第204話 小物チーム

 チーム『黒金の翼』が、四人になった事でやれるクエストは増えたのだが、ラグーネがまだFランクという事で基本は薬草採取とコボルト討伐、たまにタウロの『気配察知』にかかるゴブリンの退治、そして、ダンサスの村に貢献できるGクエストが中心だった。


 日々、そのような感じだった為、他の一般の冒険者の目からは留守の間に派手に活躍していたシンとルメヤが抜けた事で『黒金の翼』は大幅に戦力が落ちた小物チームと映るようになっていた。



 とはいえ、美女の獣人族(に見える)のラグーネと、大層な大剣を下げているアンクは目を引いたのだが、子供リーダーのタウロの下に付いてる時点で腕の方は大した事が無いだろうと思われていた。


 そんなある日の冒険者ギルドにあるクエストが張り出された。


 それは、期間限定のフリークエストだった。


 フリークエストは、基本、どのランク帯でも受けられるクエストだ。


 討伐対象が幅広い、もしくは数が多いので多くの冒険者に参加を求める為に用意される様なものだ。


「これって、上のランク帯に招集があったトロールキング討伐戦の残党狩りって事よね?」


 エアリスが、内容を見て言った。


 そう、ランク的に格下のタウロとエアリスが先のオーガ討伐戦に参加する事になったのも、このトロールキング討伐戦に上の冒険者が招集されていたからだった。


「そうだね。そのトロールキングがいろんな沢山の魔物を率いてたから、冒険者による討伐後、その魔物達が各地に散ってその残党狩りだね」


「そんなトロールキングが率いていた魔物なら強いのがいるんじゃないのか?」


 ラグーネが指摘する。


「キングと名が付く魔物は他の魔物にも影響を与える存在だからね。トロールキング戦ではトロール以下、ハーピー、オーガ、オーク、ゴブリン、コボルトなど幅広い魔物が集まって来てたらしいから、ピンキリだね」


「なるほどな。つまり、残党魔物に遭遇したら倒せる相手なら狩りまくれば評価されるって事か!」


 アンクが、何か察した様だ。


「そういう事だね。冒険者ギルドとしては、トロールキング討伐後、残党の魔物のせいで近隣の治安が悪化してるから、早めに治安回復する為にこのクエストを出したんだと思う」


「どちらにせよ、うちのチームにはチャンスっぽいな」


 アンクがニヤリと笑う。


「チャンス?」


 ラグーネはまだ、わからないらしい。


「つまりね。ギルドランク的に格上を倒しても普段は評価の対象にならなかったけど、この期間限定フリークエストなら評価されるの。だから結果次第でラグーネや、アンクも短時間でのランクアップが見込めるって事よ」


 エアリスがラグーネに今回のチャンスの理由を丁寧に教えた。


「おお!そういう事か!結果次第では私もすぐにEランク帯に上がれるという事だな!」


 ラグーネもやっと、これがどんなにいいチャンスなのか理解したのだった。


 早速、チーム『黒金の翼』は、このフリークエストを受ける事にした。


「うん、ラグーネちゃんもアンクさんも実力はあると思うから、OKだけど、くれぐれも強そうな相手の時は逃げてね?トロールなんて単体でもD+チーム以上が討伐対象なんだから」


 受付をしていた冒険者ギルド支部長のクロエが、タウロ達に忠告した。


「はい。もちろん、勝てない相手なら逃げます」


 と、答えるタウロだったが、今のチームだったら、トロールなら十分勝てる戦力だと思っていたので、さほど心配はしていなかった。


 もちろん、無理はするつもりはない。

 今回はラグーネが一人ずっとランクを気にしているので、Fランク帯からEランク帯に上げられればそれでいい。

 なのでトドメはなるべく、ラグーネにして貰う流れで立ち回るとしよう、と思うタウロであったが、それはアンクとエアリスも同じ考えだった。




 その結果。


 ダレーダーの街近郊の森。


「……はぁはぁ。気のせいか?私ばかり止めを刺してる気がするのだが……?」


 ラグーネは、五体目のオークの心臓を槍で一突きにしながら、流石に疲れが見えてきていた。


 ここまでラグーネは、オークだけでなく、沢山のゴブリンはもちろん、オーガも一体倒している。


「やっぱり体力自慢のラグーネでも、疲れるよね。じゃあ、休憩して次からはアンクが止めは代わって上げて。ラグーネは守りに集中してね」


 タウロもさすがにこれはやり過ぎたと反省すると、ラグーネの体力回復を優先する事にした。


 休憩をしていると、タウロの『気配察知』の限界ギリギリに人の反応があった。


 他の冒険者かと思っていたら、隊列を組んで規則正しい陣形を組んで魔物と戦っている様だ。


 もしかしたら、ダレーダー領の領兵隊かもしれない。


 残党狩りには冒険者だけでなく領兵隊も沢山参加しているのだ。


 こちらに後退する様に近づいてきている。

 どうやら相手の魔物が強敵なようで押されてると思われた。


 タウロは、『真眼』で魔物のシルエットを確認してみると、上空からハーピー二体、地上からはオーク十体とそれを率いていると思われるトロール一体が映し出されるのであった。

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