第338話 黒幕の正体

 塩の生産業者が集まる『塩湖亭』──


 そこで情報収集をする為にタウロ一行は、カウンターの席で食事をしながら聞き耳を立てていた。


「街長様は相変わらず何もしようとしないな!」


「本当に何もしやがらない!」


「それを言ったら冒険者もだろう?」


「いや、冒険者の方は最近、あの厄介な蟹を討伐してるチームを塩湖付近で見かけたぞ?」


「そうなのか?」


「ああ、俺も遠目にしか確認していないが、冒険者ギルドはやっと動いてくれた様だ。でも、1チームだけだがな」


 聞いていたタウロは少し反応した。


 自分たちの事だ。


 少しは役に立てているはずだ。


「あとは街長様だが、先代と違って、今の若いあの街長は糞ったれだ!何もしないが懐にはちゃっかり貯め込んでいるからな」


「おいおい、あまり大きな声で呼び捨てはまずいぞ?……それにしてもやはり噂は本当なのか?」


「……ああ。街長のところで経理を担当している役人が知り合いにいるんだが、酔っ払った勢いで俺に愚痴をこぼした時に言ってたからな」


「……まじか。それじゃあ、横領はするわ、無能だわじゃ、このカクザートの街も終わりだな。領主様に訴え出た方がいいんじゃないか?」


「誰がグラウニュートの街まで行って訴え出るんだ、証拠もないぞ?相手にされず門前払いが関の山さ」


「今はそれより、俺達の生活だろ?塩湖周辺の魔物を討伐して貰わないと塩の生産も再開出来やしない」


「そうだな……。そういやぁ……、役人から横領の話を聞いてからだったな魔物の大量発生は」


「やだやだ!悪い事はたて続けに起こるというが、無能で強欲な街長の横領発覚に、魔物の大量発生が重なったら、この街には大災害でしかないな!」


 塩の生産業者達はその言葉に賛同するとお酒をがぶ飲みする。


 今日のお酒は明日に尾を引きそうであった。




「……ここの街長は無能で強欲か。酷い話だ。これはグラウニュート伯爵にも知らせないといけないな、リーダー」


 聞き耳を立てながら飲んでいるアンクがタウロに話した。


「……街長の横領発覚と魔物発生が同時期……か」


 タウロはアンクの言葉が耳に入らず考え込んだ。


「なぁタウロ。気になったのだが、塩湖で大量発生している魔物は元からの固有種なのか?元からなら冒険者もそれを討伐する為に、Dランク帯の冒険者も沢山いそうなものだと思うのだが……」


 ラグーネが考え込んでいるタウロに、意外な質問をした。


「──!……確かに……。すっかり見落としていたよ。治安が良いこの街であの火焔蟹の存在は奇異的だよね……もし、あの火焔蟹が塩湖に意図的に持ち込まれ繁殖させたものだとしたら……」


「なんだそりゃ?この街は大損害だぜ?喜ぶ奴は少なくともこの街にはいないだろ。……という事はよそ者か?」


 アンクが、推理の末に犯人が外部にいそうな予想をした。


「普通に考えたらそうなんだけど……。それだとこの街の街長が領兵を動かさない事の説明ができないでしょ?」


 タウロがアンクを相手に頭の中を整理しながら話し出した。


「……まぁ、そうだな。普通、外部の仕業なら、被害に対応して領兵を動かして防ごうとするか……」


 アンクはタウロの問いに自分の予想が振出しに戻った事に混乱した。


「でも、もし、横領の発覚を恐れ、それを有耶無耶にしようと塩湖に魔物を放ったとしたら?」


「横領の発覚を恐れて?」


「そう。この街の大きな税収は塩。その塩が、魔物が大量発生して税を回収できません、と報告して、領主への納税額が少ないのは横領ではなく魔物のせいです、という言い訳の為だったら?」


「そりゃ酷いな。もし、それが事実だったら、本当に大損害を受けて自分の懐にもお金が入ってこないじゃないか。それは流石に馬鹿すぎるだろう?」


 アンクがタウロの推理を否定した。


「でも、街長の評判を聞く限り、頭は良くないみたいだよ?」


「……確かに。リーダーの言う通りなら、今回の騒動の黒幕が街長の自作自演で、説明もつくかもしれないが……」


「さらに、ここの冒険者ギルドの古参のチームは街長の子飼いだよ。他の地元の冒険者達にも大きな影響力があるはず。火焔蟹を放置させる事も不可能じゃないよね」


「わかった、話が見えてきたぞ!他の支部への要請も誰かが街長の命令で握り潰していたとしたら、全てが説明できるな」


 沈黙を続けていたラグーネが、タウロの説明を理解して話に入ってきた。


「そこへ僕達がやってきて、討伐を本格的にやり始めた上に、大量発生の原因を掴んだから、領主の目を誤魔化す引き伸ばし工作も限界に来た。邪魔と思えるよそ者の僕らを、街長は領兵を派遣して監視させようとした……。うん、全てが繋がって来たね」


「となると……、そろそろ街長の子飼いになってるC+ランクの冒険者チームが、俺達に釘を刺す為に現れそうだな」


 ニヤリとアンクが笑みを浮かべた。


「そうだね。軽い脅しがあるかもしれないね」


 タウロもアンクの憶測に頷いた。


「そうか。では、そいつらを成敗すればいいのだな?」


 ラグーネが、実力行使案を口にした。


「こらこらラグーネ。冒険者同士の私闘は禁じられているから駄目だよ。多分、この街から出て行く様に脅してそれを聞かなければ、街のごろつきでも使って襲わせる感じかな?それに失敗したら街民(チンピラ)を負傷させた罪で領兵に僕達を捕縛させる。ここまでが既定路線かも」


「それだと、私達は捕まってしまうではないか!」


 ラグーネは自分達が捕まる運命になっている事に不満を漏らした。


「そうだね。でも、相手の思惑に乗る必要はないんだよ?あ、その前に横領の証拠を押さえたいかな?」


 タウロはそう答えると何か考えがありそうな笑顔を浮かべるのであった。

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