第39 秘密の屋上

「丁度俺も飯にしようと思ってたんだ。 良かったら一緒に食わないか?」



 突然の誘いだったので舞は驚いたが、きっぱりと断った。 周りと関わる気はあまりない。


 当然周りの女子は、好きな男の声ならどこまでも聞こえてくる。 この会話の内容に、嫉妬や折角誘われているのに何故断るのか、と言った不思議な思いが蔓延していた。




「そう言わずに付き合って」


「ちょ、ちょっと! 」


 麻木は舞の手を強く引い手連れて行った。




「ここって、」


 連れてこられたのは、とてもキレに景色が見え、空気も美味しかった。 晴れた日には最高の場所で、こんなとこに入れることに驚きだった。



「屋上?!」



「そう、俺の秘密の場所」


「秘密って言ったって、……あんたここ入っちゃいけない場所でしょ?」


 舞は目を点にして、麻木がどれほどの半ぐれかを理解した。


 そんな舞の反応に麻木は鼻で笑う。


「フン。 別に俺たちはいいんだよ。 特別」


 俺たち? と舞は疑問に思ったが、麻木はこれ以上何も語ってこなかったので、しばし、拝めない絶景を眺めた。



「食べたないの? お昼」


「た、食べるわよ」



 慣れない屋上に戸惑いながらも、コンビニの袋を開ける。 サラダとから揚げ。


「え? それだけ?」


 麻木は舞の買ったお昼の量が少なかったのでびっくりしていた。


「は? 女子はこんなもんだから。 あんたら男子が食べ過ぎなの」


「はは。違いない」


麻木はまだ本を読んでいた。 



「アンタこそ食べないの?」


「あぁ、俺はいい。 昼はもう食べたから」



「ふ~ん。 だからアンタそんなに細いのね」


 舞は麻木のスタイルをうらやましそうに、見ていた。


「別に、お前こそ、スタイルめっちゃいいじゃん。 モデルかと思ったし」


 言われたことのないセリフに舞が照れる。



「な、モデルって、バカなんじゃないのアンタ。 私がモデルはないでしょ」


 舞は自分がモデルをしている姿を想像して笑っていた。


「いや、本気だけど。 本気で綺麗だから、おまえ」


 真顔で言われたのは始めてだった。 会話が続けられない。


「そ、そう」


「あっそうだ、これやる」


 麻木は屋上の隅の冷蔵庫から飲み物と菓子パンを取り出す。



「いや、なんで屋上に冷蔵庫なんか置いてあんのよ……」



「ん? あると便利だから」


 コンセントすらさすところもないと言うのに、冷蔵庫を置く意味はあるのだろうか?疑問はあるが、渡されたものを手に取る


「冷たい」


「当たり前だろ? 冷蔵庫なんだから」


「は? 冷蔵庫動いてるの?どうやって」



「どうやってって、普通にコンセントからだけど? それ以外何からとるんだよ」



 舞が、常識がないような空気になっていたが、屋上にコンセントがある事自体が普通はおかしい。

それだけ、この学園は普通じゃないという事に、舞は学園のすごさをまじまじと感じさせられていた。


「いや、でも私こんなに食べないから」



「そんだけじゃたりなさそうだし」


「だから、私そんなに食わないって」


 麻木の観察力はすごい。 彼が持てるゆえんでもあるが、何故か、本人が思っていることがなんとなくわかる。 可能性でしかないが、きっと舞は我慢して、買える分だけ買っているのだとそう思ったから、麻木は舞にパンを渡した。



 だが、舞も舞だ。絶対に施しは受けたくない。 要らないの一点張りで食べようとはしなかった。


「わかった。 それはあげたから。 要らないなな捨ててくれたらいいし。 だけど、持って帰ってね」


「何よ、それ、勝手すぎない。 そこまで言われたら、持って帰るわよ」



 内心は舞はとても嬉しかった。 それは麻木もどこかなんとなく感じ取っていた。



「アンタさ、いつもここでお昼食べてる訳?」


「あぁ、たまにね。いつもって訳じゃないけど、あんまり人に見られてるの嫌だし、ここに居るは多いかも」


「そう」 


 どこか悲しげな表情の舞は、麻木と自分を重ね合わせていた。



「もう、昼休み終わるから、じゃあね。 今日はありがとう、素敵な時間だったわ」


「こっちこそ。 良かったら、また来ないか? お前だったら、いつでも来てくれていいから。 ここ」



「何それ? まぁ、もし気が向いたら、使わせてもらうかも。 ありがとう」



 舞はそう言って屋上を後にした。


 なんだか、素敵な人と出会えた。 二人がそう思った、ほんの少しの一時だった。







 ――――令嬢学園 放課後。 

 

 ユウカは普通に1人で帰ろうとしていた。 他の友達は学校で任され事や、掃除当番に当たっていたからだ。 待っていても良かったが、特に一緒に帰る予定もないので、早急に家に帰ることにした。




 他の生徒も下校する中、一人校門前で待つ女の子がいた。


「え? 何やってるんだろ? あいつ……珍しい所を見てしまった。 彼氏でも待ってるんだろうか? 」



 ユウカは波風立たない様に素通りしようと思った。 声を掛けたら、迷惑になってもいけない。ユウカは彼女の前をすっと通り越していった。



「ちょっと、なんで、無視すんのよ」


 しかし、その女の子は追いかけてきた。

 ユウカが気を使って見て見ぬふりして帰ろうと思った矢先、舞はユウカの服をつかんで止めた。



 舞が校門で誰かを待っている。 そんな事はただの一ども見た事がない周りの学園生は、誰かを待ち構えている。そういう風に見えていた。



 下校する生徒学生グループA

「うそ、あれって桜華さんだよね?」


「あの人、絡まれてる? なんか悪い事でもしたんじゃない?」


「な、殴られちゃうのかな……?」



 道行く学園生グループB

「何々、あいつらってもしかして付き合ってるとか? 」


「んな訳ないだろう? だって相手桜華だろ? ないない。 しかもあれ、成華の奴じゃん」



 周りの学生はこぞって、話が聞こえなようにひそひそと話題にしていた。



「え? 俺? 」


 ユウカは周りを見ながらこっそり聞いた。


「おい、良かったのか? 俺に声なんかかけて」


 ユウカはまだ舞が想い人を待っているのだと思っている。



「訳わかんないこと言ってないで、早く帰るわよ」


 舞は照れながらユウカの手を引っ張って帰って行った。


「何だよ急に? どうかしたのか? 」


 舞がユウカを待つなんて一度しかない。


「もぅ、早く家帰るんでしょが 」


「彼氏待ってたんじゃないのかよ? 」


 意味の解らない発言に睨む舞


「何で私に彼氏がいんのよ? アンタふざけてんの?」


「何でそんな怒ってんだよ」


「アンタが訳わかんない事言ってるからでしょ」


 ユウカは学園内のコンビニ近くで男と話している舞を見た事を伝えた。



「はぁ? それだけの事で付き合ってるとか思う訳? あんた馬鹿なの?」



「舞が楽しそうに笑って誰かと話してるの、なんか初めて見たからさ。 あの人には気を許してるのかと思ってよ」



「馬鹿ね。 別に付き合ってもないし、ただの他人よ。 まぁ、ちょっと思う所はあったけど、似た者同士ってところかしら」


「何だ、やっぱお互い気になってんじゃん」


「どこが?あんた日本語わかる? ちゃんと聞いていた?」


 理解のない返答に舞は呆れた。


「それより、エリィーちゃんの事なんだけど」


 エリィー?とユウカは疑問を返した。



「なんか背が小さくなってない」



 鋭いな。 ユウカは舞の洞察力の高さに関心を覚えた。



「そうなんだ。あいつ実は身長縮んでいっててさ」


「何でそんな事になるのよ? 」



「そうだな。 あいつもしかするともう長くないのかもしれないんだ」



 どういう事? 事態が読み込めない舞。 ユウカは言うべきか迷っていた。



「お前が見えるって言ってた魔力。 エリィーのはすげぇ少ないんだろ? それが、毎日抜けて言ってるらしい。 どうやらこの世界にいるからみたいなんだが」


 舞は眉を落とした。



「そんな。 それって、いなくなっちゃうって事?! それで、エリィーちゃんの魔力……」



「まだ、確証がある訳じゃないんだけどな。 だけど本人も感じてはいるみたいで……、どうしてやることもできないんだ」


 落ち込むユウカを始めて見た。 彼も落ち込むときがあるのだと舞は知った。

 しかし、舞とて何もできない話に、もどかしさを感じた。



「ねぇ、私の家見に行ってみたいんだけど、このまま、ちょっといいかな? この時間まだ見に行ったことないし」


「あぁ、そうだな、少し寄ってみるか」



 舞とユウカは家に帰ってから、みんなで舞の家の様子を見に行っていた。 勿論エリィーをスーツケースに入れて。 スーツケースが重く、連れて行かないと言ったら酷く彼女は怒っていた。




 



「よし、みんな集まったな」


 桂川とその仲間たちが駅前の一室に集結していた。



「これは一大事だもんね」



「ユウカには悪かったが、仕方がない。黙っているあいつが悪いんだ」



 黎と学は目を光らせ、手を顔の前で組みながら、そこに参加していた。


「あっ、ははは、皆ちょっと気にし過ぎじゃない。 いいんじゃないから、そっとしておいてあげたら。 きっと言いにくいから、言ってないだけだと思うけど」


 星は本人を外して陰でこそこそ話し合う事があまり好きではなかったので、表情を引きつらせて座っていた。



「何言ってんの、星?! 一番傷ついてるのは星でしょ!!」


「ちょっと、黎ちゃん! 何言ってんの!」


 みんなの前でいきなり思わせぶる様な黎の発言は星を真っ赤に酔わせた。


「星、我慢しなくていいんだ。 もう皆わかってるんだから」


 学の言葉に星がシュンと下を向く。


「それにしても、アイツなんであんなにモテるんだ。 こんな美少女まで放っておいてさ。 モテ期でもきてるのか?」



「ユウカ君は私が忙しすぎるから、たぶん気を使ってくれてるんだよ。 それにユウカ君も忙しそうだし」



「甘い! 甘いよ星は。 そんなんじゃユウカは他の女にとられちゃうよ。まぁ、星に惚れない男はいないと思うけど」


「もぉ、何言ってるのよ!」


 再び星が赤面する。


「それにしても、だ。 ユウカと一緒に居た女」


「あぁ、顔は見えなかったが結構スタイル良さそうだったぞ」

「どこ見てんのよ学は。 ははーん、もしかして学君はスタイルいい女子が好きなのかな? 」


「いや、俺はもっとふくよかな女子の方が」


「おい、そこ、脱線しない」


 桂川は真面目だった。


「あの人ね、たぶんだけど私達会った事あると思うんだ」


 なんだって? 学と桂川は目を点にした。


「え? どういう事。 星ちゃんの知り合いなの?」


「知り合いって言うか、ねぇ? 成華学園に登校する時にユウカ君と歩いてたの。 確か、桜華舞さんだったかな」



「そうそう。 すごい美人さんだったよね、ていうか、なんかもうあん時から付き合ってるような感じがしなくもなかったけど。 仲良く登校してたしね、あの二人」



「話したことあるのか? どんな奴なんだ」


 学と桂川は興味津々に食いついていた。


「話したっていうか、」


「んー、そうだね。 令嬢の子だからお嬢様みたいな感じだと思ったんだけど、見た目はギャルって感じかな。 金髪だし、結構はで目立ったよ。 気も強いんだと思うよ、あの子。まぁ、強がってる感じの方が強く私は感じたけど」



「うん。私達、あの時、急に空気読まないで話かけちゃったから、お邪魔しちゃったみたいで、怒らせてたら申し訳ないなって思ってて」


「もぉ、星まだそんな事言ってんの? まぁ、私もちょっと思っちゃったけど。 でもユウカもユウカだよね。 そんな人いるなら私達に行ってくれてもいいのに」


「ほんとだよ! あいつ、せめて親友の俺には話すべきだろ」


 桂川が黎に共感して、熱くなっていた。


「ようし、明日問い詰めてやる」


 黎も学も桂川に賛同した。



「いや、止めようと。 それはユウカ君が可愛いそう。 きっと言ってくれるタイミングがあると思うから、信じて待と」


 星だけはユウカの気持ちを尊重するように考えていた。



「星、 この子は本当に」



 黎はあまりにも星が健気だったので、自分の取ろうとした行動と比べて、星の方が、大人だと心を改心した。



「そうだよね。 私達が、ユウカを疑うのは違うよね。 よし、待とう。 ユウカが言ってくれるその時まで、 でも、本当に星は。 そんなんだからモテるんだよね。 本当に優しいよ」


  桂川と学を自分の取ろうとした行動を恥じた。


「そうだな。 仲間を信じないで何が仲間だ。 ちょっと気にはなるけど、ぱっと歌って帰るか! 」


「あ、ごめん、私、今日は勉強するから」


「え?」


 黎の言葉に桂川の表情が沈みそうになる。 それを何とか筋肉で保つ。 だか、よくあることだが、一人がこのような発言をした場合、芋づる式に帰って行くと言った事が起きる事がある。


「そうだな、俺も、勉強しないといけないから、今日はこれで帰る」


「え…?」


「ごめんね。 私も今日は夜から塾があるから、そろそろ帰ろうかな」


「な、何だよお前らぁ」


 桂川はこの団結力が蒸発していく現状に泣いていたい。


「にしてお星は本当にユウカの事、思ってるよね」


「そうだな。 ユウカにはもったいない」



「そ、そんなんじゃないよ。 私はユウカ君の事好きとかじゃなくて、ただ友達として」


「えぇ~? 誰も別にユウカ君の事好きとかいってないよぉ~? あれ、やっぱりそうなの?

 今のはみとめたんだよねぇ~?」


 黎のからかい癖い。黎のいやらしそうに笑う顔が近づいてくる。 その言葉にハッとさせられる星



「も、もぅ、黎――――!」


 星は蒸発しそうになって、今日の会議は終了した。 皆は仲良く家まで向かった。




「やっぱりいないわね」


「みたいだな。もう止めたのか? もしかしたら、しばらく帰ってこないから、諦めたんじゃね?」


 舞は深く考え込んでいた。



 夜や、夕方遅く、ユウカ達が見に来ていた時には、全く御上一向の姿は無かった。そして、今日、学校から、すぐ向かって暫くの間、二人で待機していたが、一向に奴らの車が来る気配もない。

以前は毎日のように、そこに来ていたぐらい探し回っている様子が伺えたが、ここ最近は全く彼らの影がなかった。



「おまえ、本当に何やったんだよ?」



「知らないわよ、勝手にあいつらが来て、攫おうとしたんだから」



 ユウカは目を細めて舞を伺った。


「な、なによ」



 辺りは本当に静かだった。


「でも、これでわかったわ。 たぶんもう家には戻れそうだし、大丈夫かも」


「そうれはどうだろうな? お前をあれだけ探し回っていた奴らが急に諦めるとは思えない。

 もしかしたら、こうやって油断を作策戦なのかもしれないぞ。 家に帰ったところを狙われる可能性だって考えられるだろ」



「た、たしかに……」



「まぁ、お前が帰りたいならはなしは別だけど、俺たちは全然いてくれて構わないぞ」


 舞は誰かと住むことを、少なくとも、他人であるユウカと暮らしてみて、居心地が悪いとは思わなかった。 一人暮らしをしていた時は、家族と暮らしていた、あの、人がいる温かさを思い出せた。 一人はやはりどこか冷たくて寂しく感じる時がある。


 舞は嬉しさと、それに甘えてしまいそうな自分と問答をしていた。

 その時ユウカのスマホが鳴る。 誰だろと画面を見るとフランからだった。


「はい、どうしたフラン?」


「……ユウカ! 大変早く帰ってきて。 ……エリィーが、エリィーが大変」



 ユウカの表情が変わる。



「どうしたの? 誰から?」


「舞、急いで帰るぞ」



「え?」



「エリィーがやばい」

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