貸し借りの第十二話。
「...えーと、つまり。中野くんたちとの、なに、取引?...で、私の写真を撮らなきゃならなかった」
「はい」
「それで盗撮しようとしてた...と」
「はい」
はあ、と深く
「......馬鹿なのか」
「...はい」
返す言葉もない。
スマホのカメラを構えた俺の姿を完全に視認した彼女を前に、言い訳の余地なんてものは存在しなかったのである。
彼女の視線が
いまめかしきアイドルの部屋だとは到底思えないほどに
「なに、他人の部屋をジロジロと」
「あっ、すみません...てかおい、お前も俺の部屋見てたじゃねえか」
「......今、自分が置かれている状況わかってんの?」
俺のささやかな反論に、月見里さんは目を細めた。彼女の入浴後、連行されたのはここ、月見里さんの部屋なのである。
「大変申し訳ございませんでした」
言葉少なに謝罪する。
全面的に俺が悪いのは明白だ。訴えられてもおかしくない。
「ん...ま、いいんだけどね。減るもんじゃないし」
「
「あ、その言葉遣いやめて腹立つから」
「はい」
月見里さんの表情が
「...まあ、これであなたの弱みも握れたし。許したげよう」
「弱み...」
前言撤回。いい性格してやがる。
俺は正座を
「それで、どうするの」
「どうするって、なにが」
「写真の件。また盗撮するの?」
いやいやまさか。
「もうこりごりです」
「あらそう」
しかし。どうしたものか。
中野くんたちに
「そんじゃあさ。協力、してあげよっか」
考え込んでいると、月見里さんが口を開いた。
「協力?」
その言葉の真意を
「はあ」
「えーと、だから。その写真に協力してあげるってことよ。被写体になったげる」
弾むような口調で説明する月見里さん。
なるほど...え?ようやく理解した。理解したけれど。
「え、それマジで言ってます?俺が言うのもなんだが、かなりアレだぞ。ヤバイぞ。エロい写真なんだぞ」
「ええ、分かってる。さっき言ったでしょ、別に減るもんじゃない」
「それはそうかもしれんけどさあ...」
逆に俺の方が
「別に企みがないってわけでもないけど」
「ナチュラルに心を読むのやめてくれ」
なにこいつエスパー?伊東?怖いよ。
「だから私を何だと思っているの...。ただの純粋な好意よ。......それに、ほら。もとはといえば私の責任だしね」
「あ、その自覚はあったんだ」
「当然よ。まあ私が今、あなたに協力すれば、必然的にあなたも私に協力せざるを得なくなる。これで貸し借り無しのトントン、今後私が満足するまで、宮原夕陽は月見里咲耶の彼氏役っていう
勝ち誇ったように言い放つ月見里さん。どこまでも打算的な彼女に、俺は思わず
「なに、私のグラビア写真じゃ
「いや...」
そんなことはないと思う、多分。
「凄いな、って」
「...なにが。あまり褒められている気がしないのだけれど」
いいや。凄いよ、お前は。
目的のために計算し、
しかし、現在における彼女の目的というのは俺と偽装カップルを演じること。ひいては演じ切ったあとに起こる何か。その為だけに、月見里咲耶は俺と関わっているように
彼女の狙いは何なのだろう。そこまでして叶えたい大願とは一体。
問い詰めてもきっと、教えてくれない。まだまだ心の距離がある。友達でも、ましてや俺の彼女でもないのだから。
違和感と疑念に思考が奪われ、ぐるぐると、かんがえる。
「...まあいいわ。そんじゃあ撮影会の準備するから。廊下出ててよダーリン」
「ああ」
考えすぎて熱を持ったパソコンのような脳が、廊下の冷気によって冷やされていく。同時に、思考も冷静になる。
考えてもわからないことは、仕方がない。
てか、撮影会ってなんだよ!
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