第431話 ハクの正体

 隠れ村の村長宅。


 タウロの報告内容に驚き喜ぶ村長は、入手法が気になった。


 当然だろう。自分達は沢山の人を使ってこれほどの情報は集められなかったのだ。


 内部の有力な協力者でさえも集められなかったこの情報の出処が気になった。


「それにしても、これだけの情報をどうやって?」


「冒険者の情報網とだけ言っておきます。これでも、僕らはDランク帯冒険者ですから」


 タウロは自分達を評価させる為に謎めいた言い方をしてみせる。


「……なるほど。冒険者なら我々の様な人間では想像もつかない人脈などもありそうですな。──それにしても素晴らしい!」


 村長は、自分が見込んだタウロが結果を出してくれて、とても満足そうだ。


「それで、村長の計画とはなんですか?」


 タウロは、村長が上機嫌の内に肝心の計画内容を聞き出す為に率直に切り出した。


「我々の計画ですか?……先代のグラウニュート伯爵には、現当主以外に子供がいるという噂はご存じですか?」


「……噂はよく聞きますが、あの手の噂は嘘が多いですよね?」


「その噂を流したのは我々です」


「村長さんが?」


「十四年前、先代が急死した時、とある女性のお腹にはその子供が宿っていたのです。これは真実を伝えなくてはと噂を流しました」


「……それもよくある話の気がしますが……」


 タウロは慎重に指摘する。


「我々はその女性と子供をすぐに保護しました。その一年後、体調を崩していた女性が亡くなり、その子供はこの村で匿う事になりました」


 村長は、タウロの指摘を無視して語り始めた。


「匿う?何からですか?現在のグラウニュート伯爵はとても評判の良い当主だと聞いてますが?」


「あれは偽りの仮面です。先代の時、あの男の評判はそれはそれは酷いものでした。先代もあまりの放蕩息子ぶりに他所へ念の為、子供を作ったのだと思います」


 父上……、若い頃何をしてたんですか。


 タウロは、父グラウニュート伯爵の若い頃の放蕩ぶりを想像して、内心、苦笑いするのであった。


「それはもしかして、ハクの事ですか?」


「ええ、そうです。あの悪辣な男ではなく、先代の意思の証拠である、あのハクこそがグラウニュート伯爵家の跡を継がないといけないのです!」


「そのハクですが、髪や目の色黒色ですよね?先代のグラウニュート伯爵は紫の髪色に青い瞳だったと思うのですが」


「はっはっはっ!その通り。我々はこの日の為にハクの髪は染め、目は薬を使って色を変化させているのです。ハクの本来の髪色は紫、そして目は青色ですよ」


 ……その方法があったか。でも、本当に先代の子供なのだろうか?


 タウロは、まだ、状況証拠に過ぎないと思い、核心部分を聞く。


「その証拠は?」


「カクザートの街での娼館通いは、生前の先代が時折行っていましたから、間違いありません。ハクの母親は息子の未来を案じ、肯定こそしませんでしたが、否定する事も無く亡くなりました。それに、過去にはこの村に、ハクを探して現当主の密偵が訪れた事もありました。それはクロスに始末させましたが、それで十分でしょう」


 父の部下が失踪したという話を聞いていたので、どうやら証拠を掴んでこの村を訪れたが、始末されたとなると、それだけの事実が何かあったのかもしれない。


 その上、髪の色、目の色も同じとなると、確かに先代の遺児なのだろう。


「それではこれからハクを使ってどうするのですか?」


「もちろん、爵位をハクに移譲して貰います!その為にもタウロ殿が提供してくれたこの情報を基に我々の部下を現地に潜入させ、偽りのパーティーを制圧、そしてみんなの前で認めさせます。パーティーに招待されている貴族達も血の繋がりがいかに大事な事かわかっているはず。きっと我々の訴えに耳を傾けるでしょう。やり方は多少強引ですが正統な血筋に戻るのです。領民も認めますよ!」


 村長は、自信を持って握りこぶしを掲げて見せた。


「そんなに上手くいきますか?領内の街や村など各地の代表も強引すぎる手には納得しない者もいるのでは?」


「各地の代表にはいるでしょうな。現当主の支持派も多くいますから。しかし、周囲の貴族は平民の養子などよりは、余程でない限り、血筋にはこだわると思いますよ?」


「……わかりました。確かにどこの馬の骨ともわからない子供より、血筋がはっきりしているハクが相応しいでしょう。それだけ聞けば十分です。僕達も協力しましょう。その代わり、報酬は高いですよ」


「おお!それは良かった!実はみなさんの処遇については、我々も意見が割れていたのです。もちろん、私はみなさんを見込みのある方々と庇っていたのですが、強硬派の中には消してしまう方が良いという愚か者もおりましてな。協力して頂けるなら安心です。成功した暁には、十分な報酬もたっぷりお支払いしますよ」


 村長は満面の笑みでタウロ達『黒金の翼』の協力を大歓迎するのであった。



「では、当日、僕達も作戦通り、パーティーに潜入しますので、計画通りお願いします」


 タウロは村長と計画について綿密な打ち合わせをすると、隠れ村を後にした。


 タウロは尾行が無い事を確認して、みんなに頷く。


「思った以上にヤバくないかリーダー?」


 アンクが、第一声を切り出した。


「そうだね。まさか、領兵の中にも手先がいるとは……。でも早く、この情報を聞き出せてよかったよ。あと十日、それまでにあちらを完全に覆す作戦を父と共に練ろう」


 ラグーネ、アンク、シオンはその言葉に頷くと、一行は急いで領都に戻るのであった。

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