第34 エリィーの正体!?
「あれ? 星? どうしたの?? なんか元気ないね」
灯りはうつむいて席に座っていた。何度声をかけても返答がないので、黎はのぞき込んで星に話しかけいてた。
「うわ、 黎ちゃん!? 」
「どうったの?」
「ううん? 何でもない」
「また、どうせ生徒会が色々押し付けてきてんでしょ。 星優しいから」
「こっちの生徒会は忙しいもんね。 それでちょっと疲れちゃったのかも」
星は、ユウカが舞を校門で待っているところをたまたま見ていた。
それは生徒会の片づけをしている時だった。 生徒会の仕事として先生には許可をもらって、皆よりも早く教室から出ていたので、下校のチャイムが鳴った時、まだ校門まで出てくる生徒はいないはずだった。 なのに、もの一番でユウカが飛び出してきたので、星は声をかけなかった。
星も、覗きは良くないと、その場を離れようとしたが、次いで舞が出てきたので、気になってその場にとどまっていた。 そのまま二人は一緒に帰って行ってしまったので、星は2人が付き合っているのではないか、と少し思い悩んでいたのだった。
「次移動だよ。 行こ」
星は見間違いだったんだろうと思う事にして、考えない様にした。
お昼
ユウカは学食へ行ったが、舞の姿は探せど無い。
「アイツ来ないつもりか?」
舞は今日、食堂を利用する事は無かった。
夜の事だった。 ユウカは舞から相談を受けていた。
エリィーとフランの二人は仲良く風呂に入っていて丁度ゆっくりと話しができる。
「ユウカちょっといい? 」
「ん? どうした? 」
舞が訪ねてきたのはエリィーの事だった。
「アンタと一緒に住んでる子の事、 知ってるの? 」
ユウカには質問の示すところがわかなかった。
「どうせアンタの親戚じゃないのわかってるから、聞いてるんだけど」
「え?! 何で分かったんだ!!」
ユウカは舞がこれまでエリィーについて何も言ってこなかったので、出会った日の説明でてっきり信じきってくれているのだと思っていた。
「あんな可愛い子がアンタの親戚の訳ないじゃん」
「何だよその理由は、お前すごいな。 鋭い」
「もういいから。 何で人間じゃないあの子と住んでるの?」
これは以前に舞の家で話した内容の続きだろうか? いずれ舞をエリィーと合わせた事で、こうなる事は覚悟していた。 ユウカはむしろ、舞の家で話をした時、同じ境遇を抱えている事を知り、助け合える間柄になれるんじゃないかと思っていた。
一人では何かと限界があるからだ。 だが不思議なのはなぜ今の状態のエリィーが人間じゃないとわかったのかだ。
ここに来たばかりのエリィーなら羽やら角やらと余計なものがあったから納得はいくが、今は完全にそぎ落とされ、見た目は人間そのものだ。 髪色が金だから他国の人だが。 それでも人間じゃないなんて言葉は今までのエリィーの行動からは、察する点が無かったはずだ。
どこをどう見て、人間じゃないとわかった?
フランから聞いたのだろうか?
「正直に言うと。 そうだ。 あいつは人間じゃない。 何で知ってるんだ」
「そう。 やっぱり。 あの子からは危険な匂いがする。
あの子と一緒に居て今まで何もなかったの? 」
「……どういう事だ……?」
「だから、あなたの命が脅かされるようなことが無かったのって聞いてんの!」
ユウカは左の腕を抑えて握りしめた。
以前に会ったメイド女。 なぜ、舞はあいつ同じような事を言うのだ?危険とは何なんだ?
こいつと一緒に居て、危険だったことなんて一度もない。 むしろ、ユウカが生きるのを助けていたぐらい非力だった。 確かにエリィーと関わってから、命を脅かすような事件にはいくつも巻き込まれたが、彼女からユウカの命を奪うような行為はただの一度もない。
「その質問は、どういう意味なんだ」
ユウカの顔が真顔になると舞はこれ以上突っ込まないほうが良いと思ったのか、話を退いた。
「別に、何にもないなら、私の思い込み……過ぎなのかもしれない」
「何でそう思った? 」
「別に、わかんない、けど、なんかそう感じたから」
今にも死に近づいているエリィーがそんなことできる訳がないとしかユウカは思えなかった。
「とにかく、あの子には気を付けていた方がいいかも。 じゃあ、言ったから」
「ユウカ、上がったぞ」
ほどなくしてエリィー達が上がってきた。 エリィーは年相応らしくユウカに抱き着いてきた。
「あ、こら、濡れるだろ。 ちゃんと髪を乾かしてこい」
エリィーは楽しそうにけらけらと笑っていた。
「フランもおかえり」
「……うん。 ただいま」
「こっちおいで、ちゃんと拭いてあげるから」
まるで二児の父と母である。 エリィーは羨ましそうにフランと舞を見ていた。
「なぁ、ユウカ」
「どうした? 」
「私もあれやってほしい」
エリィーの目には、フランの髪をバスタオルで拭き、ドライヤーを髪に当てる舞の姿があった。
「アホか、自分で乾かしてこい」
「えぇ~ いいじゃないか。
それに私の髪を触れる貴重な機会だぞ? 」
「お前の髪はいつも朝起きたら俺の顔に当たってんだよ」
「お前、乙女の髪に許可なく触れているのか!?
全く、油断も隙ないやつだな」
「お前が自分で当てに来てるんだろうが」
「えぇ~、 いいからユウカやろうよ」
エリィーはユウカの手をつかんでゆする。 その上目からの視線はどうも耐え難いものがあった。
「う、うるさい。 自分でちゃんと拭け」
丁度フランの髪を乾かし終わった時、見ていた舞がエリィーを呼んだ。
「エリィーちゃんもおいで。 私で良かったらやってあげるよ」
「ほ、本当か? 」
「うん」
ユウカは舞があまりのに優しい笑顔をしていたので、目を奪われていた。あんな笑顔もできるんだなと。 ちゃんとしたら絶対モテる。 学校で浮いていること事体本当に不思議で仕方がなかった。
エリィーは嬉しそうに舞の方へと走って行った。
「どう? 痛くない」
「うむ。 痛くない。 気持ちいぞ」
「そっか。 良かった」
2人はとても楽しそうで、まるで母親と娘と言うよりは、仲のいい親友と言った感じに見えた。 どう見てもそうにしか映らなかった。
「ユウカって冷たいんだね。 エリィーちゃん」
「全くだ。 やってほしいと言っているのに、最近になってちっともやってくれなくなった」
「あれ? 昔はユウカやってたの」
「あぁ、そうだぞ。 私が辞めろと言っているのにしつこく何度も、私の頭を拭いていた」
「こら、エリィー! 俺が拭きたそうだったように言うな」
ユウカは怒涛の勢いでエリィーの方へやって来た。 エリィーは舞にしっかりと髪を拭いてもらっている最中だ。
「何を言っている。 あっているじゃないか。 逃げ惑う私を追いかけてまで、無理矢理私の髪を何度も丁寧に拭いてくれていたじゃないか
私も最初は嫌だったが、慣れるといい物だな。 あれは」
「それはお前が、家の中水ぼたぼたのままで歩き回るからだろうがい」
「私の世界では普通なのだがな。 こちらではこれが仕来たりのようだな」
「家が傷むんだっての」
エリィーはドライヤーをかけてもらっていた。 丁寧な手さばきで髪を乾かす舞は、エリィーに質問をした。
「エリィーちゃんの世界はどんなところだったの?」
「うん? 私の世界か? んーそうだな。 何しかこことは全然違う所だな。
生活も、仕組みも、そしていや、自由度はさして変わらんか 」
「結構違うのかな? エリィーちゃんのいた世界がどんなのなのか、何だか気になるなぁ」
「そんな良い物ではないぞ。 ここより最悪かもしれん」
ユウカはエリィーの為に話題を変えようかとも思ったが、彼は黙って聞く事にした。 彼だって、エリィーの住む世界の事をいまいち知らない。 できる事ならここで詳しく聞いておきたかった。
「そうなんだ。 なんか厳しい掟でもあるの? 」
「そんなものは無いが、私は生まれた所が良くなかったみたいでな」
何かを思い出しているのか、切なそうに無理くり笑っていた。
「ごめんねなんか、聞いちゃいけいない事聞いちゃったかな?」
「ん? そんなことないぞ。 向こうでは色んな人と交流も出来て、それはそれで楽しかった。まぁ、それゆえ忙しいがな」
「ねぇ、エリィーちゃんもフランと同じ穴から落ちてきたんだよね? 」
「うむ。そうだが。 そう言えばフランはどうしてお前と住んでいるんだ?」
「あぁ、それは、私がちょっと色々あって出かけてた時に、迷子になってるフランと会ってね。
その姿が可愛くて、それでいて、ほっとけなかったから。
そんで、家がないんだってふらふらしてたし、じゃあ一緒に住もっかって言って、それで済んでんの」
舞はにこっと笑っていた。
「お前、そんな軽いノリだったのかよ」
「はぁー? 困っている人がいたら普通助けるっしょ」
「え? お前が!? なんか以外だわ。
でも、フラン見つけたら、確かに拾ってしまいそうだな」
「いや、絶対ダメ出し……」
ユウカの発言にムカッとする舞は食いついて言い返した。
「そうか、じゃあ私達と似ているな」
エリィーの言葉が、また始まった夫婦漫才を止めた。
「え? エリィーちゃんもユウカに誘われてきたの?
だったら危ないよ!! こんな男によくついて行ったよね?
怖くなかったの? 変態だよ」
「おいこら、もう止めろ変態は」
「何よ! 本当の事でしょ? べーだ」
「少し違うがな。 私は死にかけていたところを助けてもらったんだ。 食べ物もなく朦朧としているところをな。
まぁそれ以前に何回かこいつにはしつこくされていた時があったがな」
ユウカは明後日の方向を見て照れながら、言葉を投げた。
「うるせぇ、あれはお前がちゃんと事情を話さないからだ」
昔のエリィーは野生そのものだった。 野良犬、いや、一匹狼と言った方が良いのかもしれない。人を嫌い、誰も近づけず、誰にも頼らず。小さいながら、知らない環境下の中、自分一人でユウカと出会うまで命をつないて来たのだから。
「ああ。 だから私は本当に感謝しているぞ、ユウカ」
エリィーは舞に甘える猫のように抱き着き、頭を胸に埋めて言った。
「そんな姿で言われても、微塵も気持ちは伝わって来ないけどな」
ユウカを除く三人は笑っていた。
しかしエリィーは心の中で本当に感謝していた。その笑みの下で。 あの日の事を、あの日のユウカのぬくもりを。ただの一度も忘れたことは無かった。 自分の命を必死で助けてくれたユウカを。
あの行動は自身の心を守るための行為だったのかもしれない。
皆が寝静まった夜
「ユウカ、まだ寝ないの」
舞は肘をつきながら、一生懸命リビングで勉強するユウカを怠そうに見ていた。
「お前こそ何で寝ないんだ? 」
舞はやりたい事があった。 日課のようなものだったが、ユウカのせいでそれができないでいた。
「もう寝たら? 疲れてるでしょ」
「いや、全然。 勉強もしておかないと、追いつかないかからな」
「いいじゃん、今日くらい。 寝ちゃいなよ? 」
舞はユウカに寝ることを優しく提案した。
「お前こそ早く寝ろよ。 疲れてんだろ?」
「アンタがこんなことしてたら、寝れるものも寝れないっちゅうのぉ」
「え? マジか。うるさいか!? 悪い。 うるさかったら部屋変えるから言ってくれよ」
「別に、そういう意味じゃないけど」
心意が伝えられない、舞を顔をしかめた。
「ねぇ、アンタいっつもこんな時間まで勉強してるの?」
「いっつもって訳じゃねぇけどな。 できる時は大概だ」
「ふーん。 そうなんだ」
舞は暇で仕方がない。 そして何故か目お前で頑張られていると気になって仕方がなかった舞は、いつの間にか、前のめりで集中しているユウカの顔をまじまじと見つめていた。
暗くて薄暗い中、小さな光が、手元を照らす。 ユウカの手は思ったよりも大きくて、そして白い。
女子から見ても、見とれるほどきれいな手をしていた。
それに、綺麗な瞳。
「なぁ、お前さ。 それわざとやってる?」
ユウカに問い掛けられた時、舞は自分も取り戻したように気が付くと、すぐに顔を横にそらした。
「そ、そ、そそそそうだけどぉ!」
「そうかよ。 あんまり見ないでくれ。 集中しにくいし、照れるから」
ユウカは表情一つ変えず机に向かっていたが、心ではあまりにもまじまじと見つめる、舞の無垢で綺麗な瞳とその表情に心臓が破裂しそうになっていた。 この時の可愛い舞の姿はユウカの頭の中にしっかりと焼き付いた。
「ば、バッカじゃない! 何照れちゃってる訳。 もう、何考えてるのよ、ほんとに…… 」
舞が我に返ってから、急に部屋の違和感にとらわれていた舞は、それがだんだんと強くなって来ている事に危険を感じていた、
「ねぇユウカ? 」
「今度はなんだよ。 また邪魔でもしに来たのか」
「この部屋って本当に、誰もいないんだよね?」
「何だよ急に。 俺ら以外に誰がいるんだよ?」
「そう……なんだよね……」
舞には聞こえていた。 獣の如く、息を荒げる。 まるで目の前の獲物を捉える隙を今か今かと待ち耐えるような、スー、スーと漏れてくる音を。
だが時はすでに遅いと言ったように、舞の体は重くなっていった。
「ねぇ、ここって、いわくつきのマンションだったりする?」
「そんな訳ねぇだろ。ここ新築だぞ? それに、そんなのこの世にいねぇから。心配すんな。
女子はそう言うの見過ぎな」
ユウカはまた女子の好きな心霊話だと話を流していた。
もう限界だった。 刀を取りに行こうとしたが体は動かない。 重いのだ。
「アンタは平気な訳? 感じないの? 」
「何言ってんだお前。 普通だろ」
ユウカはすらすらと目の前の問題に挑戦していた。
舞は限界だった。 この程度なら大丈夫だろうと奢った自分を叱りたくなるほど、それはあまりにも強大過ぎていた。 部屋に入った時、最初はエリィーの物だと思っていた。 何とも微弱だが感じる魔力、それしかなかった。 なのに今感じているそれは、比して異なる。 今までも何度もそう言った事と対峙してきた事がある舞は、フランよりも強い魔力の持ち主とも、交えた経験があった。 だが、そんな舞が魔力だけで押さえつけられたように、体がそこから離れない。 どれだけの重力が自分にかけられているのか、1tpトラックが乗ってきているように、気を抜いたら押しつぶされぺちゃんこになりそうだった。
腕の一本すらろくに動かせないほどに重い。 自分の勝てない得体のしれないモノがいる。
既に力量関係がハッキリしていた。 絶対的恐怖を舞は感じていたのだ。 こんな事は舞にも初めてだった。 息が据えない。
その微細な震えは机を通してユウカにも伝わった。
「どうした? 舞? 寒いのか?」
あまりの震えに、心配して顔を上げたユウカは、涙を流して呼吸が激しくしながら固まる舞を見た。
「おい、! どうしたんだよ、舞。 何があった?!」
「あんた、……これ、ハァ、何飼ってるのよ。ハァ、ハァ、 ここで……」
「何飼ってるってなんだよ? ちょっと待ってろ、今毛布持ってきてやるから」
「動いちゃダメ!!」
大きな声に戸惑いを見せるユウカ。
「てか、……ハァ、なんで、あんた……動けるの?ハァ、ハァ」
その音はどんどんと近づいて来ていた。 どこからともなく聞こえる漏れる息音。狩りの瞬間はもうそこまで来ているのだろう。
「お前さっきからどうしたんだ? もしかして熱でもあんのか? 」
ユウカは動かない舞の額に手を当てた。
「別に熱もなさそうだけどな」
ただ震えがすごかった。
何やってんのよと舞は思ったが、声にすらならない。
「動けるなら、早くこの部屋から……逃げて」
「何言って……、そうか、 ――そうだよな」
ユウカは舞が一人になりたいんだと、訴えかけているのだと思った。
「じゃあ俺、向こうの部屋に行ってるから、本当に毛布とか要らないか? いるなら、言ってくれよ」
ユウカが部屋を出ようと舞も背を向けて話した時だった。
「バカぁ!」
舞はその瞬間それを見た。ユウカが勉強していた小さな灯りに、白い綺麗なサラサラな髪が一瞬。 姿を映した。 だが一瞬の出来事だった。 白。真っ白。 とても綺麗で美しい。 白い化け物。
それはユウカに食らいついた。決して離さないというほどにユウカの体を強く握り絞めていた。首元を持って行かれたのだろう。ユウカは声すら上げないで立ちすくんでいた。
ユウカと並んだ時、それはユウカよりも身長が5㎝ほど高く見えた。
舞は何とかユウカを救おうと立ち上がったが、体が言う事を聞かない。
涙が止まらない。 瞼が痛い。 体は重く硬直しきっている。 しっかり立てない。
もうこれが、重力なのか自分の恐怖からの震えで自由が効いていないのかすらわからない。
ただ言える事はとても恐ろしい。
舞は立ち上がった瞬間、思いっきり吹き飛ばされた。 まるでポルターガイスト現象の様に。 何が起こっているのか、何をされたのかもわからない、ただ息が吸えない舞は気を失う瞬間に、もう一度だけその白い化け物を見た。
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