎日食べても飽きません!」


 僕が魚形連れて張替と四人の近くを通った時、近くにいた男子のメイドが体制を崩して、お盆にと共にメロンフロートが僕の方に飛んできた。


 僕は咄嗟の所でそれを躱す。魚形もそれに気づいて躱そうとしたが、足をもつれさせてしまい、体制を崩してしまう。


「わっ!」


 最悪な事にも、張替の近くにいた四人の内の一人を巻き込んで。



 辺りが沈黙に包まれる。



「痛っつ……」


 巻き込まれた女性の声だけが響いた。


 その声を聞いて、僕ははっと我を取り戻し、その女性と魚形に駆け寄った。

「大丈夫ですか!」


 そこで一気に周りが騒がしくなる。


 駆け寄ると、魚形は無傷であることが分かった。きっと女性がクッションになっていたのだろう。

「あっ、ご、ごめんなさ──」

 魚形は悲痛な声で女性に謝っている。

「早く保健室に!」


 彼女に肩を貸して立ち上がるとき、最初にお盆を投げた男子のメイドの方を見ると、青い顔をした津瀬がぱくぱくと口を動かしていた。

「ち、違う。そんなつもりは……」


 僕は駆け寄ってきた他の男子メイドと一緒に、女性に肩を貸して保健室まで連れて行く。


「ごめんなさい……」


 魚形は最後まで謝りつづけていた。

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