第227話 竜人族の村(3)

 族長の屋敷に招かれたタウロ達は、屋敷内の展示してある品々に驚かされた。


 それはどこから入手してきたのか珍しい魔道具や、鎧、魔剣、聖剣の類のものなどで、アンクは驚いて一つ一つをじっくり見て回っている。


 エアリスはタウロが作る魔道具などで見慣れているので、驚く事はなかったが、タウロは『真眼』でその品々の価値がわかる為、内心かなり驚いていた。


 僕が創造魔法で作った魔刀や、魔槍、大魔剣も性能的には引けを取らないと思うんだけど、ここにあるものはみんな価値が高いな…。もしかして、僕の作るものも価値は高いのかもしれない……。


 タウロは少し考え込みながら、自分の作る鑑定阻害付き武具の評価を改める事にした。


 族長のリュウガにタウロ達は席を勧められてつくと、族長リュウガは改めて、タウロにお礼を言った。


「我々はタウロ殿に命を救われました。そして、うちの妻もその1人です。妻はあの時、生死を彷徨い、最早駄目かと諦めそうになっていました。なのでタウロ殿が提供してくれた薬草、そして教えてくれたレシピによって出来たポーションが、沢山の命を文字通り救ったんです。本当にありがとうございます……!」


 族長としてではなく夫としてのお礼だろう、深々と頭を下げた。

 妻のオリョウも一緒にまた、頭を下げた。


「頭を上げて下さい。僕は大した事はしてません。ここにいるラグーネが、はるか遠いダンサスの村まで治療法を探しに訪れなければ、何も起きなかったんですから。ラグーネこそ最大の功労者だと思います」


 タウロはラグーネの功績を讃えた。


「私は、竜人族を助ける為に旅立った仲間の一人にすぎない。私でなければ他の者が来てたと思う。タウロに出会えたのは偶然だったが、手を差し伸べてくれたのはタウロだ。そのおかげで竜人族の多くの人々の命を救われたのだから、私達がお礼を言うのは当然だ」


 ラグーネは、そう言うとみんなと一緒に頭を下げた。


「だから頭を上げて下さいって!ラグーネが僕達の仲間になってくれた事だけでもありがたいのに、これ以上頭を下げられると困ります」


 タウロは苦笑いするとそう言ってみんなの頭を上げさせた。


「それはすまない。……では話題を変えよう。今日の訪問は『空間転移』の実験だったとか?」


 族長リュウガがタウロ達の訪問について質問した。


「はい、実は──」


 タウロは今日来た理由について説明した。


「……それは驚いた。その様な使い方があるとは……。そもそもラグーネの『次元回廊』もとても珍しい能力で役に立つので、まだ未熟とはいえ治療法探しの為に旅に出したのです。その特別な能力を持つラグーネが、我々が渇望する『空間転移』を持つタウロ殿に出会う事がそもそも奇跡でした。そんな中で、特殊な二つの能力を掛け合わせる発想は竜人族の我々でも思いつかなかったでしょう」


 あ、ラグーネは代表に選ばれた事を誇ってたのに……未熟って言われちゃった……。あ、凹んでる……!


 タウロがラグーネに視線を送ると、うな垂れていた。


「そんなに『空間転移』は珍しいのですか?」


 タウロはまだ、『空間転移』についての活用法が途上段階だったので、詳しそうな族長リュウガから聞き出そうと質問した。


「ええ。歴代勇者でも覚えた者は稀ですから。それにダンジョン攻略を長年目指してきた我々としては、『空間転移』は喉から手が出るほど欲しいものです。私の代でもダンジョン攻略は悲願なのでラグーネの『次元回廊』を得て道筋が見えたので、大規模なダンジョン攻略組の編成をしようとしてたのですが、その矢先に今回の流行り病でうやむやになっていました。流石に沢山の勇者を出した竜人族でも病には勝てないという事を証明しそうでした。タウロ殿のおかげで助かりましたが。ははは」


「『空間転移』はダンジョンで力を発揮すると聞いたのですが、どういうことですか?」


「ダンジョンには、階層を一定階数潜ると下り階段の横に安全な避難所でもある『転移室』が生まれます。『空間転移』は、その部屋から下の部屋に自由に行き来が可能になるので、『転移室』がある階層まではあっという間に行ける様になるのです。それはつまり攻略が容易くなるのですよ。ですが『空間転移』は、稀有な能力。これまでは自力で潜っては戻り、潜っては戻りを続けるしかありませんでした。しかし、ラグーネが『次元回廊』を覚えた事で食糧事情や、武具の修理等の問題が解消されたので、最大1年は潜り続ける大規模な遠征隊を組む事になったのが数か月前です。『空間転移』はそれらの問題どころか人の行き来についても問題解決するのです。さらに、離れたダンジョン同士の行き来も可能とあっては、『空間転移』が欲しくない竜人族はいません!」


 族長リュウガの説明にも熱を帯びた。


 だがタウロはそのリュウガの説明で引っ掛かったのは別の事だった。


 最大1年潜り続けるって、ブラック過ぎない!?


 6年間の拷問みたいな修業期間といい、竜人族のストイックさにドン引きするタウロであった。

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