深夜の星
フライパンを温める前にサラダ油を入れて、溶いた卵を流し込む。
卵はひんやり冷えた卵で、流す時に冷気が人差し指に触れた。
菜箸でかき混ぜても固まる気配のない卵は、私の未来に似ている。
黒い空間を黄色に染めて、だけど冷たく流れて固まらない卵。
それでも火を強めたり、ゆっくりゆっくり待っているとやがて固まってくる。
フライパンが悪いのか、サラダ油が悪いのか、手順が悪いのか全部が悪いのか。
卵はフライパンの底にこびりつきボソボソとした粉のようにぽろぽろと、まとまらない。
それを菜箸でむりやりまとめて、フライパンのへりで半月をつくる。
半月はいびつで、腹の部分がボソボソとした卵の屑に引っ掛かり破れて中のオレンジ色の液体が溢れる。
それを菜箸で抑えても、流れていく。
味のないおいしくない卵。
「それは油が悪いんだよ」
兄がみたことのない瓶をくれた。
緑色のたぶん、スペイン語が書かれたオリーブオイルの瓶。
同じような作り方で私はオムレツを作ったけれどやっぱり卵はぽろぽろとフライパンの底にこびりつき、半月の腹からはオレンジ色の液体が溢れ、菜箸で抑えても意味がなかった。
私の未来のようだと、また思った。
オムレツは濃紺の夜のような色をした、丸くて平たい重たいお皿に乗せている。
半月を縦に二つ並べても少し余裕がある大きさのお皿で、それでもキッチンの台の上に半月を滑らせてしまうことがあった。
夜から飛び出したオレンジがかった半月は
夜を超えてどこに向かうのか。
夜の端にひっかかったのを救い出して、中心に向かって菜箸で滑らせた。
流れ星。
流れ星のように見えた。
キッチン台の上にべちゃんと広がった半月の残骸をキッチンペーパーで丁寧にふき取ってごみ箱に投げた。
もしも、残骸が残骸にならずに、夜に浮かんで輝いていたら。
どうなっていたんだろう。
どうせおいしくはないのだ。
重たい紺色のお皿をテーブルに運び
菜箸で星を食むといつもより、おいしい味がしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます