第219話 魔法の実験

 エアリスと二人、村外れの森に来ると早速新たな能力の『魔力操作(極)』の実験をする事にした。


 まずは、試しにと生活魔法レベルしか使えないが、水の精霊魔法で水を出してみる。


「いつも通り、水に困りはしない程度の魔法だね。……魔力の減りは……、以前よりもさらに少なくなってるっぽい。多分、無駄に消費していた分が無くなった感じかな」


「そういう事なの?という事は、私が唱えてる魔法も無駄が多いって事ね……。『魔力操作』……、私も覚えたい……」


「魔力消費が適正になった事が、わかったところでもうひとつの実験をしてみるね」


 タウロは本来の目的がこちらとばかりに意味ありげに言った。


「他に何かあるの?」


「魔力操作、それも、『魔力操作(極)』だからね。魔力の消費適正化だけじゃなく他にあってもおかしくないと思わない?」


「他?」


 エアリスは思いつかないので、タウロが何を言いたいのかわからない。


「例えば、この生活魔法での水だけど……」


 タウロが精霊魔法でまた、水を出して見せる。


「?」


「それを僕のイメージと魔力の操作で……」


 ちょろちょろと出ていた水が、圧力が加わった様に少しずつ勢いよく、そして、鋭くタウロの手元から出てくる様になる。


 そして、木に向かって、その水を向けると木に傷が付いた。


「え!?」


 エアリスがその威力に驚く。


「さらに、ここに魔力を加えると……」


 タウロの手元から細く出ていた水はさらに鋭さを増していく。


 すると木を傷つけるどころか鋭く刃物で切っているかの様に切断していく。

 木は全て切られる前に重さで傾くと音をたてて倒れた。


「これって、どういうことなの!?」


 タウロの初級レベルの精霊魔法が木を切断したのだ、理解が追いつかなかった。


「水に魔力で加圧をしてウォーターカッター切断という状態を作ったんだ。もちろん、初級の精霊魔法である事に変わりはないけど、それを『魔力操作(極)』を使って改造してみた感じかな。これなら、初級魔法でもイメージと操作で高威力を発揮できるね」


「……?」


 タウロの説明にもエアリスはまだ、信じられないという顔をした。


「他にも火の精霊魔法だと……」


 そう言うとライターの火の様な炎を指先に出すと、その炎が赤色から見る見るうちにゴーという音と共に青紫色へと変化していく。


「これなら、火を付けるだけでなく、鉄も溶かせる威力になるよ」


「初級の精霊魔法で、鉄も!?」


「ガスバーナーみたいなものかな、あ、高温の炎ね」


「そんなの上級魔法と同じじゃない!」


「でも、基本は初級魔法だから、使えるのは溶接とかこれも切断とかかな」


「……という事は『石礫』も?」


「そうだね。こぶし大の石の形状を鋭くして『石の穂先』にすれば殺傷力は上がるね」


 そう言うと実際に土の精霊魔法『石礫』を魔力操作で変化させると木に目がけて投げる動作をする。

 木に向かって飛んでいった『石の穂先』は深々と突き刺さる。


「もうそれ、土の攻撃魔法の『岩槍』と変わらないじゃない……。……こっちの方が小さいけど威力が変わらないからいいわよ?」


 エアリスは呆れた。


「あ、良い事思いついた」


 タウロはそう言うと、また、『石礫』を魔力操作で変化させると、無数の小さい粒に変えた。

 それはまるで、弾丸の形状だ。

 それを散弾銃の様に飛ばすと、木にその弾丸が突き刺さった。

 威力は落ちるが、広範囲を攻撃できそうだ。


「……もう何でもありね。魔法使いの私が出来ない事ばかりじゃない」


 エアリスは匙を投げた。


 タウロの実験は続く。


「風なら、今までのそよ風を圧縮させるイメージで魔力操作して『かまいたち』に……」


 タウロはそう言って木に向かって手をかざすと見えない刃で木に切り傷が出来た。


「これ、他のに比べたらあんまり威力はなさそうだけど、見えないのはいいわね」


 エアリスの指摘に、使い方次第かなと、タウロは手応えを感じた。


「あれは試しておかなくていいの?」


 エアリスが思い出した様に提案する。


「今から試そうと思ってた」


 タウロはエアリスが言いたい事がわかったのか、最初から試すつもりだったのか笑みを漏らした。


「『空間転移』!」


 タウロは唱えると、1m先に一瞬で移動した。


「……これも、魔力の消費が以前よりはかなりマシになってるみたいだ!」


 タウロは素直に喜んだ。

 以前のままだと、魔力の減りが大きすぎて使えるタイミングが無いと思っていたのだ。

 これなら、数回連続で使えるかもしれない。

 以前までがどんなに魔力を無駄に垂れ流していたのかがわかった。


 他にもラグーネにお願いしてこの『空間転移』とあれを絡ませて試したい事もある。


「じゃあ、最後は創造魔法ね?」


 エアリスが、一番タウロが使うのを避けている魔法の使用を提案するのだった。

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