第199話 大量発生の原因

 タウロは沼地の中心までやって来た。


 周囲の瘴気は濃く、毒耐性が無い者にはここまで辿り着くのは至難の業だろう。

 ましてや、ぬかるむので進むのも容易ではない。


 沼地は汚染が酷く、元からいた生物も死んで浮かんできていた。

 中には腐って悪臭を放っている死骸もある。


 タウロの『気配察知』に引っ掛からないが、身を隠せていない大きな大毒蛙が肉眼で捉えられた。

 どうやら、阻害系スキルを持っている種の様だ。


 他の大毒蛙が毒々しい青色に対しその大毒蛙は紫色と、いかにも危険ですと言わんばかりの色だ。


 大きさは、タウロと同じくらいはあるだろうか?


「どうやらあれが、この沼を毒の沼地に変える程、大量発生させた主かな?」


 そう予想すると、早速仕留めようとタウロが静かに弓を振り絞る。


 するとタウロに狙らわれているのを察したのか、大毒蛙・亜種は、潜って身を隠した。


「もしかして、意外に頭が良い?」


 沼地だから深さはないはずだが、『気配察知』にかからないので、タウロは接近して仕留める事にした。


 中央に進むと、周囲に潜っていた大毒蛙がタウロの周囲に寄ってきた。


 どうやら、敵認定された様だ。


 他の大毒蛙は『気配察知』で確認できるので容易に躱し、小剣で一突きで仕留めていく。

 たまに最後の反撃とばかりに毒液を吐いてくるが、残念ながらタウロは毒完全耐性を持っているので、びくともしない。


 ただし、毒液がべっとりと革鎧に引っ付くので不快感は最高潮だった。

 なのでそういう意味ではタウロへのダメージは何気に大きかった。


「あとで、まとめて『浄化』しないと……。これはきつい……!」


 タウロは嫌な顔をすると、ボスと思われる亜種を探す。


『気配察知』で確認できないから、水面のシルエットを追うしかない。


 周囲を探していると、急速にこっちに接近するシルエットを捉えた。


『気配察知』では確認できない、これは亜種だ。


 小剣を構えて迎え撃つ姿勢を取った。


 すると、ピタッと止まった。


 その代わりなのか別の大毒蛙が背後からタウロを襲ってくる。


「連携するの、この蛙?」


 タウロは振り返って一突きで大毒蛙を仕留めると例によって顔に毒液をかけられる。


 そこへ、水面から顔を出した亜種の長い舌が足に絡まってきた。


 ジュッ


「熱い!?」


 それは強力な酸性の効果を持った舌だった。


 激痛も気にせず、タウロはすぐに小剣で舌に斬りつけようとすると、亜種は舌を戻して水に潜る。


「やっぱり、知恵があるね、この亜種」


 タウロは、痛みに顔をしかめながら『超回復再生』で足の怪我を自動治療し、小剣から弓に切り替えて構える。


 そして、次の瞬間、『浮遊』を解いて水に落ちた。


 胴体まで水に沈むタウロだったが、次の瞬間には光の矢を発動して水面下に矢を放った。


 そう、『浮遊』状態で、光の矢を使用する事が出来ないのだ。


 光の矢は水を切り裂き、水面に浮かぶシルエットに向かって吸い込まれていく。


 水しぶきを上げた次の瞬間、音もたてず、ぷかっと白いお腹をした亜種が浮かび上がってきたのだった。


「仕留めた……」


 タウロは、どんどん沼地に沈んでいくので、すぐに『浮遊』を使って水面に浮かび上がった。


「大元は絶ったけど、三人で大毒蛙狩りはしないと駄目だよね?」


 周囲にいる大量の大毒蛙を見て、うんざりするタウロであった。



 沼地の周囲はラグーネが、積極的に槍で一突きにしながら、大毒蛙を狩っていった。


 エアリスは結界で覆った沼地の外から、魔法の火矢で大毒蛙を仕留めていく。


 タウロは珍しく小剣や弓でなく、槍に持ち替えて沼地の上を『浮遊』で歩きながら大毒蛙を突いて回る作業に移るのだった。



 この掃討戦は、丸三日かかった。


 終わってみれば、三百匹以上の大毒蛙を仕留めるという大規模掃討戦だった。


 正直、ここまでやるクエスト依頼内容ではなかったのだが、この仕事に自分達が適しているのは確かだったので、依頼主とギルド側の手間を省く形でやる事にしたのだった。


 村長は、毒の瘴気が晴れ、その原因も駆除された事に大いに感激して三人の歓迎会をしてくれた。


 とはいえ、十八歳のラグーネ以外、お酒は飲めないので歓迎会も簡単に済ませて貰い、三人は早々に帰る事にした。


「それでは、また何かありましたら冒険者ギルドに依頼して下さい」


 タウロは帰り際に営業すると、お辞儀をする。


「本当にありがとうございました!依頼以上の事をして頂きましたので、報酬もその分ギルドにお支払いします!」


 村長と村人達は、何度頭を下げても足らないとばかりに幾度も頭を下げて、お礼を言い、帰路に就くチーム『黒金の翼』に手を振って見送るのだった。

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