第8 色々無い
「エリィー。
大丈夫か」
ユウカが帰ってきた。
「あぁ、ユウカか、
そうだな、体が熱い。
燃えているようだ」
目がとろんと垂れ下がっている。
自分では力を入れられていないようだ。
「悪いな。
ちょっと起きてくれ。
薬を買ってきたから、これだけ飲もう」
ユウカはエリィーの体を起こすと体温を測った。
43度。
ユウカは目を疑った。
43度は高すぎる。 人間でいえば入院を余儀なくされる温度だ。
と言うか、今すぐにでも救急車を呼ばないとまずい。
体もとても熱い。 手が火傷しそうな熱さだ。
ただ、ここでユウカには一つの疑問点が残る。
こいつは人間ではない? のであるならば、この体温の上昇はこいつらにとっては普通なのか?
という事だ。
それとも殺人ウイルスの症状が出ているのか?
そこが全くわからない。
病院に連れていければ、万が一の命の危険を回避できるかもしれないが。
とりあえず、解熱剤のとんぷく薬をエリィーに飲ませた。
このまま引いてくれればいいのだがと、ユウカは無事を祈りながら見つめる。
エリィーはそのまま、ぐったりと寄り添ってきた。
ただ力が入らず、持たれている、と言うのが正しいか。
ユウカはエリィーを寝かせることにした。
落ち着かないが、今やれることをやれるだけしようと、ユウカは薬局中を駆けずり回っていた。
とりあえずこんだけ集めれば何とかなるかもしれない。
念には念をと、手に袋いっぱいの薬を持って帰ってきていた。
時刻は回る。
そろっと開けると、エリィーはまだ寝ていたい。
静かに体温計をかざす。
45度
ありえない。
これは間違いなく、殺人ウイルスだ。
体温はどんどんと上昇していく。
ユウカは確信した。
エリィーが発火しないようにエアコンをガンガンに効かせ、買ってきた氷枕を手や、足にも当てた。
どうすればいい? いこのままではエリィーは死んでしまう。
発火してしまえば一巻の終わりだ。
どうすればいい、どうしたらいいんだと、頭を悩ませる。
このパニックの最中、ユウカの中で、ふと脳裏に浮かぶ。
このまま感染してしまえばいいのではないか?
俺が発症すれば、エリィーに薬を持って帰ってこれるのではないかと。
ユウカはマスクを外しエリィーの手を握りしめた。
そのまま二人は眠りについた。
「ユウカ~」
誰かに呼ばれたユウカは呼び声に目を覚ます。
「あれ、俺寝ていたのか」
「そうだぞ、ずっと私の手を握ってな。
そろそろ離しててくれないか」
「え? うわっ、ごめん」
「何だその反応は。
手を振り払いたいのはこっちだぞ。
まったく。 手汗がべっとりだ」
エリィーが普通にしゃべっていた。
「あれ、お前、熱は? 」
「うん~、わかんない。
ともかく今は何ともない」
「そんなことないだろ。
だってお前、45度も熱があったんだぞ」
「それは知らんが、今はなんともない
むしろ少し体が楽になった」
「そうか、よかった」
昼と夕方にとんぷくを飲ませたのが良かったのか? とユウカは考えたが、エリィーの状態は昨日ほどではないが、しっかりと自分の足で歩くようにはなっていた。
「今何時だよ」
時計の針は22時を回っていた。
もう夜になっていたことにユウカは驚いた。
「明日は大丈夫そうか? 」
「うむ。心配かけたな。
もう大丈夫そうだ」
ユウカは体温計を当てた。
38度5分。
全く大丈夫ではない数字が出ていた。
「うん。全然大丈夫じゃないな。
お前、全然熱あるぞー
あしたも俺休むから、安静にしてなさい」
満面の笑みで棒読みだった。
ユウカの進学がどんどんと、遠のいていく。
ユウカも見た目と反した熱が表示されたので、騙された気持ちでいっぱいだった。
とにかくもう寝なさい。
「私は眠く、」
「もう寝なさい」
エリィーを無理矢理寝かせ、部屋は真っ暗に包まれた。
深夜3時頃。
ユウカは微かに振動する物音に体を起こした。
「あれ、俺また疲れて、リビングで寝ちゃったのか」
自分が考え事をして、食卓用のテーブルの上で眠っていたことを思い出した。
「ユウカ~」
振り向くとエリィーがそこに立っていた。
エリィーはガクガクと震えていて、かじかんでいた
「お前どうしたんだ!? 」
あまりのエリィーの変容ぶりに理解が追いつかない。
エリィーは厚着の布団をかぶってユウカの前に出てきた。
「寒い。
めちゃくちゃ寒いんだ」
歯がガタガタとなっている。
震えのせいで上と下の歯が当たっている。
「おい、なんでだよ。
真冬でもないのに。
とりあえずこっちへ」
「うん」
てちてちと無垢に歩いてくる。
相当体が震えており、まるで猛吹雪の山から下山してきたようになっていた。
真っ青で今にも凍り付きそうな顔をしていた。
と言っても、エリィーは元から肌が透き通った様に真っ白な為、日ごろから真っ青と言えば、真っ青に見える。
が、今のエリィーの状態は、それを凌駕しているのは一目瞭然。
ユウカは、布団を持って、真直ぐ歩いてくるエリィーをすぐさま包み込んだ。
「あっつぅ」
その見た目とは相反して、熱い体のエリィーに驚いた。
てっきり冷たいのかと思っていたが、その逆で、まるで火にあぶった金属を抱えているように熱かった。
これは、体温が下がり過ぎて震えてるんじゃない。
体の筋肉が、熱を上げようとして震えているのだと、ユウカは理解した。
そうか、こいつの体は今頑張って菌と戦っているんだな。と。
ユウカは震える体を優しく包むと、ベッドまでエリィーを運んだ。
「しっかり布団に包まって寝な。
俺は横にいて手を握っててやるからな」
ユウカ~
そう呟きながらエリィーは眠る。
ユウカもエリィーの寝顔を見てほほ笑む。
窓から日差しが差し込んだ。
「んー、
もう朝か。
エリィーは? 」
エリィーはまだおとなしく眠っていた。
良かった。 どうやらまだ発火はしていないらしい。
ユウカはそっと体温計をかざす。
37度4分
熱は大分下がっていた。
「ほー。
なんだかんだあったが熱が下がってる。
これで一安心だ」
ユウカは台所に立ち、朝食の準備をする。
しっかりとエリィーのごはんを作って、学校の支度を始める。
そう、流石にもう学校を休む訳には行かないのである。
「じゃあ行ってきます」
もう、熱が上がってませんようにと祈りながら登校する。
学校――
放課後
「ユウカ大丈夫か?
まだしんどいんじゃねぇの?
今日もなんかボーっとしてるし」
「あぁ悪い。
心配かけて。
もう大丈夫だ。 何ともないよ」
風にかかっているのはエリィーなので、実際ユウカは何ともない。
「もしかしてあの殺人ウイルスだったりして」
学のからかい癖が披露される。
「バカ、嘘でもそんな冗談止めろ。
周りが驚くだろがい」
桂川がフォローを入れてくれた。
「悪い、悪い
ほんでも、無事で良かったよ」
別に学も悪気があって言っている訳では無い。 少しは疑っているにせいお。
三人はお互いを信じあっているからこその冗談でもある。
「よし、じゃあ良くなったお祝いに今日は遊びに行くか」
「悪い。 今日は用事があるんだ」
「またかい! 」
「なんだよ、ユウカ最近つれないな」
ノリが悪いユウカに、落ち込む二人。
「何だよ、お前。
ここ最近本当に、なんかしてんのか? 」
「いや、別に何も? 」
「怪しい……
お前、さては最近女ができただろ? 」
「はぁ?
お前、何言ってんだよ」
「そうでもなけりゃ、ここ最近のお前の言動はおかしすぎる」
「居ないよ。 そんなの」
詰める桂川にユウカは、エリィーの事がバレたらと隠すことで必死になっていた。
「んー、じゃあ何でなんだ?
いつも、遊びに行ってたのに、急に早く帰り出すようになって。
お前、何隠してるんだ」
今度は学からの質疑である。
「だから、何も隠してねぇって。
あ、あれだ、実は俺、最近読書にハマってしまってさ。
どうしても、今集中して読んでたいんだよ。
それに、俺、頭良くないだろ。だから来年に向けてもう勉強詰めないとまずいんだよ
あと、病み上がりだからさ」
「はぁ?
お前が? なんだよ、一流の大学でも狙ってんのかよ?
たく、何急に真面目になっちゃってさ」
「まぁ、確かに、今の俺らは頑張らないといけないのはあるんだけどさ」
学は見た目から確かに勉強を大切にしている。 一方の桂川とは違って。 こいつは友達思いだが、根っからの遊び人だ。 そんな桂川には読書の大切は伝わらない。 勿論勉強の大切さも学とは違って。
納得せざるをおえない言葉に、学ぶもしぶしぶ受け入れる。
「あんま、こん詰めんなよ」
「おう、さんきゅーな」
ユウカは急いで自宅を目指した。
「エリィー! 」
「ユウカ―! 」
もうダッシュで小さい生き物が駆け寄ってくる。
だけどもユウカはその姿に驚いた。
「やったー。 治ったよ」
お構いなしに飛びついてくるエリィー。
「見てくれ!どうだ!
この通りもう何ともないぞ。
完全に治ってしまった
がーはっはっはっは」
ユウカが驚いていたのはエリィーが急に元気な姿を披露したからではない。
いつもと違っていたエリィーに驚いていた。
「お前、体……どうした?
角はどうしたんだ? 」
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