第246話 因縁深い相手

「先ずは、お礼を。タウロ殿は私の命の恩人です。ありがとうございます」


 ダレーダー伯爵は、深々と一冒険者であるタウロに頭を下げた。

 普通、お礼を言うにも言葉や手紙で伝える事はあっても、頭を下げる様な事はしない。

 貴族としての立場があるからだ。


 だが、ダレーダー伯爵はその辺りを無視した。


「頭を上げて下さい、ダレーダー伯爵。暗殺未遂事件の事を言っているのであれば、あれはお伝えした様にただの偶然ですから」


 タウロは、すぐにそう答えた。


「…いやしかし、実際命を救われたのは確かです。こんなにお礼の挨拶が遅くなった事も申し訳ない」


「いえ、それは僕が断った側面がありますから」


「こちらこそ、部下がタウロ殿を暗殺ギルドの片棒を担いでる可能性が高いと疑い、失礼を働いたとか。後日、報告を受けて驚きました。私も暗殺未遂の事実に疑心暗鬼になって人を避けていたので後手後手になってしまい申し訳ない。タウロ殿が刺客の呪術師が自害できない様に呪いをかけてくれたおかげで尋問官はスムーズに情報を引き出せたと申しておりました。そのおかげで、『暗殺ギルド支部殲滅作戦』に繋がりました、この功績は大きい。ありがとうございます」


「呪い返しはしましたが、それは偶然です。ただの結果論なので、感謝は不要です」


 タウロは、だから刺客から情報を引き出せたのかと内心思いながら答えた。


「いえいえ、それに今回も機密情報の入手や、うちの精鋭部隊に冒険者の方々の命を救ったのもタウロ殿達だと聞かされました。その事も、領主として感謝しております」


 ダレーダー伯爵はそういうと、また、頭を下げた。

 今度は、軽くだ。

 深々と下げるとタウロが嫌がると学習した様だ。


「その事については、僕のチームの手柄です。みんなが頑張ってくれました」


 その点については、伯爵の感謝を受ける事にした。


「ええ、良いチームだと、Aランク帯チーム『金のたてがみ』のリーダーが褒めてましたよ。そこで、みなさんは報酬をもう、貰ったと思いますが、領主としてこちらをみなさんにお渡しします」


 ダレーダー伯爵はそう言うと、部下にお金の乗ったトレイを持って来させた。


「今回の一連の手柄の中心にいたタウロ殿には、白金貨3枚、他のみなさんには、白金貨1枚ずつを差し上げます」


「こりゃ驚いた。太っ腹だな。わはは!」


 アンクは、遠慮せずに感想を言って笑うと、報酬を受け取った。

 みんなも、それに習って報酬を受け取る。

 タウロは、一枚だけ、受け取ると後は部下の捧げ持つトレイに戻した。


「報酬はみんなと同じでいいです。」


 タウロがそう答えると、ダレーダー伯爵も無理強いは良くないと思ったのか頷いて部下に残りを下げさせた。


「今回、タウロ殿を呼んだのはお礼が第一ですが、他にも機密情報を入手してくれたお陰で、暗殺ギルドのお金の流れがかなり見えてきた事の感謝を伝える事でもあります。その機密情報を精査した結果、タウロ殿とも全く無関係ではない話というか因縁があるというか……。実は、我々はある貴族派閥のお金の流れを追っていたのですが、その流れの一部が暗殺ギルドの機密情報と符合する部分がある事に気づいたのです」


「ちょっと、待って下さい伯爵。その話を僕達にするのはまずいでしょう」


 ダレーダー伯爵は大分きわどい話をしようとしていると、タウロは悟って止めた。


「確かに、この話はかなりまずいです。ですがタウロ殿が入手してくれた情報ですし、因縁もあるので聞いておいた方が宜しいかと思ったのですが…、聞きませんか?」


 ダレーダー伯爵はタウロの目を見つめると、沈黙した。


「…みんな、この話を聞きたい人以外は部屋を出て」


 エアリス達は微動だにしない、聞く気満々の様だ。


「…では続きをお願いします」


 タウロは、みんなに呆れる思いだったが、ダレーダー伯爵に話す様促した。


「…タウロ殿も、そちらのエアリス嬢もご存知でしょうが、私は宰相派閥に属しています。そして、今、その宰相派が対立し溝が深まっているのがハラグーラ侯爵派閥です。ハラグーラ侯爵派閥は貴族派閥として最大規模の勢力、最近では王家も凌ぐ勢いです。我々は危機感を抱き、この派閥の裏のお金の流れを調べていました。現在、このハラグーラ侯爵派閥で不穏な大金を動かしていると目されているのが、派閥の長のハラグーラ侯爵、重鎮のアヤンシー伯爵、そして、ミスリル鉱石で財を成しながらも最近までは動きが大人しかったサイーシ子爵です」


 タウロがピクリと反応する。

 確かに自分にとって因縁の相手だ。


 ダレーダー伯爵は話しを続ける。


「…特にこのサイーシ子爵の周囲で最近、大金が動くようになってからは、我々の勢力の貴族の間で不審な死者が何人か出始めたのです。すぐに暗殺ギルド絡みだとはわかったのですが、背後で動いてる者がわからない。そこで、派手にお金をばら撒き始めたサイーシ子爵を警戒していたのですが、尻尾が掴めず苦労していたのです」


「…そこに、今回の機密書類ですか?」


「ええ、暗殺ギルドにしてみたら取引相手は大事な金蔓ですから、独自に調べ上げていたようです。機密書類自体はほとんど暗号化されていましたが、数字の部分がサイーシ子爵の一部のお金の流れと符合したのです」


「つまり、宰相派の貴族の一連の不審死にサイーシ子爵が絡んでいるということですか?」


「ええ。我々はそう睨んでいます。今回の機密書類の入手もタウロ殿が得たのは何とも因縁深いと思ったものです」


 暗殺ギルドにはタウロは因縁深いが、まさかそこにサイーシ子爵も絡んでくると思っていなかったタウロであった。

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