第206話 新生黒金の本領

 九死に一生を得た領兵隊の隊長はこの救援してくれた冒険者達にお礼を言った。


「助かった!ダレーダー支部の冒険者か?」


 聞かれたアンクが俺か?と、いう顔をしてタウロの方に視線を送った。


 タウロは領兵達にポーションを渡して怪我の治療にあたっている。

 エアリスは治癒魔法だ。

 ラグーネは、仕留めた魔物の討伐証明の為に解体して、マジック収納に収めていく。

 アンクもそれを手伝っていたのだが、年長者なのでリーダーだと勘違いされた様だ。


「俺達はダンサス支部の冒険者だ。礼は……別にいいよな、リーダー?」


 アンクはタウロに声を掛けた。


「うん。僕達はフリークエストの最中でしたので、仕留めた魔物は頂きますから、感謝は不要です。お互い自分の仕事をこなしたという事でいいかと」


 タウロは恩を売るでもなく、仕事をしただけというスタンスをとった。

 後々お礼と称して呼び出されるのは面倒だからだ。


「君がリーダーなのか?若いな……。我々としては助けられた事に変わりはない、感謝する。あと、言い訳をするようだが、そのトロールは頭の悪いトロールの中では比較的に頭の良い希少種、トロールリーダーだ。我らはそいつの罠にかかってしまってこの有様だ、情けない話だが…。一応、冒険者達の間ではCランク帯討伐対象だったはずだから、良い報酬になるはずだぞ」


 これは、いい情報だ。

 止めを刺したラグーネはもちろん、一緒に討伐したみんなの評価も上がるだろう。


「情報ありがとうございます。では止めを刺した魔物の手柄はうちで引き受けてよろしいですか?」


 タウロが交渉する。

 後で手柄を主張されても困る。


「もちろんだ!うちもこのトロール達に遭遇するまではそれなりに討伐していたのでな。これ以上は求めんよ。あ、ポーション代は、ギルドを通じて請求して貰えれば手続きは簡単に済ませられると思う、本当に助かった。そうだ、君らのチーム名は?」


 隊長は、話の分かる人物の様だ、取り分で揉める事もなさそうだ。


「わかりました。それではそういう事で。うちは『黒金の翼』です」


 タウロはお辞儀をするとラグーネに呼ばれたのでその場を離れた。


「……『黒金の翼』か。初めて聞く名だが、きっとダンサス支部でも上位のチームなのだろうな」


 感心する隊長だったが、肝心のダンサス支部では小物扱いされている事を知る由もなかった。


「タウロ、このトロールで最後だが私のマジック収納がいっぱいだから任せていいか?」


 ラグーネのマジック収納はそんなに大きくない様だ。


「じゃあ、他の魔物も預かるから出していいよ」


 タウロはそう答えるとトロールをマジック収納に納める。


 ラグーネは頷くとその前の戦闘で仕留めたオークも全て出した。


 オークの肉は食用として売れるので丸々持って帰ればお金になるのだ。


 それに、大好きな揚げ物であるとんかつの原材料なので、ラグーネには捨てるという選択肢はなかった。


 山の様に積みあがったオークをタウロは全て収納した。


 何気に見ていた隊長は、突然目の前に沢山出されたオークの山に度肝を抜かれたのだが、それが一瞬で消えるのにまた、驚かされた。


 驚く領兵隊をよそに、チーム『黒金の翼』は、帰り支度を整えると、隊長に再度お辞儀し、挨拶すると帰路に就くのだった。



「これで、ラグーネはEランク帯に昇格できるかもね!」


 エアリスは嬉しそうにタウロに話を振る。


「そうだね。今回、ラグーネにはもの凄く頑張って貰ったから、きっと大丈夫だよ」


 タウロが太鼓判を押す。


「そ、そうか!私もやっとみんなと同じEランク帯になれるのか!楽しみだな♪」


 ラグーネにとって、一人だけFランク帯だった事はずっと悩みの種であった。


 みんなが止めを自分に回していたのはこの為だったのだ、頑張って良かったと素直に思うラグーネであった。


「うまくいったらみんな昇格するかもしれないな」


 アンクが手応えを口にした。


「僕とエアリスはE+だから、Dランク帯への審査はまた別でわからないけど、アンクはEに上がるかもね」


 タウロも今回のフリークエストには手応えを感じていたので報告が楽しみだった。




 冒険者ギルド、ダンサス支部、ロビー受付。


「え?これみんな今回のクエストでの討伐なの!?ちょ、ちょっとみんなタグを提出してね確認するから!」


 応対したクロエはこのタウロ達の戦果に驚いた。


『黒金の翼』を過小評価していたわけではない。


 将来有望なチームとして今でも期待している。


 アンクとラグーネの加入で以前にも劣らないチームになったと思っていたが、格上のオーガと希少種のトロールリーダーも混ざっている上にオークの数も凄い。


 どうやら、自分達のランク以上の魔物を狙い撃ちして狩ってきた様だ。


 タグを調べると、沢山止めを刺しているのもFランクのラグーネだ。


 支部長のクロエは、自分が評価している以上に、このチームは凄いのだと、魔道具で確認したタグに残された記録を見て思い知るのだった。

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