第45 また、勝手に入ってきた女
「いや、頼むよ、 そこを何とか。 俺たちにも仕事回してもらわないと、食べていけないんだ」
とある飲み屋で男2人が話をしていた。
「そう言われてもな。 こちとら大事な取引先なんだよ」
お願いしいている男の名は庄野。 同源コーポレーションの社長だ。
「何でもしますんで」
「じゃあ、いつもあれと、それから倍額出してもらおうか」
「そんな。 今うちにはそこまで払える金がないんです」
「だったらやる事は一つだろ。 会社から、金をひったくってくりゃいいじゃねぇか」
庄野は息を飲んだ。 話しているのは仕事先の上の人で、同源コーポレーションは仕事をもらって働く下請け会社だ。 ここ数日は不景気が続いており、 親会社からの仕事の回しも無く、収入先がなかった。
彼ら下請けは最悪切られる可能性が出ていた。 だから庄野は焦っていた。 会社を潰すわけにはいかない。
「わ、わかりました そうしますので、お願いします」
会社には仕事に携わったと言う実績が必要だった。 特に庄野が請け負った同源コーポレーションは弱小の企業であり、名を上げなければ仕事が舞い込んでは来なかった。
「じゃあ成立だな。 お前らんとこに仕事まわしてやるよ。 喜べ。 めちゃくちゃでかい仕事だぞ。 でも早く返せよ。 お前また俺に借金なんてしたら、利子だけで2千万超えてんだから、一生俺の為に生きる事になるぞ」
男は酒を飲みほし、大笑いしながら店を出て行った。
庄野はバーのカウンタを叩いて、怒りをぶつけた。
彼はまた会社の金を横領して、偽造書を作らなければならない。 初めてではない庄野にすれば、慣れた事では有るが、家族が悲しむ。 何よりも、自分を追い込むやり方でしかない。 正攻法で仕事がしたかった彼にとって、こんな事に一度手を染めてから引けなくなっていた。
その次の日、約束どうり簡単な仕事が、いくつか、同源コーポレーションへと入ってきた。
「お疲れ様です」
職員達と飲みの会を開き、社員達に感謝を伝える。
庄野と飲む男性がビール片手に話をする。
「庄野さんありがとうございます。 何とか仕事取ってきてくれたんですね」
「え? あぁ、とにかくやっと継続した仕事が来たんだ。 お前らも頑張って働いてくれよ」
社員たちは盛り上がった。
そんな庄野を見て心配する男が声を掛けた。 門司木だ。
「庄野大丈夫なのか? こんな事に金使っちまって」
「いいんだ。 どうせ俺の金だからな。 それに、こいつらがいなくなっちまったら、この会社は終わりだよ」
さっきとは打って変わって庄野の顔は曇っていた。
二次会は社員たちだけで行い、 門司木は庄野を誘って、行きつけの店へと二人足を運んだ。
「門司木さん。 俺もうダメかもしれない。 精神がぼろぼろだ」
「庄野……」
「家庭もよくないんだ。 崩壊してしまうのも時間の問題かもしれん。 会社だって……」
「やっぱり、会社もやばいのか? どこから、あんな金を出してきたんだ」
「実は、会社の金を使っちまってるんだ」
「ちょっと待て、それって横領じゃないか。 冗談はやめろ。 どこかで借金でもしたのか?」
「うそじゃねぇ。 今までのも、全部そうだ」
「今までって、まさかお前」
「そうだ。 この会社はこうやって生きてい来た会社だ。 頼む誰にも言うなよ、 俺、もしかしたら近々首を吊ってるかも知れねぇからさ」
苦しそうな笑顔だった。 上からピラミッド式に会社の構図があった。 庄野はその当時の平社員だったが、勤続年数も達、 36歳で新しい会社を任せられる話に乗った。 昇進である。
その仕組みは、新たな会社を複数設立し、親会社である峯島重工から仕事を下ろしてくると言う内容だった。 自社で自社に発注し、製作、開発を務めると言う話だったので、金に困るはずがなかった。
だが、これがピラミッド形式であったこと、 そして、彼らの位置が上から4段目の位置にあったこと。 それが負を講じ、条件とは違う厳しい競争社会へと向かう事になった。 請け負う会社を作り過ぎたのだ。 総勢24社が社名と生き残りをかけて仕事を取り合った。
「お前……。 ぜってぇ俺以外の奴に言うなよ。 それから、もうやめろよそんな事。 還元しなくたって、職員はついて来る。 わかってくれるよ」
「はは、そうかな……。 そうだといいよな。 俺さ、この会社も失っちまったら、何にも残らねぇ」
庄野は自分なりに必死に会社を守ろうとしていた。 やり方は間違っているにしても、今の庄野にはそうする以外、道がなかった。
そんなある日の事。 庄野の前に代厳が現れたのである。 代厳はそのまま庄野を飲み屋に連れて行くと商談が始まった。
「よう、あんたの会社をもらいんだが」
「いきなりなんなんだ。 そのなの無理に決まっているだろう」
庄野としては悪くはない事だ、会社を売れれば自分はそこから手を退ける。 買い手に値段にもよるが、高く買ってもらえるなら、しばらく仕事だってしなくてもいいかもしれない。 何より、汚職を汚職を背負わなくてよくなるのだから。 だが庄野は売買の話しもしないままに頑なに断った。
「例えアナタでも無理です」
「もとは俺の会社だ。 さっさと譲りわたしてくんえぇか」
「そんな勝手すぎる。 私達にも生活があるんだ。 そんな事で切る訳ないだろう」
代厳は会社を無理矢理奪おうとしていた。 売却の話を持ち掛けたのではない。
「そうか。 ならお前がしていた横領の数々。 それを公表してもいいんだな」
「そんな…… それは止めてください。 そんなことしたら、私は」
「じゃあ、お前がとることは一つだろう」
代厳の出した一枚の誓約書。 それに同意を求めてきた。 庄野は戦った。 だが彼が勝つことはできず、代厳の紙にサインをせざるを負えなかった。
翌日、庄野は門司木にだけこの事を話し、首を吊った。
こうして代厳は同源コーポレーションという小さな会社を手に入れるのだった。
代厳はバイパー達に動きを伝えた。 当然働くなんて皆が嫌だった。これでどう政府を打ちのめすと言うのか、 むしろ、働いて手伝っているようなもので全員が反対だった。
総長は特に嫌悪感をいだき、代厳をぶちのめした。 最近はいつも怒り立っていた。 それは、代厳を幹部にする試合のすぐ後の事。 代厳から、部蝶はもう手遅れだと聞かされた。 総長としては頼りにしていた人間。絶対に裏切りはしないし、そう簡単に死にはしない。 だから彼女を行かせた。 本当は行かせたくないと言う思いもあったが、相手が相手だけに、本当に信頼を置ける者を使わざるをおえなかった。
その部蝶があれから帰ってくることは無く、行方不明となっていた。捜査隊を作り、探しに行かせたが見つかっていないどころか、彼らとも連絡が取れなくなっていた。
彼らが恐怖して逃げたのか、それとも何かに巻き込まれているのか、総長には解らなかった。
たまたま、バイパーの一員がTVを見ていた時に、思しきニュースを見たとして、伝わった事が、彼らを見つける手掛かりとなった。
部下2人は事故死。大切だった部蝶は首を吊って死んでいたのだった。
だから総長は政府に手を貸している行動に心底を腹を立てた。
「まぁ、聞けや。 策戦ってのは上手ことやるから策戦なんだろうが。 とにかく演じてくれや。 誰も助ける為に動けなんて行ってねぇ。 おまえらはここで不祥事を起こしまくってもらうんだからな」
ユウカは学校へ向かう途中最近舞が家を出る事をが多くなっていたのを気にしていた。
舞に聞くと、特に何もしていないと言う。 時には散歩に出かけている等と行っていた。フランを散歩に連れて行ってると言うのなら、それは納得がいくが、最近になってそれが多くなったので、フランも一人で家にいたのが飽き飽きしているのかも知れないと、心配していた。 ユウカはバイトにいき、舞たちは散歩に行く。 夕方から夜にかけて、家に誰もいない日が、増えた。
ユウカだって、まだエリィ-の事を吹っ切れたわけではない、 心の何処かではいつか、会えるんじゃないかと、希望だけは持っている。
最近は家が危険なのでユウカ達は早く登校して、錘凪先生の所に預けている。それはいいのだが、問題は帰りだ。 生徒が下校する時間はどうしても、かぶってしまう為、見られる可能性が高いという事。 なので、悩んだ挙句、早く帰れそうなら、見つからずに誰よりも早く出る。その機会がないなら、最後に学校を出るという事。 危険の可能性は減るかと言うと一緒だが……
星はと言うと、相変わらず、生徒会で早く登校してる。 隣には朝から登校していることを知った彬良が、いつも一緒に居た。 それは屋上でくつろいでいた時、たまたま星が登校してくるのを見て、その日に毎朝来ているのだと知った。
それからと言うもの、二人で生徒会室に入り浸りであった。 星も最初は迷惑していた。 すごく迷惑だった。 だが彼は手伝ってくれる。 何よりも彼が手伝うとはかどったように早い。 自分に足りないその部分を学ぶためにもいつしか、星も付きまとう彬良を拒否しなくなっていた。
何より、その空間になれたと言うより、とても楽しかった星がいた事も間違いではない。 一人で頭を悩ませていた、嫌な資料や書類も、二人で頭を悩ますと、共感しあえたりして、笑い話もできてしまうほどに。
早く来るから、見たくないものまで星は見てしまう。 それがユウカと舞が朝早くから登校してくる場面を一度だけ見てしまった事。 この日から少し星に元気がない事に彬良は気にしていた。
とある早朝の生徒会室
「ねぇ、星」
「ん?どうしたの?」
星は書類の作成に、彬良はソファでくつろいでいた、いつもの光景。
「ユウカっでどんな人なの?」
星は何故ユウカの話しになったのかも分からず、急に聞かれたことにひどく動揺した。
「は? え? 何?」
「ユウカって人なんかモテモテなんでしょ?星から見てどんな人なのかなって? もしかして星も気になってたりする人なの」
星の動向が開く。
「は? いや、何言ってるの、? 気になってなんか無いよ!
でも、ユウカ君は優しくて、思いやりがあって、いつも大切に思ってくれる、優しい人だよ」
「ふ~ん」
ユウカを語る星は、とても気持ちのこもった言葉で話しているように聞こえた。
「じゃあやっぱりモテるんだね。 本当に付き合ってないの? 思いを寄せてたり」
そこに星は反応しなかった。
「わ、私は別に、何とも思ってないよ。 ユウカ君は友達だし」
照れる星は本当に小動物みたいで、彬良には守ってあげたくなるほど可愛く映る。
「そう。 良かった。 じゃあ帰り付き合ってよ。 いいでしょ?」
星は戸惑った。 朝に少し話したことのあるだけで、特に、そこまで親密な仲という訳でもないのでそこまで乗り気にはなれなかった。だがいつもの恩もあり、彼女は彬良と遊びに行く事を同意した。
今日は久しぶりに皆家にいた。 ユウカもバイトが休みの日で、舞たちも散歩には行っていなかった。
「なぁ、今日は散歩行かないのか?」
「別に行かないけど」
「じゃあ、三人でちょっとぶらぶらするか?」
「嫌よめんどくさい」
ユウカはいつも散歩か何かで出かける事が多いのに今日に限って、なぜ拒否されたのか頭を悩ませた。
「そ、そっか。 せっかく三人居るんだしなんか美味いものでも食べるか」
三人そろう事はなんだか、久々しい。
「そ、そうね。 別にそれでもいいけど。 何食べるの?」
それはユウカも考えていない。
「フラン、何か食べたいものとかあるか?」
フランは目を輝かせて言った。
「……たこ焼き」
「あぁ、この子、たこ焼きが好きでね」
舞はフランに聞けば大体、そう返ってくるのでも、案の定の答えに、渋そうな顔をしていた。
「そうだったのか? いいな、それ。 たこ焼きパーティ」
「あ、確かにいいかも。 それ」
「じゃあおれ、買い出し行ってくるわ」
「それなら私も手伝うわ」
三人は一緒に買い出しに出るのであった。
買い物の具材は手番のタコ、そして、青ネギや紅ショウガは欠かせない。 鰹節等は家にあるので買いはしなかったが、パーティーとだけあって、色ん具材をユウカと舞は買っていた。
フランはタコ焼きがこうしてできるのかと、不思議そうに、二人の買い入れる品物を見てたこ焼きを想像していた。
「え、ちょっと待って。 あんたそれ買うの?」
ユウカが大事そうに箱に入った大きな機械を手に取った。
「勿論。 これがないとたこ焼きできないだろ」
「あんた家にあるんじゃないの?」
「ある訳ないだろ。 何で家にたこ焼き焼く鉄板があるんだよ!」
「そのお金ってまさか……」
ユウカは勿論と言う顔でも舞を見ていた。
「あぁ、もう、わかったわよ。 あんた覚えときなさいよ」
この時舞は、ユウカの家を本気で出て行こうかと一瞬考えた。 フランと舞はお菓子売り場に行った。二次会のお菓子を買う為だ。
「あれ、ユウカじゃないか!」
声をかけてきたのは学だった。
「何してんだ、こんなところで?」
ユウカの手に持っている大きな箱を見た。
「お前、たこ焼きするのか? 一人でするにはデカすぎるだろその機械。 どんだけ食うんだよお前。 それとも……」
「ははは、育ち盛りと言うか」
その場を早く立ち去ろうとした前に
「ユウカ!」
舞だ。 何とも間の悪い時に声を掛ける。
「これ、なだけど……
――――誰?」
舞は学の事を知らない。
「初めまして。 俺はユウカの友達の学だ。 よろしくね、桜華さん」
舞はユウカをつまむと、後ろに引っ張っていった。
「ちょっとどういうと事よ。 あんた私のことなんか言ってる訳?」
「いんや。 なんも言ってないけど」
「じゃあ何で、あの人私の名前知ってんのよ」
「そりゃ、紹介したもん」
「はぁ?ドづいう紹介してんのよ。 あんたまさか変な事言ってないでしょうね」
「変な事ってなんだよ。 なんも言ってないし、おんなじ学園に居るんだから、お前の事知ってて当たり前だろ? 何焦ってんだよ」
「焦ってなんかないわよ。 変な事言ってなかったらいいけど」
「とりあえず戻らないと、余計怪しまれるぞ」
「分かってるわよ」
舞はしぶしぶ学の元へと戻った。
「お! 終わったのか夫婦会議。 そうかユウカがそれを持っていたのはもしやとは思っていたがやはり、彼女と食べる為にかったのか。 なんと中のいい事だ」
「ちょっとあんた来なさい」
舞は再びユウカを引っ張って後ろの方に行った。
その頃フランはユウカ達の元へ戻ろうとしたが、何やらいつもの仲良さそうに取り組んでいたので、空気を呼んで一人店をふらつくことにした。
「あんたね、やっぱり変な事いってるでしょ!」
「何をだよ。 俺はなんも言ってないって」
「あの人なんか変な勘違いしてない」
「俺も、それは否定したよ。 したけど、上手く伝わってないんだ」
「はぁ、もう。 何やってんのよ」
「取り込んでるようなので、俺は帰るぞ。 じゃあまたなユウカ。 今度俺もゆっくり挨拶しに行かせてくれ 桜華さんもユウカをよろしく」
学は空気を読んでか、何もなかったかのように買い物に戻っていった。
フランも無事合流して、家に戻った。 三人とも手に荷物を持って。
ユウカは家のカギを空けておくと、先に入っていった。家の扉を開けると電気がついていた。 どうやらつけっぱなしだったらしいのか、おかげで真っ暗な中電気を探す必要が無くなって助かった。 ユウカは手が塞がっていたので、電気代はもったいなかったがついていると思った。
「おかえりなさい」
誰だろうか。 誰かが家にいた。 三人は電気を消して出たのだから、ついている時点でおかしかったのだ。 舞が急いで駆けつけたが、すでに、ユウカはその物体と対面していた。
「何だ女狐。 またお前がおったのか」
あの女だ。 性懲りもなく、舞が目にしたのは、ユウカに思いっきり抱き着く女の姿だった。
「……うわ、また出た」
フランが引いていた。
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