第466話 魔道具通りで

 何者かが『祝福の儀』の邪魔を企てたが未遂に終わった翌日。


 タウロ達は『聖女』が一日休養を取るという事で、周囲の者達が取り巻きとして傍にいる選択をする中、街に出て買い物をする事にした。


 バリエーラ領都は王都程ではないにしてもかなり大きい街であり、何より魔道具の街として有名なところであったから、タウロにとってはかなり興味を惹かれていたのだった。


「じゃあ、俺は、飲みに出掛けるぜ?」


 アンクは朝から飲み屋通りを探して出かけて行った。


「では私は、この領都の名物料理でも食べに行くとするか!」


 とラグーネはアンクに続いて出かける。その際、シオンにウインクをして見せた。


 シオンは最初、「?」となっていたが、何かに気づいたのだろう。


 少し考え込むと、


「ボクは……、お洋服を見に行ってきます!」


 とシオンも慌ててラグーネの後を追って行く様に出かけるのであった。


「「?」」


 タウロとエアリスは三人の慌ただしさに首を傾げるのであった。


「じゃあ、僕は魔道具を見て回るよ。何か刺激になっていい案が思いつくかもしれないし」


「そうね。この領都は魔道具の都だから楽しいわよきっと。──私もついて行っていい?」


 エアリスが気を遣う様に聞いてきた。


 以前の様な強引に付いてくるような感じはなく、あくまでタウロが良ければという態度だ。


「もちろん、いいよ。エアリスの意見も聞きたいしね。あと、時間があればどこかで実験もしたいから傍にいてくれると助かるかな」


 タウロは以前のエアリスとの関係を思い出したように、その時の感覚で返事をした。


「呆れた……。──もしかしてシオンにも実験をつき合わせたりしているの?」


 エアリスはタウロが相変わらずである事を改めて確認し、溜息を吐くのであったが、変わらない事に安堵したようにも見えた。


「あはは……。今は実験する時はみんなに付き合ってもらっているかな。危険な事も多いし……」


 タウロはエアリスに話していない実験もあったから、苦笑すると言葉を濁した。


「……わかったわ。私も成長してタウロの危険な実験にも以前より対応出来ると思うからいいわよ」


 エアリスはいつものタウロらしさに微笑むと承諾するのであった。


「じゃあ、まずは『魔道具通り』に行こう!」


 タウロはそう言うと、エアリスの手を引いて街へ繰り出すのであった。



 領都の魔道具通りは、街の大通りからかなり外れたところにあったが、人の賑わいは大通り以上であった。


 魔法使い系の姿をした通行人が多く、少し特殊な雰囲気があるが、各お店の前では自作の魔道具のデモンストレーションが行われ、中には人だかりが出来ているお店もある。


 実はこれ、タウロが以前、王都のガーフィッシュ商会と相談して魔道具ランタンの店頭販売を行った事がいち早くこのバリエーラ領都でも広まり、真似していたのであった。


 そう、魔道具を開発、販売する者達にとって、タウロの魔道具は画期的であり、さらにその販売方法はお客が来るのを待つ側であったお店にとって目から鱗で、参考にする者が後を絶たなかった。


 そして今ではこのやり方がこの街の魔道具店にとって、ジーロ・シュガー方式という、定番の販売方法になっているのであった。


 そうとは知らないタウロは、目を輝かせて各店舗先で行われるデモンストレーションを一つ一つ見物する。


 タウロが興奮してエアリスにデモンストレーション中の魔道具の仕組みを解説する。


 エアリスは疑問に思った事をタウロに聞き返し、それにまた答える、というように二人は魔道具通りでの時間を満喫し始めるのであった。



「色んな発想があるなぁ。中には僕の商品に似た発想のものもあったけど」


 タウロ本人は全く気が付いていなかったが、魔道具開発界隈において、タウロの別名であるジーロ・シュガーは綺羅星の如く現れた謎の魔道具開発者として注目の的であり、特に若い者にとっては成功の代表例として憧れの対象になりつつあった。


 技術者にとってタウロの商品の数々は、これまでの概念を覆すものであったからだ。


 とは言ってもその魔法陣を使った技術は古代のものから進化させた形で、現在ではその基本となるものは滅んでいた。


 現在の技術は古代のものを進化させつつ簡略化させていった結果である。


 タウロは前世での魔法陣研究をこちらの世界に持ち込んだだけであったが、その一部がこちらでも使えた事が幸いした。


 とにかく、ジーロ・シュガーは魔道具業界において、注目の的であり、その活気がこの街の『魔道具通り』であった。


 中には実際、タウロの開発した商品を扱うお店もある。


 きっとガーフィッシュ商会から直接仕入れているお店なのだろう。


 その店頭では、うちがこの街で商品を最初に扱った元祖と言わんばかりに、ジーロ・シュガーの名前を連呼して、タウロが開発したクーラーの宣伝をしている。


 お客は店主に言われてクーラーに顔を近づけ、出てくる冷たい風に「おお!」と感動しているのがタウロには微笑ましい。


 今やジーロ・シュガー製クーラーは室内に設置して室内を涼しくし、来客の一助にしているお店も多くあるから、嬉しい限りだ。


 タウロとエアリスはそんな活気溢れる魔道具通りを一通り巡り、本人達も気づいていないデートを楽しく過ごすのであった。

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