第236話 実力者達の作戦会議

 支部長室での会議の翌日。


 朝一番でタウロ達『黒金の翼』は、『白夜』、『絶影』のBランク帯チームと一緒にダンサスの村を密かに後にし、作戦会議が行われる、とある森まで直行した。


 ダンサスの村からは1日半の距離で、ダレーダー領内でも、他の領地が近い場所であった。


「相手が暗殺ギルドとはいえ、こんな何もないところで作戦会議とは慎重すぎるくらいだな。」


『白夜』のリーダーが目的地に近づいた事を地図で確認した上でぼやいた。


「……街や村だと監視されてる可能性もあるからな」


 タウロ達三チームの背後から急に、1人の男が現れた。

 タウロ達一行は全員武器に手をやり、この男に警戒する。


「……これは驚いた。あんたは確かA-チーム『金のたてがみ』のエイコクさんだよな?まさかこんなところ出会えるとは……」


 目の前の黒装束の忍者の様な格好の男に、索敵系に強い『絶影』のリーダーが、目標とする存在に会えて密かに感動した。


「『金の鬣』!?超一流チームがなぜ!?」


『白夜』のリーダーもその名を知っているのか驚いた。


「……報告では、『白夜』、『絶影』あとは、敵の情報を持っているという『黒金の翼』というEランク帯チームが来ると聞いているが、どいつだ?」


 エイコクと呼ばれた忍者の男は、そう聞きながらタウロ達一行を不思議そうに見ている。


「僕達です」


 タウロが手を上げる。


「……これは驚いた。阻害系を持つ連中がEランク帯か。実力もありそうだがな」


 忍びの男エイコクは鑑定持ちなのかもしれない。

 その上でタウロを一層興味深そうに見ている。


「お前は鑑定で能力が見えるが…。いや、止めておこう」


 鑑定でタウロを見ていたエイコクだったが、タウロの『鑑定阻害(極)』により書き換えられている能力の不自然さに気づき、特殊な阻害系能力の持ち主だろうと推察したが、バラすのは良くないと思ったのだろうかすぐに止めた。


「三チームとも代表者だけついて来い。後はこの場で待機だ」


 エイコクはそう言うと森の奥に歩いて行く。


 慌ててタウロ達はその後を追っていき、エアリス達メンバーは木陰で休むのであった。



 森の奥に進むと、ダレーダー伯爵の精鋭部隊が駐屯していた。


 その中央に大きな幕舎が立っている。


 その幕舎には、部隊の隊長クラスと、各冒険者チームの代表が集まっていた。


「見ての通り、ダレーダー伯領内の冒険者ギルド各支部の腕利き冒険者だけが集まっている」


 エイコクはそう、タウロ達に説明すると、用意されて椅子に座る様に促し、その場から一瞬で消えた。


「!?」


『白夜』と『絶影』のリーダーは消えたエイコクに一瞬驚いた。


 一緒に驚いたタウロだったが、無駄とはわかっていながらも、『気配察知』でエイコクの気配を探してみた。

 だが、阻害系スキル持ちなのだろう全く察知できなかった。


 どうやって消えたのかわからないが、それも何かしらのスキルの一端なのだろう。

 さすが、Aランク帯というところか。


 暫らく待つと、人が後からも集まって来て幕舎に入って来ると椅子に座る。


 他のチームのリーダー達なのだろう、エイコクが道案内をしている様だ。


 そこに、集まったリーダー達の正面に、ボードが用意され、その前に8人の男女が現れた。


 中には移動したエイコクの姿もある。

 きっと、チーム『金の鬣』のメンバーなのだろう。


「では、自己紹介だけしておく。今回、ダレーダー伯に依頼され、指揮官を拝命した『金の鬣』のリーダーであるライガだ。こっちはダレーダー伯直属の隊長サム殿と、副隊長ラム殿だ。あとはうちのメンバー。」


 紹介された人達が軽く会釈する。


「早速だが、今回の作戦を説明する。今回──」


「ちょっと待ってくれ。うちの支部の冒険者からの情報をまずは聞いて欲しいんだが?」


『白夜』のリーダーが、手を上げてAランクチームのリーダーライガの説明を止めた。


「…確か『白夜』のリーダーだったな?トロールキング戦で活躍したと聞いてるが、俺の話が聞けないのか?」


 ライガが少し威圧的に話した。


「そうじゃない。今回のターゲットである暗殺ギルドの重要な情報があるから、それを聞いた後で作戦を決めて欲しいだけだ」


『白夜』のリーダーはライガの威圧に怯む事無く答えた。


「じゃあ、話せ」


 ライガは不機嫌になると椅子に座る。


 タウロはその場で立ち上がると、全員の視線を感じながら、刺客の村での範囲即死呪法について説明をした。


 それを聞いた一同はざわついた。


「マジか?」


「知らずに突入したらヤバい情報だぞ?」


「下手に近づけないな…」


 冒険者達のリーダーは腕を組むと考え込む。


「静かに!…その情報だが確かか?そんなものがあれば、先に潜入して情報を入手してきたエイコクが気づかないわけがないんだが。…エイコクどうだ?」


 ライガは情報を半信半疑で聞くとエイコクに確認する。


「…俺が潜入して探った限りではその様なものは見つけていない。だが、もしかしたら見落とした可能性はある。実際、地下の牢屋、宝物庫は簡単にしか確認していない」


 エイコクが慎重に答えると、ライガは苦虫を噛み潰した表情をした。


 すでに作戦は練られていて、みんなに説明後、実行の為に現場入りする手筈だったのだ。


「俺はエイコクがそんな怪しい物があったとしたら、見落とすとは思えない。本人はこう言っているが、俺はエイコクの実績を信じて予定通り作戦を実施したいのだが?」


 指揮官であるライガはそう言うと練られた作戦の実施を主張した。


 これは危険な流れの気がする。


 タウロは内心で、どうしたのものかと考えを巡らせるのだった。

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