第24 壊滅の長



「ユウカ! 」


「エリィー! フラン!」



「大丈夫か? ユウカ!? 」



「何でここに?」



「……エリィーが危険を察知して」


「うむ。 お前に良からぬ事が起こってそうで、いても立ってもいられず、夕方になったんで来てみたんだ。


 あれは、お前の学校か? 」



「あぁ、そうだ。 何があったんだ?! 」



「悪い奴らが。 ごめん。 こう言うと誤解を生むな。

 バイパーって言う、ここいらを騒がせている、ひねくれ者の集団があるんだ。

 そいつらが、学院を襲ったんだ」 



「なぜ、? それはまた、私を探してか? 」


 ユウカはエリィーの頭を優しくなでた。


「ちがうよ、 今回はお前の事じゃない。 

 何やら黒いフードの男を探しているみたいなんだ」



「……はっ!! 」



「いや、お前じゃないぞ、 フラン」



「それは、あの時私を誘拐した、キャップに黒いフード付きのパーカを着ていた、あの男の事か? 」 


「誰を探してるのかはわからない。 だけど、そうじゃないのか? 

 アイツほどの奴ならバイパーに喧嘩を売っても別におかしくはない」


「そのバイパーと言うやつらはそんなに強いのか」


「強いというよりは、一人ひとりは人間だ。 強いけど、そこまで脅威ではねぇ。

 だけど、問題はルール無用の見境無しにやってくるところと、奴らの数だ」


「数か、それはちと厄介だな」


「あぁ。 それで最悪な事にうちのクラスメイトが数人連れていかれた」



「何だって? 」



「しかもあいつら未来さん達を玩具にするつもりだ」


 ユウカの顔は激しく怒り立てていた。


 そんなユウカの裾を引っ張る。


「……大丈夫、私がいる。 ユウカの敵は私がぶっ飛ばすから」


「そうだ。私たちがいる。 そのクラスメイトとやらを助けに行こう」


「え、助けに行こうってお前ら。 俺の話聞いてただろ。

 お前たちは大人しくここにいろ」



「何を言っている。 ユウカ。 フランは今私たちの中で一番強い戦士だぞ。

 こいつの力なら人間なんぞ貫通してしまわう」


 エリィーが自信満々に答える。


「いや、確かに玄関突き破るほどの力はあるのか知らないが、この華奢さで、本当にそんな力あるとは思えないんだが……」



「そうか。 フラン、そこの壁を殴ってやれ」


 エリィーは自慢げにフランに命令し指さした。まるで自分の力のように。


「……うん。 わかった」


「そこの壁って、…おいちょっと止めろ!! 」


 フランは軽くコンクリートの塀を殴ると、見事に貫通する拳ほどの穴をあけた。  


「見ろ。 どうだ。 これがフランの力だ。まぁ、まだ数パーセントも力を出してはおらんだろうがな」


 何故かエリィーが満足そうな顔をしていた。


「馬鹿やろう、お前ら! 人ん家の塀勝手に壊すんじゃねぇ」


 ぽっかりと空いた穴からコンクリートの破片が零れ落ちた。

 家の中が見えないように囲っていた塀の穴から、綺麗に家を覗くことができた。



「あ、すまない。

 とりあえず、これは後だ。 早くしなとまずいのだろ? 

 先に助けに行かなければ」



「あぁ、そうだな。 フラン、悪い。 少しだけ、お前の力を貸してもらえるか? 」


「……うん」



「ありがとう。 急ごう」



 ユウカ達は汚れた道路を辿っていった。





「隊長やりましたね。 こいつらいつ食べます? 」


「別に好きにすりゃいいだろ。

 薬はキメてるのか? 」



「いや、まだこれから 」



「じゃあ、寝かしとけ。 

 これから総集がかかんだろ。

 遊ぶんならそれからにしろ。 


 それにおまら、もう何人かで遊んでんだろうが。

 あんま潰すなよ」



「へぇい」



「ぐぎゃぁぁぁぁ」


 彼らのビルが揺れる。



「何だ? 下が騒がしいぞ? 

 何ふざけてやがるんだ。 あいつらは? 」



 下では壁をぶち抜いて、一人。 また一人とバイパーの一味が倒れて行った。





■□■□■□■□

 フード男はふらふらと薄暗い道を歩いていた。 

 歩くのはネオンに際まみれて賑わう街ではない。 廃れた廃ビル等の路地外で賑わう族たちの町だ。

 その情景が似合うと言ったらまさに彼の為の背景と言ってもいい。


 こういった場所には族がいるのが付き物だ。

 この路地を超えていくと、崩れ果てた廃ビルがいくつもある土地がある。

 訳あってここの区画は整理がされていないので、ビルや建物はつぶれたまま放置されている。

 それをいいことに勝手に、バイパー達が拠点にしていた。



「ぎゃぁっははっははは」


「でよ、そいつがよ、 もう馬鹿でたまんねぇんだけどよ」

 

 フードの男は人など構わず、ただ歩いた。

 そのゴツイ肩が、話している族に当たり、その大きな靴が族の足を踏みつけていく。


 ただ一直線に道なり構わず走る戦車のように。

 

「おい、こらてめぇ。  何してやんがだこの野郎」


 男の一人がナイフを取り出して叫ぶ。


「殺すぞ。 カス、こら」


 離れていた一人がスマホで連絡を入れる。



「おい、待て、てめぇ。 もしかして黒いフードにグラサンって……  

 まさかてめぇか? 俺らの仲間やったって言うお尋ね者は」



「とりあえず死ねや」


 ナイフを持った男が懐を思いっきり刺した。

 それはしっかりと手ごたえがあった。


「へっへへ、 やってやったぜ。 くそ野郎がこ、―――― 」

 

  ナイフがへにょへにょに折れ曲がった手ごたえが。


「おい。 お前……」



 すでにナイフを持った男の頭は半分潰れていた。

 完全に死んでいる



「てめぇこら――」



 殴りかかった男の腕にはバイパーの腕章。


 フードの男はそれを確認して、身をかわす。


「ちっ。 またおめぇらかよ。

 この国の路地にはお前らしかいねぇのかよ。 いちいち視界に入ってきやがって鬱陶しい。 いい加減潰すぞ」



 突っ込んできたバイパーの体が背面の方へ折れ、脊髄は完全に折られた。

 男は泡を吹きながら、消沈した。



「おいなんだ、コラァ」


「喧嘩か? 」


「なんだなんだ、めんどくせいぇなぁ、 何なんじゃいボケ」



 ぞろぞろと建物の中からバイパ―達が現れた。

 その数20人ほど


 

「何だあいつ」


「おいおい、大丈夫か」


「アイツ、俺らの仲間二人殺ってんぞ」


「殺すしかねぇだろう」



 バイパー達は一斉に飛び掛かってきた。




「なんだ、ゴキブリの巣窟だったのか、ここは。

 餌でも食ってたか。 邪魔したな」


■□■□■□■□





 一人、また一人と人が飛んでくる。 


「な、何だよあいつ。

 俺らの仲間どれだけ殺してんだよ」


「や、止めてくれ、 たすけてくれぅ……」



 レモンを絞るように男の頭を握りつぶした。


「この中にまだいんのか? くそどもが。 イライラする」


 フードの男は引っ張られるように中に入っていった。





 「ん゛ん゛んんん゛んん――――」



 下に下って行ったとき、一つの部屋から聞こえてくるうめき声。

 何人かの人の声が聞こえる。

 

 フードの男は扉を蹴り開けた。



 部屋の中には3人の男が護衛として居たが、うち一人が扉に挟まれ死んでいた。

 

 2人も、襲い掛かったが、一瞬で返り討ちに会い、どちらも絶命した。 一人は首を、もう一人は心臓をもぎ取られた。


 部屋の中にはまた部屋があるようで、六つの扉があった。



 中にいたが男が外の物音に気づいて部屋から飛び出てきた。


 男が見た光景は無残に死に絶える仲間の死体だ。



 当然この男はすぐさまフード男の餌食となった。 壁に頭を打ち付けられて。


 その部屋の中に足を踏み入れたフード男がみた光景は、手足を拘束された女性。 しかもまだ若い女性が泣いていた。 

 

 体には沢山の傷ができていた。 鞭で打たれたような蚯蚓腫れがいくつも見受けられた。



 フード男は壁を破壊し、一つ、また一つと隣の部屋に入って行っては、中にいたバイパーを潰して行った。


 中には五人も入っている部屋があり、その中の女性は気絶したように倒れこんでいた。


 残りの部屋は二つ。 向こうの部屋からもうめき声が聞こえてくる。



 「ん゛ん゛んっ、んん゛んんっ――――」


 フード男が引き返して壁を蹴破ると、仲には女性だけが座っていた。


 フード男の背後から死角に隠れた男が脇腹を刺した。


 刺さったのは鋭く返しがいくつもついた短剣のようなもの。 拷問器具だ。


 だが、フード男は一切怯むことなく、そのまま後ろにエルボを食らわせると男の頭が飛んで行った。


 


「う゛ん゛ん゛んっ、んん゛ん

 ん゛ん゛んっ、んん゛ん」


 女は何かを言いたそうにしていた。


 フード男は女性のくつわをとってみせた。


「助けて。 お願い、みんなを助けてあげて」


 フード男は表情一つかえず、まるで聞く耳すら持っていない様に最後の部屋をぶち抜いた。

 自分の脇腹に刺さったナイフを力いっぱい抜くと、縛り吊るされた女性を下ろした。


 返しには自分の肉片が一緒に引き抜かれていた。



「や、止めろ 止めてくれ」



 足を折られたバイパーの頭頂部を目掛けナイフが刺さる。

 バイパーの男はモノ言わぬ者となった。


 フード男は轡を咬まされていた女性に自分の上着を掛けると、部屋を後にした。


「大変です、長! 」


「何やってんだよ、お前らうるせぇ。 

 ちょっと騒ぎ過ぎだぞ」


「一人の男が入ってきて、俺たちの仲間を殺してる」


「あっ? たった一人でか?

 無理だろ

 お前らどんだけ弱ぇんだよ」 



「アイツですよ、 あいつ。 俺らの仲間を殺したっていう」


 表情が一瞬で曇る。


「何だと、 コラァ。

 単身一人で乗り込んできたってか。 

 それで、うちは無様に殺さてんのか? 何腑抜けてんだ御めぇら、 全員集めて掛かれ! 」


「へぇぃ! 」


「行くぞ、愛五郎。 ここで首取ってやる」


「あぁ、やってやろう」


 物静かに愛五郎が答えた。



「っぐうぎゃぁぁぁぁぁぁ」


「おう゛ぇぇちえっぇぇ」


 一人、また一人とバイパーが倒れていった。


「ッチ、一体何人嫌がるんだ、このウジはよぉ! 」


 廃ビルに当たり、壁を殴る。 その力は建物中に伝わった。



「な、何だこの揺れ」



「チクショ、舐めやがって」

 

 長はいいように倒されていく仲間たちにいら立ちを隠せない。



 フード男を止めれる者はいなかった。

 どんどんとビルの中を上がっていった。


「何だ、この部屋はなんもねぇのか。つうより、これ以上は上がれねぇな。 瓦礫で塞がってやがる。

 ってことは粗方片付いたかごみは」


 だだっ広い仕切りもない部屋。ここはオフィスビルだったのだろう。

 机などは無い物の、その広さは大企業がかつて入っていたのではないだろうか。

 それも今では無残に傾き倒れた、ボロボロのビルだ。

 

 10何階ほどはあったんだろう、エレベーターは機能せず、今じゃ4階でそれ以上の階は無い

 あるとすると、崩れ落ちた隙間から上がビルの屋上ぐらいだろうか。

 足場すら傾いてるこのビルは危なくて仕方がない。





「おいこら、 よくもやってくれたな。

 おめぇ、今日ここで死ぬぞ」



 長とここいら全てのバイパーがフード男を囲っていた。


「死ぬ前に聞かせろや。 

 てめぇバイパーの俺たちを何で殺して回ってる? 」



「はぁ? バイパーって何なんだよ? 」

 

「俺らの事なんも知らないで喧嘩売ってたってか」


「喧嘩を売る? おいおい冗談だろてめぇら

 何言ってやがる。 俺はお前らに喧嘩なんざこれぽっちも売ってねぇよ」



「おいおい、今ごろ私は何もやっていませんなんて、通じると思ってんのかコラァ! 」 



「ぎゃぁぎゃぁ、うるせい、 残りのウジはこれで全部だろ? 

 さっさとかかってこいよ。 掃除して帰りてぇだけだよ」


「こいつ」


 仲間のバイパーがしびれを切らしていた。


「待て」


「長! 」


 長は止めた。



「おい、くそ野郎、 てめぇの名前だけ教えろや。

 最後に名前だけは覚えといてやるよ」


「なんだ? 虫に名乗る名前なんてねぇんだけどな

 どうしても知りてぇって言うなら、仕方がねぇから、情けで教えてやるよ。


 俺の名は、代厳だいげん。 代厳だいげん 正治しょうじだ!」 



「ふん。 俺の名はど――――」



 とてつもない速さで飛んできた岩がバイパーの一人の頭を持って行った。


「要らねぇよ。 聞いてねぇ。 さっさとやれや、 苛つく」



「てめぇ! やっちまえぇ! 」



「おらぁぁぁあぁぁっぁぁぁ! 」


 総合計121名対1人。 


 一斉にかかってこられては、どちらが勝つのか明白だった。


「愛五郎!」

 

 長の掛け声とともに先陣を切るように男に飛び込んだ。 

 とても身軽いその動きは、どのバイパー達よりも早く、そして最後尾から一種にして先頭へと立った。


 彼は無数の針を投げつけ相手を串刺しにするプロ。 

 元は鍼灸師だった彼は、沢山の人の体を治療していた。


 ある日、成金だという女の治療に当たった。 彼女の病は腕が青白くなり動かなくなっていくというものだった。 つまりは筋肉が固まり、血がながれなくなる病だ。

 血が流れなければやがて腕は壊死してしまう。 医師から、日々マッサージをして固まる筋肉を治すしかないと言われた。

 だが、それはちょっとやそっとほぐすだけでは、すぐに筋肉は凝固してしまう。


 一日ずっともんでいれば何とか、腕の筋肉が固まら無い状態を保てたが。

 これでは生活もできなかった。 


 耐えかねた女性は名医であったヨシキという医者を頼ってきた。


 ヨシキはすぐに、それがどういう物で、どうすればいいのかを知っていた。

 かれは鍼灸師としてあらゆる知識に人生の全てを尽くした。


 彼女の病気もヨシキの知る範囲であった。

 だが、一つだけ、希望がなかったとしたら、それは完全に治癒させる事は出来ないという事であった。


 針で筋肉を刺激し、通常の柔らかい状態に戻すことはできる。 だが、必ず、1日20分だけは筋肉をもんでやる必要があった。

 そうしなければ、1日1日、少しずつまた固くなってしまうのだ。


 彼女はその説明を受け、承知の上で、元の腕を手に入れる治療を承諾した。 

 今まではずっと触っていなければならなかった。 それがたったの20分で良いというのであれば、彼女にとっては十分な進歩であった。ただし、その治療費も莫大なものであった。


 自分で動かすことのできる手。 痺れもなく、昔のように動かせるように治った彼女は、ヨシキにすがるように泣き、感謝の意を唱えた。 



 時が経つと、人間は小さなことでもそれを怠ってしまうものだ。


 今日ぐらいはいいや。 明日からしよう。 今日は疲れてしまったからできなかった。

 そうして積もり積もった腕はやがて、動かなくなり、切断を余儀なくされた。


 その女はとても悲しんだ。 あれだけ頑張り、多額のお金をつぎ込んだのに、最後は意味のないものになってしまった。

 彼女の美で売っていたプライドも今や片腕を失っては何も叶わなくなっていた。


 彼女の悲しみはやがて怒りに変り、そして、それは治療したヨシキへと怒りの矛先を向けた。


 ヨシキは薮医者、そして、詐欺師だとして、世間に公表された。

 女は少し有名な女性でもあり、マスコミが金のネタになると面白おかしくその情報を大きく盛った。


 勿論彼はわざとおかしなことをした訳ではない。 最善の知識でそれを治療していたので彼は戦った。

 その結果ヨシキは民衆から恨まれるようになり、家に放火され住む場所を失うこととなった。

 家にいた家族は皆家と共に燃え去り、そして、彼一人が残った。 


 これは立派な犯罪であると取り立てられたが、放火した住民たちは罪に問われることは無く、ヨシキがその街を追い出される事となった。


 人も信じられず、放浪するうちに、彼はバイパーの総長 と出会った。


「よう、 何してんだ、おめぇ

 殺されてぇのか? 

 それとも、生きる事をあきらめたんか? 」



「なんだ、君は? 僕に近づくな。 殺すぞ」


「あぁ? 聞こえねぇ。 何ぼそぼそ話してんだ? 話すんだったら聞こえるよに話せよ」


「お前であれ、だれであれ殺すぞ。 俺にかまうな」


「はっっははははああはっ

 何だおめぇ。ぼそぼそしゃべるから、死にてぇのかと思ったけど。

 いい目してやがる。  この状況で俺に殺すなんて啖呵切った男はおめぇが初めてだ」


 ヨシキは初めて自分と周りの景色が目に映った。

 

 総長らしき男が率いる族が自分を取り囲んで睨みをきかせている状況を。

 その数100人を越えていた。


 殺される。 その時初めてヨシキは自分の死を悟った。



「てめぇ、名前なんてんだ? あぁ?」


「ヨ、ヨシキ、だ」



「ヨシキ。 みみっちぇ名前だな、コラァ」


「おめぇの名前は今日から愛五郎だ

 俺らと一緒に、この世界で暴れようや」


 ヨシキは総長の手を取った。

 愛五郎はこうして、人を殺すための針を極めたのだ。



 フード男の体に愛五郎の無数の針が突き刺さり、動きを止めた。

 フード男の姿はもう、サボテンと化していた。


 そう。 どうあがいても、ここで終わるのだ。

 これはもう避けられない。 運命。

 決着はすぐについた。



「な、なんでだ? なぜ」



「辺りめぇだろ、この状況でどうしてお前が勝つって言うんだよ

 あほが」



 周りには大量の人が倒れていた。



「ひぃ、ひえぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ」


 瓦礫の下から一人のバイパーが逃げて行った。


「あぁん? どっかで見覚えがあるウジだな」



 依然に缶をぶつけた、あのバイパーだった。



「あぁ、いつかのくそウジか。 まだ、生きていやがったのか。

 ッチ苛つく。 しぶてぇ。 ま、いいっか。 

 はぁ、ちょっとはスッキリした」





 ユウカ達は星の囚われているであろう、旧地ビル街へやって来た。


「ここだ」


「ここって…言ったって……」


 ユウカ達がバイクの後を辿ってくると、すでに倒れているバイパー達の姿だけがあった。




「これ、どういう事だよ? 」



「わ、わからないが…… もうすでに終わった後のように見えるぞ」



 フン、フン、フンと首を振るフラン。



「と、とりあえず、星をさがしてみるか」


「そうだな。 行こう」



 3人は廃ビルの中に入って行った。


 1階も2階もみんな倒れていて、人の気配すら感じない。



「本当に一体何があったんだ」


「ユウカ見ろ、 下に行く道があるぞ

 何やらここに生体があるみたいだ」



「フラン! 」


 いざ何かあった時の為にもフランを身構えて降りる。

 いくら何か居るからといっても、さすがに自分より小さいフランを盾にするのはユウカも違うと思ったので、怖いがユウカが先頭をきった。


「誰か?! 誰かぁいるの? 」


「この声は? 未来さん!? 

 未来さん! 」



「誰? こっち。 こっちよ 助けて」


 

 声のする方へ行くと、そこにはフードのついたパーカーを被せられた星がいた。

 制服は酷いほど汚れ、破れている。


 優しい誰かがパーカーを掛けたのだろうが、なぜ、ここから助け出さなかったのか?

 助けたのではなく、内部抗争などがあったのだろうかとユウカは思った。




「大丈夫?! 未来さん。

 縛られてるのか? 今ほどくから」



「ユウカ君!? どうして、ここに? 


 う、うんありがとう」


「大丈夫? 何もされてない? 」


「だ、大丈夫、だけど」


「これ、何があったの? 」


「わ、わからない。

 なんか、男の人がねぇ、来てくれて、それで。


 うわぁぁぁぁぁぁっぁ、 ユウカ君」


 星はユウカに抱きついて泣き崩れた。

 誘拐され酷い目に合わされかけたのだ。 そりゃ緊張の糸が緩めば、感情も押し寄せてくる。


 ユウカはしばらく優しく包み込んでいた。

 いい匂いがして放したくなかったというのが本音だが。 が、こんな事をしている場合ではない。 はやくここから逃げないと、いつやつらの仲間がここに来るかもわからない。 

 もしこんなところを見られれた、間違いなく終わるだろう。


「未来さん、動ける? 」




「ユウカこっちにも女たちがいるぞ」


「エリィーこれ頼む。

 

 はい、紐ほどいたから、とりあえず、未来さんはここから出て。

 一人で行ける? 」


 ユウカは自分の羽織っていた服をエリィーに投げ渡した。


「ううん。 私も手伝う。 ユウカ君たちだけだったらきっと大変だし。

 みんな運びきれないと思うから。

 私も体何ともないし、手伝う」



「分かった。 だけど無理しないで」



「エリィー! その子頼めるか」


「うむ。 任せろ」



「フラン。 端の2人を頼めるか」


「…… 任せて。 ついでに、この子も持って行く」


「さ、さすがフランだ」


「ねぇ、? 大丈夫? 立てる?」



 星はすでにもう一人の女の子の所へ寄り添いに行っていた。



 

「君は未来さんと一緒に行って」

 ユウカは助けた女の子に指示を促した。



「誰かいないか一応見てくる」

 

 その子はユウカの服を掴んだ。



「もう誰もいないわ。 連れと来られた人は私達だけ。

 みんなここに押し込まれたから」



「わかった。 ありがとう。 

 ともかく君は未来さんと一緒に行って。 いいね」



 彼女はうなずいた。




 そのままユウカはビル内を走り回った。 

 黒いフードの男。 こいつが一体何を目的にしているのかは分からない。

 その男が、もしユウカの想っている、アイツなら。

 一体何をしたいのか、問い詰めたかった。


 どこの階にも倒れた人の姿。

 ここにはもう誰も居ないらしい。

 かといってバイパーがいたら、と思うと怖くて仕方がないが今はそんな感情を殺してユウカは走った。



 ユウカがビルからでてくる。


「ユウカ! 大丈夫か? 」



「あぁ、ありがとうエリィー。 ちゃんと誘導してくれたんだな」



 遠くから赤いサイレンのランプがじわじわと向かってきていた。


「こちら警視庁本部。 事件の報告をされたし」


「警視406。本部へ。 こちら、現場。  女性6人確保。 すべて身元確認身元確認。

 誘拐された、成華学院の女性とすべて一致。 これから署へ戻ります」


「警視庁了解」



「警視408。 現場到着。 これより現場の検証に入ります」


「警視庁了解」



 無事事なきを得た。 

 廃ビルには黄色いテープが敷かれた。


 「ユウカ君ありがとう」


 星が泣きながら、抱きしめてきた。 強く、強く。 ユウカは心臓が爆発しそうになっていた。


「あ、未来さん――

 

 本当に無事で良かった」



「ユウカ君が来てくれたから」


「さ、行こうか」


 星は警察の人に連れていかれた。

 どうやら、ユウカがビルから出てくるまで待っていたらしい。



「ねぇ、ユウカ君! あの二人が居ないの? あの子たち、あの子たちは大丈夫なの?! 」



「あぁ、大丈夫だから。 

 心配しないで。 知ってるから」



「そうなの? だったらいいんだけど。

 あのこ達にもお礼を」



 星はパトカーに乗せられて、出発した。



 二人には段取りを説明してある。

 警察という組織を呼んだから、みんなを外に出したら、2人はすぐにそこを離れろと。


 警察が来れば、細かいことまで聞き込まれ、今後マスコミの対象にもなりかねない。

 素性がバレれば大変だから、待ち合わせる廃ビルの残骸に隠れてろ。 と。



 後は警察がやってくれる。 ユウカがそこに向かうだけで今回は終わりだ。 

 家に帰ったら今度は2人の夕飯を作らないといけない。

 だいぶ遅くなってしまったから二人もお腹が空いているだろう。 今日は2人の為に贅沢な御飯にしてやろう。 

 早く帰らないと。 

 そう思いながら、ユウカは待ち合わせ場所に向かおうとした。


「ちょっと君! 」


 ユウカは警官に呼び止められた。


「はい? 何ですか? 」


「どこに行くんだ! 君も一緒に来てもらうから」



「えっ? ちょ、ちょっちょ、ちょっと待ってください!

 俺はこれから」



「良いから来なさい。 

 君には色々と聞かないといけない事がある。

 この沢山の倒れている人の事とかな」



「これは、俺じゃなくって」


「後は署で聞くから。 早く来なさい」


「ちょっと――」


 ユウカは警官にパトカーに乗せられそのまま行ってしまった。



「あらららぁ」


「……どっかいっちゃった」


 

 エリィーとフランは立ち尽くして、ユウカが行くのを見ていた。









「総長――!」



「なんだぁ? うるせぇな コラァ」



「す、すいません。 それどころじゃないんです」



「なんだぎゃーぎゃー

 誰だこいつ入れたの。 殺すぞ」



「き、聞いてください。 東獄死武隊とうごうしぶたいが壊滅させられました」




「あぁ、何言ってんだ。 お前」


 総長は走ってきたバイパーの腕章を見た。


「おめぇ、東獄死武隊んとこんか? 

 何があった」



「そ、それが、以前俺らの仲間を殺した、あの男が。

 東獄死武隊うちに来て、俺らの仲間が全滅させられて」



「あぁ? お前んとこには長や、愛五郎がいただろうが? 」


「殺られました」



「あぁん? 」


 

「ひっ!! 」


 総長の顔は般若のごとくつり上がった瞳に変った。

 その場にる誰もが恐れおののいた。



「そりゃ、うちとしてはもう、黙っちゃらんねぇな。

 面子丸潰れじゃぁねぇか。 

 小島。 長崎。 全員集めろ。 そいつを絞める」


「情報が少なすぎるぜ。 総長。」


「てめぇら、 そいつの情報を洗いざらい探し出せ。 どんな手を使っても構わねぇ」


「そ、そいつ、名前を代厳 正治と、名乗ってました」


「代厳? 知らねぇな。 まぁいい、調べろ

 絶対に許すな。 バイパーを舐めた事を思い知るがいい」

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