第26 家を訪ねて三千里?

「良し、準備できたか? 」


「……うん」


「いいぞ! できてるぞ、いつでもこい」



「お前何してんだ?」


 重そうなスーツケースを持って、おめかししているエリィー。


「何って、行くのだろ? これから」


「いや、お前はお留守番だから」


「何でだぁ――――!! 」



「しゃーねぇだろ、外は晴れてんだから。

 それに、お前もいったら余計ややこしくなるだろ」



「やだやだやだやだ! 何で、私だけ待たなきゃいけないんだ。

 私も行く! 」



「お前な、正体隠す気あるのかよ」


「ある! それにバレたら、ばれた時だ」


「隠す気ねぇじゃねぇぁ

 今日はダメだ」



「えぇ~」


「それに、約束しただろ。

 晴れた日はダメだって」



「だけど、ユウカが心配だ……」


「エリィー……

 俺は大丈夫だから」



「私が大丈夫じゃないんだ! 」



 そう、フランを預かってる、もしくは一緒に住んでいる者に会うという事は少なからずとも危険は予測して置かなければならない。

 

 フランが帰りたがらない素振りを見せないところ、一緒に暮らしているやつは危ない奴ではなさそうだが、しかしこの不可解な力については何か知っているだろう。

 もしくは、フランの事を知った者を口封じしてくる可能性も考えられなくはない。


「フラン。 お前と住んでいるのって人間なんだよな? 

 どんな人なんだ」


「……うん。 」


 人間と言っている辺り、その可能性は低そうだが。



「……可愛くて、優しい人だよ。 とっても」


「へぇ~、 ってことは女の人か?! 」


「……うん、 でもそれ以上は言えない」


「そっか。 わかった。 でも女の人ならそんなに危険もなさそうか」



「ユウカお前何か嬉しそうだな」


「何でだよ、安心したんだよ」



「なぁ、ユウカ頼む。 私も連れて行ってくれぇ」


「お前な、考えてもみろよ、おかしいだろ。

 フラン連れて帰るのに、こんなバカでかいスーツケース持ってる人きたら」



 エリィーは拗ねた。

 かと思いきや何やらきばりだした。


「ふん゛んんん゛んっん゛んんん゛っ! 」



「おい、何だお前、きばりだしたりなんかして。 まさかこんな所でうんこか?

 止めてくれよ、おい。 トイレ行けって」


「誰がうんこじゃい!

 ちょっと黙っててくれ 」 

 

 何やら真剣だった。

 

「ふんん゛ん゛んんっんん゛んんっ! 」


「おい、どうしたんだよ。 止めてくれよ、いきなり口から光線出すとかじゃないだろうな。

 もうこのドア破壊したらマジ許さないからな」




「はぁ、はぁ、だ、ダメだ。

 できん」



「はぁ、なんだよ」

 

 ユウカは何事も起こらなくて安心した。


 「うんこだったらトイレでしてくれよ。

 じゃな、お留守番頼んだぞ。 いってきます」


 扉が閉まった。


「だから、うんこじゃないわーぃ! 

 もぅ、」




「で、フランはいつも何してんだ? 」


「……私は良くお散歩してる」


「ん? 一人でか? 」


「……うん。 一緒に歩く時もあるけど、昼間は1人で散歩してる」


「そっか、悪い人に会ったりしてないか? 」


「……うん。 大丈夫」


「そっか、御飯とかも作ってもらってるのか? 」



「……うん。 とっても美味しい御飯が出る」


「じゃあきっと、優しい人なんだ」



「……そう、とても優しい」

 

 ユウカははにかんだ。


「そっか、ならよかった。

 で、フランここはどっちに行くんだ」


 そこは分かれ道になっていた。



「……ん? わからない」



「え? わからないって。 お前の家こっちじゃないのか? 」


「……ううん。 こっちじゃない」


「じゃあ、なんでこっちに来た」


「……ユウカについて来ただけ」



「何だよそれ……」



「え? じゃあお前の家どっちの方なの? 」



「……ん~~」



 フランは何やら深く考えだした。


「え? 何どうした? 」



「ん~~~」


「何か考え事が? 」



「……わからない」



「どう言う事だ?」



「……私、迷子」



「はい?! 」



「……私……迷子なの」



 いやいやいやいや、今それですか!? ユウカは叫びたかった。


「そ、そうか、じゃあどうするか、どの辺の道とかも覚えてないか? 

 見覚えのある景色とか」


 フランは首を横に降る。


「そ、そっか。 困ったな」


 ここにきてまさかの、家がわからないという事態。

 こんな事ならもっと突っ込んで聞いておくべきだったと後悔した。

 手掛かりが全くなしというのは、動きようがない。



「と、とりあえず、こっちじゃないないなら、引き返して反対側歩いてみるか」


 フランは首を縦に振った。

 ユウカの手をそっと握りに来た。


「よし! とりあえず、探すぞ! なんか思い出したら言ってくれ」


 フランは縦に首を振っていた。

 こんな事ならエリィーを連れてくるべきだったとエリィーを置いて来た事を反省した。



「どうだ? こっち側歩いてみて、何か見覚えあるか? 」




「……ん~ある様な、無いような」


「お前、よく散歩してたんじゃないのか? 」


 フランは縦に首を振った。


「お前、もしかして電車で来たとかじゃないよな? 」


 フランは電車と言うものを理解していないようだ。


「はぁー。

 駅、行ってみるか」


 ユウカはフランと駅に向かった。

 「この辺はどうだ? 」


 フランは首を横に降る、 しっかりとユウカの手を握りしめて。


「そっか、 お手上げだな

 とりあえずどっかで落ち着くか

 歩きっぱなしだし、座ろう」



 その時ユウカはある事を思い出した。

 この子スマホ持ってなかったっけ? っと。


「なぁ、連絡取れないのか? お前スマホ持ってなかった? 」


「……スマホ? 」


 ポケットの中で何やらごそごそとし出す。

 そもそもこいつの服の袖はだぶだぶで体と合っていない。

 ひと回り大きめのモノを着せられているのか? それともこういうのが今流行っているのかは分からないが、一応手がすっぽりと袖に覆いかぶさっている様は可愛かった。 袖口が逆三角形のように丸く膨れて大きくなっているのだからそういうデザインなのかもしれない。

 だけど、その手で取れるのだろうか? そこが気になっていた。


「……これのこと?」



「それだよ、それ!

 それで連絡がつくから、場所聞いてみて 」


 フランはしばらくスマホを見つめると、軽く頷いた。



「……できた」


「どれどれ」


 スマホを見ると、ダイレクトに”住所教えて”とだけ書いてあった。

 なんともドっ超級過ぎる。


 それからすぐに返信が来た。


「どこにいるの? 心配したんだからね

 一応住所送ったけど、迎えに行くから、 どこ?」



 相当心配されているようだった。 ユウカはさらに何通ものメッセージのやり取りがあったのを見たが、どうやらフランが独断に行動していたように見えたので、これ以上前のメッセージは見ないようにした。


「ありがとう。 大丈夫 自分で帰るから」


 フランはそう贈るとスマホをパーカーの前ポケットへと入れた。


「良いのか?

 住所ここだったらこっからそんなに遠くは無いか

 良し行こう」




「……おー」



 と言ってもナビを入れないと、細かい位置までは分からないので、ユウカのスマホで住所を打ち込んで向かった。




「あった。 ここだ

 立派な家だな」


 ユウカの目の前には一軒家が立っていた。

 普通の民家よりはちょっと広い、後、とても綺麗な作りだけど古さも感じた。

 庭も広くて、土地持ちの人なのだろうか。 蔵もあった。


「すげぇな、ここ

 チャイム鳴らすぞ」


 ユウカが押すと同時に玄関が開いて誰かが飛び出してきた。

 ユウカはチャイムがある柱で誰が来ていたのか、玄関が開いたことも見えなかったが、手をつないで横に立っていたフランなしっかりと見えていた。



「フラン! 」


 女性の呼び声が聞こえた。 優しくて綺麗な声。

 相当心配していた事が分かった。


「……まい!」

 

 フランもユウカの手を離して、彼女の元へと駆け寄っていった。

 ユウカはとても迷惑をかけてしまったと、少し顔が合わせずらくなった。

  

「もう、どこ行ってたのよ、心配したじゃない。

 こんな遅くなるとか思ってなかったから、誘拐されたのかと思ったじゃん」



「……ごめんなさい」

 

「もう、」


 彼女はフランの無事が確認できて涙ぐんでいるのが声でわかった。

 どうも出ずらいが、覚悟決めて、事情は説明しておかないとと、ユウカも顔を出すことにした。



「お友達ってどこ行ってたの?」


「……ユウカて人の家」


「そうなんだ。 いつの間にお友達つくったの? 危ないから今後は気を付けてよ。

 あと、今度その人私にも紹介してよね」



「……うん。 とてもいい人。 私、ユウカ好き」


「そうなんだ良かった。

……ん? ユウカ?」



 彼女にはその名に何処か思い当たるものがあった。



「あ、……あれ~、

 えっと、お前ここで何してんの? 」



 ユウカも柱から出てみてびっくりだった。

 まさか彼女と会うとは思いもしていないから。



「え? アンタなんで、ここに……

 もしかしてユウカって……」


 それは彼女も同じだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る