第43 急げ!帰宅
「何であんたん家、こんなに変なものが出るのよ!」
「知らねぇよ。 大体何で変な奴が入ってこれるんだ?
まさか、フランの魔力を感じた何かか」
「そんな事今まで一度もなかったわよ!」
二人は急いでマンションを目指した。
「よ~し、そろそろ休憩終わりだ。 始めるぞ」
学校の授業は待ったなしに始まっていた。
「次は袋リレーだ。 相手は変えたな? さっきと同じ人じゃなくて、別の人と組むように」
「俺桜華さんと組んでみようかな」
桂川が舞を探していた。
「あ、俺も組んでみみたいぞ」
「ダメだ、学。 俺が先だかんな」
「え? 私も組んでみたいんだけど」
「そういえばユウカ君いなくない?」
四人はユウカがいない事に気が付く。 授業はもう始まっていると言うのに。
「どうせトイレとかじゃないの?」
「しゃあない、 じゃあチームができちゃう前に、星、組も!」
黎が星を誘ってチームを組んだ。
「あ? やべぇ、桜華さん見つかんねぇし、とりあえず学。組むか」
「そうだな、いきなり令嬢の生徒とは組みにくいしな」
学と桂川も残ってしまわないように、先にペアーを組んでいた。
「全員組めたか? ならまた、練習15分ほど取るから。 よーいスタート」
ユウカと舞は全速力で走っていた。
「フランは? 大丈夫か!?」
「今電話してる。 出てくれたいいけど、あの子。 無事でいてフラン!!」
――――ユウカ宅
「……あなた何者?」
それは不敵な笑みを浮かべていた。 フランは目の前の人を相手に、危険を感じていた。普通ではないから。
「フフ……」
人差し指の長い爪で、自分の唇を抑えている侵入者はとても余裕の表情を浮かべていた。
「ダメ、出ない。 何かあったんじゃ」
「急ごう、そこをまだがったらも、もうそこだ」
二人はさらにスピードを上げて走る。 エリィーが消えてしまって、今度はフランが危ない目に会っている。 ユウカとしてもなんとしても助けたい。
舞が失速しだす。 ユウカのマンションはもう目の前だと言うのに。
「ちょっと待って……」
「何言ってんだよ。 もうそこなのに。 早くいかないと、フランが」
ユウカはエリィ-が消えてしまったのを自分の不注意不足とずっと責めていた。 あの時目を離さなければ、自分が寝なければ、エリィ-を失わなくて済んだのに。 今じゃ、どこに行ってしまったのか、それとも、本当に灰になって飛んで行ってしまったのか、わからない。
「違う。 人じゃない」
「え? じゃあ、魔族か」
「魔族?」
「あぁ、 魔力を持っている奴らの事だ」
「そう呼ぶの?」
初めて聞く彼らの俗称を舞が問う。
「いや、俺が勝手に今読んだだけだ。 名前ねぇとなんかわかりにくいし」
「何その適当なの……、まぁいいわ。 でもそう。 あんたのその言葉を借りるなら、あそこにいるのは魔族。 まだいるわ。 だけどこの量は異常よ」
舞は顔を強張らせた。
「異常って? やばい奴なのか」
「やばいってもんじゃない。 あれはフランを10人連れてきて互角に張り合えるかどうかって言ったらわかるかしら?」
ユウカの顔も険しくなる。
「あぁ、わかるぜ。 何しか、相当強いって事だろ」
ユウカの中には思い当たる記憶がある。 あの黒いフードを被った帽子野郎。 エリィ-を攫って行った男だ。 今は魔力が見える舞が横にいるから、ユウカのマンションからはその強大さを伝えてくれる。 その強さ、フラン10人分なら合点がいくかもしれなかった。 あの男の人並外れた威力と、体の異常な硬さ。 人間だと思っていたあいつが魔族だと言うなら。
フランの魔力を感じ、エリィ-と勘違いしてきたのではないかと。
舞は抜刀する。
「おい、本気かお前! こんなとこで」
「何されるかわかんないから。 行くわよ」
舞の目は本気だ。 ユウカにとっても、あの黒フード野郎に会えるのは好都合だった。アイツはエリィ-の何かを知っている。
玄関の扉を開ける。
「フラン! 大丈夫!!」
二人はフランを見つけようと必死になっている。 奥の部屋からフランが向かってきた。
「あ、良かったフラン」
フランの腕にはひっかき傷があった。
「フラン、腕どうしたんだ?! 」
ユウカが腕の傷に気づいた。 腕には5本の線が入っている。 真ん中が一番深い。
「敵」
舞は警戒して刀を構える。
「……違う。 これは何でもない」
フランは傷のある腕を隠した。
「……それよりもユウカ、 はやく入っていきて」
フランはユウカを引っ張っていった。
「ちょっと、待ってフラン! まだ敵がいるんでしょ」
舞が慌てて後を追う。
その光景に一同が驚いた。 裸の女がソファーで寝ている。 とても安らかな表情で。
「だ、誰だこいつ?」
ユウカも舞も知らない女性が寝ている。 しかもユウカの家で……
「あんたの知り合いじゃないの? この人」
「いや、まったく知らない。 赤の他人だ」
二人とも呆れるしかなかった。 全く知らない女がどうして他人の家でこんなに無防備に寝れるのか。
「いつまで見てんのよ。 あんたは!」
舞の拳が溝内に入る。
「おごっ」
凄まじい激痛がユウカを襲う。
「とにかく、服。 早く服持ってきて!」
ユウカは動ける状態ではなかった。
「何やってんよ。 男でしょ」
この激痛に男も女もなかった。 ボクサーでもない一般人に溝内は、誰でも痛いし、暫くは動けない。
「ううっ、 ちょっと……待ってろ……」
ユウカは腹を抑えながら、 服を取りに行った。
「この人起こして大丈夫?」
フランは舞を見つめる。
「お、おいこれでいいか……」
「ありがとう。 あんたは向こう行ってて」
「いや、何かあったらどうするんだ」
「いいから行って」
この時ばかりは何故か舞に圧された。
「結局起きなかった訳だけど……」
舞は初め、刀の柄の部分で寝ている女を刺したが、反応がない。揺すったり声をかけてみたが起きる気配もなく。 着替えはそのまま終わった。
「何で起きない訳?」
相変わらず幸せそうに眠っている。
「……わからない」
二人は呆れるしかない。
「もういいか?」
ユウカの事を忘れていた舞は、入ってきていいとユウカに伝える。
「にしても、何なんだこの美人は?」
ユウカはこの時すごく不思議な感じがした。 ドキドキという訳ではないが、どうも、彼女に惹かれるような、そんな何か。
「ちょっと、この子の事見過ぎよ、あんた」
「何だろ、すごくいい香りがする」
それをきた舞がユウカを軽蔑する。
「えっ? きもっ、何、ちょっとやめてくれない」
「あっ、いや、俺なんか変な事言ったな。 そういう意味じゃなくて、だけど、何だろう、この感じ」
言葉には言い表しにくい。 恋とか、愛とか、見ず知らずの人に感じるはずがないのに、それに似た、熱いものが体中を駆け巡る。 体が目の前の彼女を求めてるような、そんななにか。
これ以上自分が変な人に思われないように話を変える。
「フラン! この人、どうやって入ってきたんだ? 扉開けたのか?」
フランは首を横に振った。
「……気づいたら、そこにいた」
「何だよそれ」
三人は固まった。 魔力を使えるのは分かっている。だけど、急に部屋に入ってこれるとなると、それは恐ろしい事だ。
「何よそれ? テレポートとする訳? こいつ」
「一度起こしてみるか?」
「や、止めなさいよ それ、すごい爪長いし、魔族には違い無いのよ。 どんな力を使ってくるかもわからないのに」
「だよな……でもこれ、どうする」
三人は困り果てる。 寝ているが、このまま置いておくわけにもいかない。 どうやら熟睡しているようだから、今はいいが動かして起きでもしたら、一貫の終わり。そんな危険は冒せない。
「と、とりあえず、縛って外に放り投げるか」
「あんた、やる事けっこ下種ね……」
「じゃあなんかいい方法あるか」
「……な、無いわね」
万策は尽きた。
「とりあえず、縛るってのはいいのかもしれないわね。 たぶん意味ないけど霊力だけは込めてみるわ」
ユウカは舞に雑誌を結ぶ用の紐と、自分の上着を2着渡した。舞はそれに自分の霊力を込め始めた。 紐を持ち、右手の人差し指と中指だけを立て、何かを唱えている。 ユウカはそんなもんで紐が強くなるのかと?舞のやっていることを疑っており、信じてはいない為、女性の寝顔を近くで見ていた。
どうしてこんなに気になってしまうのか。
「ちょっと触ってみようかな」
いつどこで彼女に会った記憶すらないのに、見つめたくなってしまう。
「馬鹿、やめなさい! 起きたらどうすんのよ」
相当な魔力をもつ、眠った女の子。 起きればここの誰もが苦戦するが故、舞は彼女が起きる事を恐れていた。
「服着せても起きなかったんだろ? 大丈夫だろ、少しだけ」
ユウカは彼女の頬を人差し指で触れた。 とてももちもちとしていて、柔らかい、脂肪と言う脂肪はそれほどないが、だが程よい脂肪が、また何とも繊細で柔らかい肌なのか。 ずっと触っていた位ほど柔らかくてさらさらしていた。
だが、恐れる事態が起こった。あれほど揺すっても、呼んでも、着替えさせても起きない彼女が、ユウカが軽く肌に触れるだけで一瞬にして目を覚ました。
ぱっちりと開いた目がユウカを見つめる。
「ま、舞。 やばい、起きちまった……」
「なんですって!? 」
舞たちはすぐさま霊力を込めるのをやめ、戦闘態勢をとろうとしていた。
しかし、その女の動きはう速かった。 三人が構える前に彼女は目の前のユウカに襲い掛かった。
「うわぁぁぁぁぁ」
「ユウカ!!」
舞が慌てて助けに行こうと、刀を拾う。
女はユウカを絞めつけていた。 それも強く強く。 とても大事なぬいぐるみでも抱くように。
「はぁ?」
「……へ?」
フランと舞は何をされているのか、見て分かったが、それが意味する所がわからなかった。
「ちょっと、何してるのあんた」
「……ユウカ離れて、何されるかわからない」
見ず知らずの女がユウカを抱きしめているのだから理解に苦しむ。 もしくは本当はユウカの知り合いかと思うと、疑う余地さえ生まれてきた。
「ちょっと、何くっついてるのよ。 離れなさい」
「お、おい何なんだよ、お前。 離せ。 離れろ」
ユウカ自身もいきなりの事で驚いている。 いきなりの事で自分が抱きしめられる等と誰が思おうか。
「好きだよ。 大好き」
三人は確かにそう聞こえた。
「な、何言ってんのよ、この子」
舞は今だ構えを解く事はしないが、言葉で必死にはがそうとしていた。
ユウカももがいてはいるようだがなかなか抜け出せない。
離さない。ずっとこうしていたいぞ。
女は欲情しているのか、デレているのが、好意がとてもしっかりと感じられる。 とても知らない関係のそれとは思えない光景が広がっていた。
「やっぱりユウカの知り合いなんじゃないの 」
「……ユウカ、嘘ついた」
「何でそうなるんだよ。 俺は知らないって言ってるだろうが」
女は足まで絡めてくる。
「こら、お前は離せ」
ユウカは何とか抜け出そうとしたが、これが何と言う事か、細い女の子なのに、男のユウカは全く抜け出すことができない。 力負けしている。 そしてやけに体温が熱く感じる。うっすらと暑さで汗が出る。
舞たちはしばらく様子を見ていたが、抜け出せないユウカがだんだん、抜け出さないように見えてくる。
「あんたもいつまで抱き着かれてるのよ。早く離れなさいよ」
フランは何も言わず、ただ変わらない表情でユウカを見ていた。
「抜け出したいけど、抜け出せないんだよ。お前らも見てないで助けろよ
くそ、なんでいきなり起き出すんだよこいつ。 」
ユウカに顔を顔を擦り付ける。 ユウカはそれに顔を赤めた。彼女に触られてる時、ユウカも全身に電気が流れたような、そんなものが体中を駆け巡っていた。 筋肉と言う筋肉が軽く痙攣をしたようなそんな感覚だ
。ぐっと硬直して閉まっているような感じ。
「もう、いい加減にしなさいよ、あんたたち」
しびれを切らした舞がが二人を引きはがそうと彼女の手をはがす。
「女、私のものに来やすく触るな」
その冷めた目はまるで殺意。 舞の事等、まるで米粒のように小さいものをも見る様な目。それでも舞は負けなかった。
女は立ち上がったが、 決してユウカを離さまいと。、ユウカを引き寄せて抱き抱える。
「私のものに触れてただで済むと思うなよ。 お前」
「な、なんなの。 ユウカはあんたのものじゃないわ。 早く話しなさい」
舞が刀を向ける。刀を向けられてた女はよほどの実力があるのだろう。 刀を向けるという事は戦うという風に意味どっていた。
「ほう、我に刀を向けるか。 女。 今なら、許してやるが、それ以上向け続けるなら後悔するなよ」
舞はその女の自信に自分が少し恐れているのは分かっていた。 だからと言って、刀は下ろせない。 得体のしれない女の言葉意味するところがわからない。 今皆を守れるのは舞だけだから。
「お前はやけに私のものに入り浸っているようだがお前はこいつとどういう関係だ?」
サラサラの髪がユウカの顔に当たる。 なんと細く細かな髪質か。 皮膚に刺さりそうなほど細くしっかりとしている。
「あんたこそなんなの? 勝手に人の家に上がり込んで、ユウカもあんたの事知らないって言っているみたいだけど」
「そんな事はない。 こいつが私を忘れる事があるはずがないだろう。 しっかりと私の匂いもしている。 お前、もしかしてこいつを奪っていたのか」
何を言っているのだろう。 奪うとか、ユウカに匂いがついてるだとか、舞は理解に苦しんだ。
「もういいわ。 よくわかんないしあんたと話してても話が進まないわ。 目的はなんなの?」
「お前たちこそ何なのだ? 我らをさらっておいてただで済むとでも思っているのか? 目狐女め」
「だ、誰が目狐女よ! あんたが勝手に入ってきただけでしょうが」
「ふん。どこまでもたぶらかそうとする女め。 よかろう、少し痛い目を見ないとわからんようだな」
「おい! お前何言ってんだ。 止めろ。離せ」
ユウカは魔力さえ感じては居ないがこれこら戦おうとしていることだけは分かる。 部屋の中で、つまりはこれ以上は令嬢が黙ってはいない!
「大丈夫だ、安心しろ。 何か術を掛けられたのだな。 お前は私が命に代えても守って見せる」
女はユウカを大切に抱いて、キスをして見せた。
フランも舞もあまりの事に目が開く。
「ちょっ、ちょっとなにやってんのよ!」
舞が照れながら、怒りをあらわにしていた。
「傷つかないように私から離れるな。 簡単にひねりつぶしてやろう」
女はそう言うと、大きな羽を背中から出して見せた。 黒くて、漆黒のような翼が広がる。
女よりも大きな翼が開いた時、彼女の黄金の美しい髪が広がる。
魔力の上昇。 今まででもすさまじいと言うのに、さらにそれに上乗せされるように魔力が強大になる
「……舞、こいつやばい。 気を付けて」
舞の前にフランが立った。
舞はフランの横に並ぶ。
「大丈夫。 だけどちょっとこれは相手が悪いかもね」
舞も刀を構える。 激突する準備はいつでもできていた。ただし、目の前に立っているのはあまりにも強大だった。
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