勉強会 ④

 図書室での勉強会も五日目になり、試験対策はかなり出来たと思う。元々、そんなに成績は悪い方ではないので心配ないし、一緒に勉強してきた美影は俺以上に問題ないはずだ。三人で始めた勉強会だったが、そもそもは志保の為に美影が以前からやっていたようだ。美影の成績は俺よりも遥かに上で学年でもかなり上位らしく、逆に志保は常に赤点ギリギリのようだった。

 この五日間も志保が美影に何度も質問したり、美影が教えたりしていた。美影の教え方はとても上手くて分かりやすい、俺も何度か質問したら丁寧に分かりやすく教えてくれた。何故、志保が美影を頼りにするが凄く理解出来たような気がする。

 時間もかなり経ち図書室が閉まる時刻に近づいてきた。


「ねぇ、美影。明日は何処で試験勉強するの?」 


 志保は美影のノートを必死に写しているが、隣に座っている美影はひと段落したみたいで片付けを始めている。


「そうね……この様子だと志保はまだみたいだね」


 美影が志保の様子を窺いながら言葉には出さなかったが、俺の顔を見て「宮瀬くんはどうする?」といった表情をしている。


「俺はいいよ。ここまで来たからには最後まで付き合うよ」


 そう言うと美影は手を止めた志保と顔を見合わせて嬉しそうな表情をする。多分、二人は最初から明日も一緒に勉強する予定だったのだろう。

 しかし俺が参加する事になり場所を何処にするのか迷っていたようだ。美影が俺の顔を見て悩んでいる。


「えっ〜と、じゃあ、市立図書館にしようかな」

「いいんじゃないかそこで、何時に集合にするの?」

「そうねー、遅いと座る場所が無いかもしれないから九時にしようか……早すぎるかな?」


 志保と俺の顔を見ながら美影はちょっと不安そうな表情をしている。志保はえ〜って顔をしていたが、俺は頷きながら問題ないよという顔をしていた。


「決定だね。志保! 遅れないようにね」

「は〜い、分かりました〜」


 志保は若干ふて腐れ気味に返事をしていたが、美影は安心したのか楽しみにしているような表情をしていた。俺も集中して勉強したので少し疲れていたが、二人の様子を見て笑みが溢れていた。


 翌日、約束の時間通りに図書館に到着すると、美影と志保は既に入り口の所で待っていた。


「あぁ〜由規、遅いぞ――」

「ちゃんと遅れずに来てるぞ」


 志保がドヤ顔で意地悪そうな笑みを浮かべて俺の顔を見ている。その隣で美影は愛想笑いをしている。きっと美影が志保を迎えに行ったのだろう……


「さぁ、入りましょうか」


 美影を先頭にして志保と俺が後を付いて行く。俺は初めてだけど美影と志保は何度か利用した事があるみたいで、勉強が出来るスペースへ迷うことなく向かって行く。

 到着すると想像していたよりも広くてかなりの座席数があって驚いた。まだ早い時間帯だけど、結構座席が埋まっているのは予想外だった。美影と志保は俺よりも先に行き、毎回同じような場所に座っているようでその座席を確保しようと急いでいた。


「由規、ここよ」


 志保が手招きをしながら小さめの声で呼ぶので、他の人の邪魔になったらいけないと周りを見渡し「分かった」と合図を送り大きめに頷いた。志保は少しバツの悪そうな顔をしていた。

 美影と志保が座っている所まで移動して、いつも学校の図書室で勉強していたような感じで始めた。静かな環境なので集中して出来きて予想以上に捗った。そもそも美影と俺はここに来てまで勉強する必要が無かったのだ。問題があるのは……顔を上げて志保を見ると、何故か退屈そうな顔をして欠伸をしていた。


「あのな〜、志保……」

「あっ、ゴメン……」


 さすがに志保はまずいと思ったのだろう苦笑いをする。美影はいつものことのように気にしていなかった。時計を見ると一時間以上経っていて集中力も切れる頃なので一息入れることにした。


「そろそろ休憩でもするか」

「うん」


 志保は待っていましたと言わんばかりに嬉しそう顔で俺を見る。美影も「そうね」と仕方なさそうに頷いていた。

 三人で席を立ち自販機がある休憩スペースに移動した。移動する間、それまで気がつかなかったが空いている席が無いくらい埋まっていた。殆どが俺達と同じ高校生みたいだなぁと眺めて歩いていたら、たまたま視線に入った二人組がいた。何気なく見ていたのだが、よく見ると知っている二人だったのだ。


(こ、これは⁉︎ 絢と白川が何で居るんだよ……)


 額に汗をかきそうになったが、先に歩いている美影と志保は気付いた様子はないみたいだけど油断は出来ない……何か悪い事をしている様な感じで自己嫌悪になりそうだ。


(いやいや、別に悪い事はしてないから堂々としよう……)


 そう自身に言い聞かせて、さっき迄と変わらずに慌てる事がない様に二人の後ろを付いて行き休憩スペースまで移動した。落ち着きがなく疑われないように注意して、焦ることなく三人で会話をしながら自販機で飲み物を買ったりしてリラックスしていた。


「志保、どのくらい進んだんだ?」

「えっとねぇ、だいぶ進んだよ〜あと半分くらいかな」

「おお、そうか。思ったより進んだなぁ」


 意外に進んでいたので素直に驚いてしまう、このまま順調ならお昼過ぎには終われそうだ。


「甘いわよ……宮瀬くん」


 隣に座っていた美影が訳ありそうに笑っている。


「すんなりといかないのが志保だから……」

「な、何よ、酷くない美影……」


 志保がムスッとした顔して美影を見ているが、美影はお構いなしといった感じで「いつものことじゃない」と呟いていた。

 二人のやり取りで何となくこの後の事が予想出来て、多分なかなか帰れないパターンのような気がした。


(待てよ、そうなると絢達と出会ってしまい可能性も上がるってことだよな……)


「そんなことないよな、頼むよ志保」


 志保に頑張って貰うしかないと励ますと志保は嬉しそうな表情をしていたが、美影が反応してきた。


「あら、宮瀬くん珍しいわね、志保に対してそんなこと言うなんて……」


 美影が俺の顔を覗き込むようようにして言い返してきたが、顔は笑っているので冗談で言っているみたいだった。一瞬何か疑われたのかと思ってしまったが、俺的には本気で志保に頑張って貰いたかった。

 暫くしてからまた元の場所に戻った。その時は席を外していたのか絢達は居なかったが、荷物は残っていたので帰った訳ではないようだ。

 とりあえず回避出来て、ほっとして勉強を再開させた。

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