第4話 新聞記者
新米の新聞記者、
この奇妙極まる失踪事件。共通しているのは被害者がとある路線の沿線に居住していることである。だから、彼女は自分の脚で取材を行うために、駅まで足を運んでいた。
その時に見つけたのが、怪しげな三人組であった。見た所三人は全員中高生ぐらいの年頃で、一人は白人系の少年のようであった。
その内の一人、羽織を着ておらず、黒い詰襟の軍服のようなものを着た少女の口から「鮫滅隊」という単語が飛び出た時、芳子の目は一気にこの三人に釘付けにされた。
鮫滅隊。それは芳子の出身地である東京の離島に存在した自警団と同じ名であった。過酷な修行を積み、常人離れした身体能力を以てサメと戦う戦闘集団である。
――彼らが、事件と何か関係あるのかも知れない。
芳子の記者としての勘がそう告げた。彼女は怪しまれぬよう、こっそりと三人の少年少女の後をつけ電車に乗った。彼女は三人が乗り込んだ車両の隣の車両の連結部付近に陣取り、ちらちらと彼らの方を連結部越しに観察した。
その結果、彼女が目の当たりにしたのは、昏睡した乗客と、二つ頭のサメとタコが融合したような奇っ怪なモンスター、そして日本刀を振るって怪物に立ち向かう金髪少年であった。
「な、何なのあれ……」
芳子は絶句せざるを得なかった。一つ隣の車両には、彼女の全く未知の世界が広がっていた。そもそも、あのサメ自体が常識外れのものなのだ。頭が二つあるサメにタコの触手がくっついたものが電車の中にいるというのは、にわかに信じがたい。これは夢の中の出来事なのかと思って腕をつねってみたが、痛みはしっかりと伝わってきた。目の前で繰り広げられている光景は夢ではない。現実なのである。
金髪の少年はタコの触手を切り捨ててサメに肉薄したが、その後方に何かが近づいていた。先ほど一緒に歩いていた、軍服姿の少女だ。少女の手にはハンマーが握られている。
そのハンマーが、金髪少年の頭を打った。少年はその一撃の元に昏倒させられてしまい、床に突っ伏した。
「え……」
あの少女は、サメの仲間なのだろうか。そうとしか思えない。
少女はサメを連れて、一つ先頭寄りの車両へと向かっていった。後にはただ、昏倒した乗客たちだけが残されていた。
「……これ、相当まずいんじゃあ……」
芳子は恐る恐るドアを開け、連結部を渡って隣の車両へと踏み込んだ。
あの三人組の一人であった、女の自分でも惚れ惚れしてしまう程に美しい長髪をした少年――とはいえ、この時芳子は彼が男子であるか女子であるか、判別できていなかった――が、すうすうと寝息を立てて眠っている。その少し離れた所で、ハンマーで殴られた金髪少年が伏せっていた。
「え……ワタシ寝ていたデスか……何だか頭が痛いデス……」
むくりと起き上がった金髪少年ゼーニッツは、頭を押さえながら緩やかな声で呟いた。どうやらハンマーの一撃は重傷にならなかったようである。
「……凪義サン! 敵デス! 起きて!」
眠る前、天井に奇妙なサメが貼り付いていた。そのことを思い出したゼーニッツは、寝息を立てる凪義をゆすって起こした。だが、凪義はうんともすんとも言わない。
美しい長髪の少年は、安らかに眠っていた。そう、それはそれは安らかに……
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