第471話 強敵、帝国兵

 人気のない広場で戦闘が始まると、それを確認した領兵、そして、ラグーネ、アンク、シオン達が姿を現して包囲網を展開した。


 それに気づいた帝国兵達は全く焦っている様子がない。


「……計画は次に移行」


 それどころか誰からか短く指令が下ると周囲を警戒していた帝国兵達が、すかさず戦闘態勢に入り、魔法を詠唱し始めた。


「おっと、それはやらせないぜ」


 アンクがその俊敏性を持って最速で帝国兵に切り込んでいく。


 そして、大魔剣の飛ぶ斬撃で奇襲をかけた。


 帝国兵は初見の飛ぶ斬撃に魔法を詠唱中の一人が血飛沫を上げて斬り捨てられる。


「こちらは魔剣使いだ!」


 帝国兵が味方に警戒を促す。


 その間にアンクはすぐに次の帝国兵に大魔剣で斬りかかるのだが、帝国兵の対応は早かった。


 アンクとの距離を詰めて剣を交え飛ぶ斬撃を封じるとその脇から違う帝国兵がすり抜けてアンクの胴鎧の隙間のお腹をしたたかに斬る。


「ぐはっ!」


 アンクが、痛みに後方に飛び退った。


 帝国兵は逃がさないとばかりに距離を詰め、止めを刺そうとすると、ラグーネが自慢の『鏡面魔亀製長方盾』の能力、『範囲防御』を発動してそれを阻む。


 その脇をシオンがすり抜け、アンクと帝国兵の間に入ると、『相対乃魔籠手』の左の籠手で殴りつけた。


 帝国兵はそれを易々と防御して見せた。


 しかし、「ぎゃっ!」と、帝国兵は悲鳴を上げるとその場に崩れ落ちた。


 シオンの左の籠手は闇属性を宿し、敵にランダムで強力な状態異常ダメージを与えるのだがそれが発動したのだ。


 しかし、その反動でシオンにも苦痛ダメージが襲い掛かる。


 だがシオンは少し顔を歪める程度で全然平気な様子だ。


「その二人の動きにも警戒」


 また、帝国兵の誰かが味方に警告を発する。


 その間に領兵達も包囲網を縮めて帝国兵を捕らえようと動き出すと、帝国兵達の魔法詠唱が終わり、魔法を発動、広場に爆発音と共に密集体形の領兵達のいた数か所が吹き飛んだ。


「敵陣形崩壊、追撃してさらに陣形を崩せ」


 帝国兵は全員落ち着いてエアリスの捕縛と取り囲む領兵達に対して無駄なく任務を遂行しようとしていた。


「想像以上に強い!」


 タウロはエアリスを庇いながら、戦っていたがそれもほとんどできない程、押されていた。


 小剣の光の刃の距離感を掴めない為に有効打はまだ敵に取られていないがそれも時間の問題だ。


 この領兵による囲みもこの帝国兵達なら捕らえたエアリスを担いで逃げ延びそうであった。


 斬られたアンクの容態も気になるが、今はその心配もできない程、タウロも防戦一方であった。


 そんな激戦を他所にエアリスは魔法を使いながらその黒壇の杖で帝国兵と互角に戦っている。


 エアリスは本当に真聖女の元でどんな修行をしたんだろう?


 と、思える程、その動きに無駄は無くいつの間にかその戦闘スキルも高いのであった。


 だが、そのエアリスでも数人に囲まれると分が悪い。


 タウロが助けに入りたいが、こちらはこちらでタウロを殺そうと数人の帝国兵が肉薄してくる。


 その度に小剣の光の刃で野菜をスライスする如く帝国兵を斬り捨てるのであった。



 帝国兵のリーダーは想定の範囲内と冷静に部下達に指示を出していた。


 しかし、少し手間取っているのも確かであった。


 まず、標的と一緒にいた子供が想定以上に手強かった。


 上位の剣士が使うような魔法剣を使用してくると思っていなかったし、その立ち回りは熟練した年配の戦士のようであった。


 聖女の方も聞いていた話では貴族の養女に入っただけの村娘だったはず。それが魔法も一級品、立ち回り、杖術も相当な手練れだ。


 それでも焦る程ではない。


 包囲しようとしている領兵の質は想定通りだ。


 その中に冒険者と思われる三人の腕がよく魔剣や魔盾、魔籠手と魔道具装備のオンパレードで内心驚いたが、一人は負傷させて下がらせた。


 この分なら、囲みを殲滅してからでも、聖女を捕縛してこの城から脱出しても良さそうだ。



 そう思っていた矢先。


「『狂戦士』!」


 シオンの声が、聞こえてきた。


 『相対乃魔籠手』の能力を発動したのだ。


 シオンは闇に覆われた猫の姿に変化し、帝国兵に襲い掛かる。


 後方にアンクを下がらせていたラグーネもそこに参加する。


 この二人の連携は強力だった。


 絶対的な攻撃力で乱戦を得意とするシオンの『狂戦士』。


 それに対し、『鏡面魔亀製長方盾』の絶対的な防御力と魔槍を用いた白兵戦が得意なラグーネである。


 そこに攻撃特化のアンクが入るとさらに強力なのだが、二人だけでも十分であった。


 チートの様な強さに帝国兵もすぐ一人戦闘不能に陥り、二人負傷して下がらせるという状況に陥り、押され始めた。


 それでも帝国兵は囲みの圧力に対してはまだ想定の範囲内とばかりに、エアリスとタウロへの攻勢を緩めない。


「キャッ!」


 エアリスがついに帝国兵に背後を取られ押さえつけられそうになった。


 タウロはだが、相手する帝国兵で手一杯だ。


「ぺら、エアリスを守れ!」


 タウロの命令にベルトに擬態してタウロを守っていたスライムエンペラーのぺらが、擬態を解きエアリスを抑え込もうとした帝国兵に襲い掛かった。


 これまでぺらはタウロを守る事のみに徹していたから誰かを攻撃する事は無かったから、これが初めてであった。


 ぺらは体の一部を変化させ、鋭い針の様に尖らせ瞬時に帝国兵を串刺しにする。


 帝国兵は何が起きたかわからずに絶命した。


「そのままぺらは、エアリスを守って!」


 タウロは視界の端にその状況を確認するとエアリスの事はもう安心とばかりに帝国兵に向き直るのであった。

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