月桃館五〇三号室の男 番外編二 ~憎悪の地下茎~
山極 由磨
1
皇紀八百三十年雨月十日
アキツ諸侯連邦帝国新領龍顎州南部森林地帯。
丙種飛行戦闘艦(駆逐艦)『流星』の爆弾倉には、普段なら積まれている一
そいつらの頭、つまり中隊長は第一特別挺身群から派遣されたこの俺、オタケベ・ノ・ライドウ大尉。
他にも同じく特挺群から派遣された士官十三人が担当将校や小隊長となり百七十八人の尻尾付きを束ねている。
伝声管から。
『降下地点まであと二十分!』
の怒鳴り声。
副官、リ・ウォン中尉が
「降下地点まであと二十分!装備を点検しろ!」
浅黒い肌に先がしゃもじの様に平たい長い尾っぽを生やしたバチャンの、小柄だが屈強な戦士が、所定の手順に従いお互いが背中に背負い、胴や腰に括り付け、太腿に結わいつけた装備一式をせわしなく、しかし丁寧に確認してゆく。
食糧、着替、弾薬、爆薬、雨衣、死体袋等々が詰まった重さ三十
しっかり確認が終わるころ、また伝声管から怒鳴り声。
『降下地点まであと十分!』
再びリ・ウォンが叫ぶ。
「各分隊長!降下索の安全確認!」
十二人の部下を従える分隊達が目の前にぶら下がった綱引きの綱様な降下索を、思い切り引っ張り確実に固定されていることを確認。
完了すると拳を突き上げ完了を報告する。
『降下地点到着、爆弾倉解放!』
との声が伝声管から響き渡ると同時に、俺たちの足元にある両開の扉が一気に開き、強烈な風が庫内に流れ込み、代わりに十六本の降下索が奈落の暗闇に落ちてゆく。
下を覗き込むと黒々とした常緑広葉樹の森が広がり、風に枝や葉が叩かれ波打っている。まるで真っ黒な海の様だぜ。
爆弾倉の左右に置かれた機銃座から、旋回機銃を構えて防護眼鏡越しに地面を監視していた航空軍兵士が、拳を突き上げ地面が安全である事を告げる。
「降下!降下!降下!」
リ・ウォンの号令一下、分隊長たちは一斉に降下索に飛びつき真っ暗な奈落の底に降りてゆく、それに続き部下たちも一人、また一人と降下索に捕まり次々と躍り出る。
殆どの隊員が降りて行ったあと、リ・ウォンは俺に役者の流し目の様な視線を投げた後「ではお先に」と降下索を引っ掴むと闇に向かって飛び込んで行った。
爆弾倉をぐるっと眺め、俺一人になったのを念のため確認すると伝声管に向かい。
「お世話になりました!艦長!では行ってまいります!」
すぐさま返事が返って来る。
『ご武運を心よりお祈り申し上げます!』
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