第19 とある家の事情




 ある男が歩いていた。

 その男は、やけに、汚れた服を着て深くフードをかぶる。

 夜と言えど、外は暑い。 彼は平気なのか、汗ひとつかかないで、厚着の服で歩いていた。


 落ちた空き缶が靴に当たる。


「チッ」


 男は思いっきり空き缶を蹴り飛ばした。


 男の歩く路地は薄暗く、ごみごみしている。

 似たような不良たちがたむろする様な場所。


 まるで、廃墟と言わんばかりに荒んだ建物が、いくつも並んでいる。

 そのたまり場にいる、一人の男に空き缶が当たる。


「おい、 何だてめぇ

 喧嘩売ってんのか、コラァ! 」


 たむろしているグループが一斉に男を見た。 

 人数は6人、内2は女だった。



「何アイツ? 超汚いんだけど」


「てか、何あれ、きもすぎ~」


 女たちは、よほど強い男に守られてるのか、男を舐める様に挑発してくる。



「おいおい、アイツ殺されたいのか? 

 ちょっと来いよ、オラ」


 この街で、その巨大さと、荒れ狂う様が有名になったグループがある。

 パイルバイパー。 この街で暴れ回り、やりたい放題好き勝手しているグループだ。


 彼らの横暴さは、目に余る。 

 それを率いるリーダーは余程のモノらしいが……。

 彼ら自体はチンピラの集まりだ。


 それが横暴出来るのはあまりにも数が増え過ぎた為周りの歯止めが利かなくなってしまった事にある。 






「おいおい、やめてやれよ。

 そんん騒ぎ立てんな」



「だけど相沢さん。 あいつ俺に缶、蹴り飛ばしてきたんすよ。

 半殺しにしてやらねぇと気が済まねぇ」


「まぁ、待てよ。

 お前、俺らに喧嘩売って来たって事でいいか」


 相沢という男は両脇の女を抱き寄せる。



「あん? だれだ、おめぇ

 喧嘩? 知らねぇよ。 お前らがそこにいたから当たっただけだろうが」


「てめぇ、舐めた口ききやがる。

 おい、やっちまぇや。

 殺してやりゃいい。

 おめぇ詫びても許されねぇぞ」



「オラぁ! 」


 2人の男が彼に飛び掛かった。



 彼は2人がかかりでぼこぼこに殴られたが、ただ黙って立っていた。


「何だよこいつ? 」


「何もしてこねぇ」



「もう気は晴れたか? 」



 彼は缶が当たった男の腕をつかむと、腕を反対方向へ、へし折った。

 鈍い音が聞こえる。



「あぎゃあ゛ぁぁぁぁぁあぁ゛ぁぁぁぁ」


「こいつ腕折りやがった」


 

 もう片方の男が横に落ちているパイプを持って、殴りかかってきた。

 

 固い音と共に大きな音が響く。  彼の額から血が流れ出た。

 

「武器ってのはこういう風に使うんだ」

 

 鉄パイプが折れて吹き飛んだ。 彼は折れたもう片方の鉄パイプを、パイプを持って殴ってきた男に返した。

 

「えっ?」


 流れ出る赤い血が滴る。


 パイプは男の腹に突き刺さって男は倒れた。


「キャ―――――」


「や、やべぇ、 なんだこいつ。

 本気で殺しやがった」 


「てめぇ、」


 相沢と言う男が向かう。

 顔面にパンチをお見舞いしたが、この時、相沢と言う男は叶わない事に気づいた。

 絶対的な強者との差だ。


 だが、もう遅い。入れてしまった拳はしっかりと彼の顔面に入っていた。

 

 相沢と言う男が反応する前に、彼の頭は押しつぶされていた。

 一瞬の出来事だ。 建物の壁に頭を掴んんで抑え込まれた。

 それだけで彼のあたまは無くなったのだ。


「あ、相沢さん! 」


 女たちは一目散に逃げて行った。



 缶を当てられた男はただ逃げる事しかできなかった。


 強者は何を見るのか、逃げまとうモノを決して追おうとはしなかった。



「イラつくぜ、全くよ。 くずどもが」



 雷と大雨が当たりを包んだ。






「最悪だ、昨日夜から、大雨すごかったけど、まだやんでないのか」


「相当荒れとるな。 雷も鳴っているし」




「エリィー、戸締りちゃんとしとけよ。

 俺学校行ってくるから」



 ユウカは玄関に向かった。


「ん? どうした? 」



「……はい、傘。

 気をつけて行って来て」



「サンキューな」


 ユウカはフード少女のあたまを撫でた。

 まさかそんなことをしてくれるなんて思ってもみなかった為ユウカは嬉しかった。

 


「なんだ? ユウカを見送って来たのか? 」



「……うん。 見送ってきた」



「そうか。 今日は雨だな」


「……うん、雨。 真っ暗」


 2人して窓の外を眺めていた。



「こんな日は外に出るしかないな」


「うん。 ……


 ……えっ?! 」



「私はどうしても行きたい場所がある。

 プランがある」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 すっげぇ雨。 服がびしょびしょだ。 ユウカは急いで学校へ向かった。

 傘では到底塞ぎきれない。



 見覚えのある後ろ姿が映る。

 舞だ。


「おい、 雨ヤバくないか、もうびっしょびしょで――」


 ユウカは隣に駆け寄って話しかけたが、舞は上の空で、そのままユウカを置いて行った。


「ちょ、ちょっと待てって。 なんか怒ってんのか? お前」


「はっ!? 」


 急に肩に触れられたことで舞は我に返る。


「な、なんだ変態か」


「おまえ、それまだ言ってんのかよ」



「何? 急に? なんか用? 」


 傘であまり顔が見えない。


「いや、別にようって訳じゃ無いけど、お前見かけたから」


「なにそれ、めんどくさいんだけど」


「な、 悪かったな」


「別に。 それよりあんた、女の子の友達多いんだね」



「は? いきなりなんだよ。 

 別に、女みたいな名前だし、当たり前か」



「意味がわかんねぇよ」


「…………………」


 ユウカはどうも舞の感情に違和感を感じた。


「おまえさ。どうしたんだ? 具合でも悪いのか? 」


「別に、悪くないよ。 

 あんたと会ったから、今日も最悪だなって思っただけ」



「あぁ? 

 何で顔そらす訳? 俺なんかしたか? 」



「もぉ、うっさいなぁ。

 あんまこっちみんな。

 服濡れてんだよ」



 ユウカは制服からうっすら透ける下着に顔を赤めた。


「ううっ、それはすまん。

 ごめん。 そう言う事か」



「気づけよ、ばかぁ」


 それでも、どこか舞が暗く見えた。


「なんか悩んでる事とかあるんじゃねぇの? 」


「はぁ、 えっ? 何? 」



「俺の話し、聞いてなかったの」



「アンタの声ちっさくて聞こえなかっただけ」


 どこか二つ返事のように、そこに意志が感じられない。


 ユウカは自分の傘で、舞の傘を押し上げた。


「よっと」


「ちょっと、あんた何してんの? 

 濡れんでしょ、バカ! 」



「痛ってぇ」


 ユウカのすねを思いっきり蹴られた。


「何すんだよ、おめぇ」


「アンタが雨の日にガキ見たいな事するからでしょ」


 傍から見れば、ユウカの行動は小学生じみていた。



「おまえ、なんでそんな目の下くま出来てんだ? 

 大分寝てないんだろ」



「なっ! 」


 雨が止んだ。 急に引いた雨はまるで、舞の心境を現したように、一瞬だった。



 舞は見られない様に、すぐに俯いて顔を隠した。

 ほんの一瞬なのに、ユウカにそれを見られて驚いた。


「あれ? 雨やんだ。 ラッキー。

 で、なんかやっぱりあるんだろ?

 すげぇ、くま深いし」



「くっ!」


 舞はユウカに詰め寄った。 とても顔が近い。

 舞はユウカの胸ぐらをつかむとユウカに思っている事を伝えた。


「あのね、あんたね。

 言おうかと思ってたんだけど、あんたにも、くま出来てんだからね」



「えっ? あ、これ? 

 これはちょっと昨日ゲームのし過ぎで」


「はぁ、あんた人の事馬鹿にしておいて、ゲームとかやってんじゃん」


「いやだから、ちげぇーって。 昨日のは、ちょっと色々あったんだよ」


「アンタのくまの原因が、ゲームのやりすぎって、ほんとお気楽でよかったわね」


「ん、まぁ、自分の生活習慣の悪さだけど」


「……ないんだよ、」


「えっ? 」


「別に、 じゃあね」



「あっ、おい

 何なんだよ」



◇◆◇◆◇◆◇◆





「……ねぇ、こんな事していいの? 」


「良いも、悪いも、私達の問題だ。

 それに、毎日家の中では体に悪いだろう」



「……うん。 それでこっちであってるの? 」


「あっているに決まっている。 

 私には、アイツのいる場所が大体わかるのだからな」



「……でも行ってどうするの?? 」



「いや、特には何も。 ただ、お前だって見てみたいだろ? 」


「……まぁ、気にはなっていたけど」



「だろ。 だったら、行くには今しかない!

 こんな曇りの日は、中々ないのだからな! 」


「……どういう事。 ……晴れた日に行けばいいのに」


「よし! ついたぞ ここだ」



 エリィーが前に立っていたいのは、ユウカの学校だった。

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