2.第一の事件:ポルターガイスト

翌朝。

今にも落ちてきそうな目蓋をなんとか持ち上げながら、学校に着く。

朝は苦手だ。こんなに眠い頭じゃ文章を書けそうにもないけど、吉野先輩がこわいので仕方ない。


いつものように三階の渡り廊下から東棟に向かうと、なんだか騒々しい。

こんな朝からなんだろうと思って近づくと、マジック研究会の部室前に人だかりが出来ていて、その中にタダッチを見つけた。

「おはよう。なんだかんだでちゃんと朝も来たんだ、偉いね」

「おう!サボったら先輩怖いしな。てか、それどころじゃねえよ、やばいぜ」

「何があったの」

「部屋の中見てみろって」


タダッチに強引に背中を押され、人混みをすり抜けてマジック研究会の部室を覗くと、中は酷い有様だった。

床にはマジックに使う小道具が散らばり足の踏み場もないほど。

机や椅子はひっくり返され、カーテンは引き裂かれている。まるで竜巻でも起きたかのような荒れようだ。部員達はショックを受けて立ち尽くしている。


テンションを上げて騒いでいるのは心霊現象研究会の連中だ。

会長の向井先輩を筆頭に「これはスクープだ!」「リアルポルターガイスト!」等と好き勝手騒ぎながらカメラを回している。

ちなみに心霊現象研究会は部員11人のサークル。

年一回、曰く付きの廃墟に忍び込んで行う心霊合宿がサークルの目玉で、その他にも各所心霊スポットを巡ってそこで撮れた映像を文化祭で上映している。


僕ら超常現象研究会の事を勝手にライバル視している向井先輩がヒョロヒョロした腕を振り回しながら「このスクープは我々のものだ!君らのような弱小サークルには渡さないぞ!」などと言ってくるけど、僕とタダッチは圧倒されて苦笑い。


教室の中央には何やら神妙な面持ちで黒板を見つめている桐生先輩がいた。

「大丈夫っすか」

タダッチが近づいて聞くと桐生先輩が無言で黒板の真ん中を指さした。

そこには赤いチョークでで

『文化祭を中止しろ

さもなくば恐ろしいことが起きる』

と書かれていた。


-----------


「酷い事する奴もいるもんだな」

マジック研究会の部員が片付けを始めたので僕たちは邪魔にならないように自分達の部室に向かった。

「酷い"奴"っていうか、人とも限らないよ」

僕が憶測を話すとタダッチが首を捻った。

「どういうことだよ?」

「マジック研究会の部室には大切な道具がたくさんあるでしょ。桐生先輩は毎日練習が終わった後に絶対部室に鍵をかけている。さっきマジック研究会の一年生が話していたけど、今朝来た時もドアにも窓にも鍵がかかっていたんだって。そんな状況で部室に入れるなんて、幽霊の仕業かも」

「そうか?お前もそういう話好きよなぁ。俺は単なる悪戯だと思うけど。鍵なんて針金とかでカチャカチャやれば開くんじゃね」

「タダッチ、浪漫ないね」

「なんだよ。でもさ、黒板に書かれていた文字があっただろ?

幽霊様がご丁寧にチョークで字書いてたら雰囲気台無しだろ」

「むむ、確かに」

「な?ひとまず犯人は人間だとして、どんな奴だろうな。マジック研究会によっぽど恨みがあるとか」

「うーん...」

その時、僕の脳裏に一人の人物が浮かび上がった。

「恨みというか、嫉妬している人ならいたね」

「あー」とタダッチ。


超常現象研究会の部室につき、扉を開けると鬼の形相で執筆中の吉野先輩がいた。

「まさか先輩が...」

タダッチはサスペンス女優のように大袈裟に崩れ落ちながら、

「だめですよ先輩ぃ〜。いくらマジック研究会の人気が羨ましいからって」

と涙の演技を始めた。

「何よいきなり」

怪訝な表情の吉野先輩。

そりゃそうだ。

「いやいや、冗談っす。先輩も見ました?マジック研究会の部屋」

「ええ、みたわ。それで気になることがあってさっき調べていたの」

吉野先輩は後ろを向くと壁際に積まれた過去の超常現象会雑誌『MO』から一冊を取り上げた。

「これ、10年前に創刊されたMO。二人ともみて」

僕とタダッチは吉野先輩に渡された雑誌を覗き込む。

そこには『恐怖!桜河高校の怪!深夜零時に現れる悪魔の謎!』という見出しの記事。


内容はこうだった。

桜河高校には深夜零時に悪魔が出るという都市伝説があり、夜間の学校の出入りを固く禁じていた。

しかし、その掟を破ったオカレンのとあるサークルが泊まり込みで文化祭の準備をしていたところ、突如何者かに襲われ生徒の一人が大怪我をした。

事件現場の教室はまるでポルターガイストにあったように荒れていて、現場に居合わせた生徒達は口を揃えて「悪魔に襲われた」と言ったそうだ。


「荒らされた部室を見て真っ先にこれを思い出したの」

「悪魔。興味深い話ですね!」

「お前あんまり面白がるなよ、怪我した人がいるって書いてあるだろ」

思わず食いついてしまった僕をタダッチがたしなめる。

ついつい超常現象会の血が騒いでしまった。

「ごめん。それでこの事件、解決はしたんですか?」

「それが未解決だそうよ。10年経って、この事件と都市伝説を知っている人も少なくなったみたいね」

なるほど。悪魔の仕業か。

ページには当時の部屋の写真が載っていて、それはさっきみたマジック研究室の荒らされ方と似ていた。

タダッチは人の仕業というけれど、今回の件にしても10年前の事件にしても、こんなことをする人間がいたらそれこそ悪魔ではないか。

僕は悪魔や霊より、人間の方が恐い。


少し胸がざわつくけど、今回は怪我人が出たわけじゃないし、誰かの些細な悪戯だろう。僕はそう言い聞かせて自分を落ち着かせた。

しかし、これは事件の序章に過ぎなかった。








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